1日に11時間を超えて働く中年男性は、標準的な勤務時間の男性と比べて急性心筋梗塞を起こすリスクが1.6倍になる―。こう警告する研究成果を国立がん研究センターと大阪大学医学部(公衆衛生学)の研究グループが15日発表した。働き過ぎは心臓に負担をかけることは容易に想像できるが、1万5千人を対象にした大規模調査が働き過ぎは少なくとも心臓に悪影響があることを裏付けた形だ。50代の男性会社員のリスクは2.6倍だったことから特に注意が必要なようだ。

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    (提供・国立がん研究センターと大阪大学の研究グループ)

労働時間の長い人は標準的な労働時間の人と比べて健康状態が悪くなることは明らかだが、多くの日本人を対象に長期間調べた調査はこれまでなかったという。国立がん研究センターと大阪大学の研究グループは、1993年に茨城、新潟、高知、長崎、沖縄の5県に住んでいた当時40~59歳の男性約1万5000人を対象に、労働時間を含めた生活内容や健康状態を2013年までの20年間追跡調査した。

その結果、212人が急性心筋梗塞を発症していた。この数字を、心筋梗塞のリスクを高めるとされる喫煙や睡眠時間といった要因で差が出ないように疫学研究上の調整をして勤務時間との関係を分析した。すると、1日11時間以上働いていた長時間労働のグループは急性心筋梗塞になるリスクが標準的なグループと比べて1.6倍高かった。

分析対象を会社勤務の男性に限ると、11時間以上のグループは7~9時間のグループと比べてリスクは2.1倍。11時間以上のグループの中でも調査開始時年齢が50~59歳の人に限定して分析するとリスクは2.6倍も高くなっていた。経営者や自営業の人は長時間働いてもリスクの上昇はみられなかった。長時間労働と脳卒中との関係についての関連性は確認できなかったという。女性については、急性心筋梗塞になる割合が男性に比べて低いなどの理由から今回は分析対象になっていない。

同グループは、さまざまな生活習慣とがん、脳卒中、心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てる研究を続けている。今回の結果について「調査対象が地方の労働者であるため、都市部をはじめ、日本全体の労働者に対して一般化することには慎重にしたい」としつつも、長時間労働のために睡眠時間が短くなっての疲労回復が十分できなくなったり、精神的ストレスが増加することが関係しているとみている。

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