惑星協会は2019年7月31日、ソーラーセイル衛星「ライトセイル2(LightSail 2)」が、太陽光を使って軌道を上げる実証試験に成功したと発表した。

ソーラーセイルの実証成功は、日本のIKAROSに続いて世界で2番目。また、地球軌道においてソーラーセイルによる軌道変更に成功した初の衛星となり、超小型衛星がソーラーセイルで飛行したのも初の事例となった。

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    ソーラーセイルを広げた「ライトセイル2」と地球 (C) The Planetary Society

ライトセイル2

ライトセイル2は、宇宙探査の啓蒙活動などをおこなっている国際NPO「惑星協会(The Planetary Society)」が開発したソーラーセイル(太陽帆)衛星である。ソーラーセイルとは、巨大な帆などで太陽の光を反射し、その光子(フォトン)がもつ運動量の一部を利用することで推力を生み出すというもので、風を受けて進む帆船になぞらえてそう名付けられた。

ライトセイル2の目的は、「太陽の光だけで進む小型の衛星を地球の軌道に送ること」、そして「太陽光で軌道を変える技術を実証すること」。開発には、惑星協会の会員のポケット・マネーのほか、クラウドファンディングも活用され、国のお金などに頼らずに造られている。

衛星の本体は、一辺が10cmの立方体をした超小型衛星「キューブサット」を3つつなげた、「3U」と呼ばれる規格の機体で、打ち上げ時の質量はわずか5kg。そこから、一辺5.6m、32m2の広さをもつ四角形のセイル(帆)を広げる。このセイルは、「マイラー」と呼ばれるで軽くて丈夫な素材に、アルミニウムをメッキして造られている。

また宇宙空間では、四角形のセイルを、レジャーシートのようにただ広げることはできない。そこで、四角形のセイルを4つの三角形に分け、4本の伸びる支柱(ブーム)を使って、衛星本体から放射状に広げていくという仕組みをしている。

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    ソーラーセイルを広げたライトセイル2の図 (C) The Planetary Society

ライトセイル2は2019年6月25日、スペースXの「ファルコン・ヘヴィ」ロケットで、米空軍などの衛星とともに打ち上げられた。7月2日には、ライトセイル2を格納していた放出機構から放出され、単独での宇宙飛行を開始。7月24日にはセイルの展開にも成功し、宇宙の大海原へと出帆した。

そして、その後の軌道データの分析で、太陽光によって遠地点高度(地球から最も遠い点)が約2km上昇したことを確認。なお、近地点高度(地球に最も近い点)は同じくらい下降しているものの、これは大気との抵抗によるものと考えられている。

これらの上昇率も下降率も事前の計算と一致していることから、惑星協会では「ライトセイル2は太陽光によって軌道を変える実証に成功した」と結論づけた。

惑星協会のビル・ナイCEOは「惑星協会にとって、この瞬間は、何十年にもわたる努力の結晶です」と語る。「ライトセイル2は宇宙航行と宇宙探査を大きく変えるゲーム・チェンジャーとなります」。

運用チームは今後、約1か月ほど軌道を上げ続ける予定だという。またこの間、衛星のソフトウェアの改良や運用の自動化などにより、機体の姿勢、すなわち太陽光の入射角を制御しやすくし、高度をより効率よく上げるための実証もおこなうとしている。

太陽光で遠地点高度が上がる一方で、近地点高度は大気との抵抗で下がっていくため、ライトセイル2は約1年で大気圏に再突入し、燃え尽きる見込みだという。

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    打ち上げから7月31日までの、ライトセイル2の遠地点と近地点を示した図 (C) The Planetary Society

ソーラーセイルの歩み

ソーラーセイルの概念は、古くは1608年に、天文学者のヨハネス・ケプラーが考案したとされる。20世紀に入ると、ロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキーなどによって理論化された。

その後、1964年にはSF作家アーサー・C・クラークが『サンジャマー(Sunjammer)』というソーラーセイルが出てくる作品を発表するなど、SFの世界で活躍。1975年には、NASAがハレー彗星を探査するソーラーセイル探査機の検討を実施し、翌76年に天文学者、そして惑星協会の創設者の一人でもあるカール・セーガンによって、そのアイディアは世間へと広まった。

しかし、ソーラーセイルは長らく実現することはなかった。その背景には、セイルに使えるほどの薄くて軽い素材が長い間生み出されなかった、また、そうしたセイルを宇宙空間で広げる技術がなかったことなどがある。

その後の技術の進歩を受け、1999年に惑星協会は「コスモス1(Cosmos 1)」というソーラーセイルの実験機の開発に着手する。コスモス1は2005年、ロシアのロケットで打ち上げられるも、打ち上げ失敗という結果に終わった。

それでも惑星協会はあきらめず、2009年には「ライトセイル(LightSail)」の開発をスタート。2機がほぼ同時に開発され、2015年には1機目の「ライトセイル1」が米国のロケットで打ち上げられ、展開技術の実証などに成功した。

一方で、その5年前となる2010年には、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、金星探査機「あかつき」と相乗りで、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の打ち上げに成功。地球脱出軌道に乗ったあと、セイルの展開にも成功し、世界で初めて成功したソーラーセイル宇宙機となった。

そして今回、ライトセイル2によって、惑星協会も長年の悲願だったソーラーセイルの打ち上げと、セイルを使った宇宙航行の実証に成功した。

今回の成功により、ライトセイル2は、IKAROSに続いて世界で2番目に成功したソーラーセイルとなった。また、地球周回軌道においてソーラーセイルによる軌道変更に成功した初の衛星となり、また超小型衛星がソーラーセイルで飛行したのも初の事例となった。

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    ライトセイル2の想像図 (C) Josh Spradling / The Planetary Society

出典

LightSail 2 Spacecraft Successfully Demonstrates Flight by Light | The Planetary Society
LightSail 2 Spacecraft Successfully Demonstrates Flight by Light | The Planetary Society
LightSail 2 Successfully Deploys Solar Sail | The Planetary Society
LightSail | The Planetary Society

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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