たまにクルマを洗ってワックスをかける。その直後に雨が降ると、また汚れて残念ではあるが、雨粒が小さな玉になってボンネットの上で踊っているのを見るのも、悪くはない。ボンネットの表面に薄く広がったワックスが、水をはじいているのだ。

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    写真1 ボタンヅルワタムシの虫こぶ。直径は約1センチメートル(写真はいずれも植松さんら研究グループ提供)

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    写真2 甘露(白い球)を巣の外へ押し出すボタンヅルワタムシ。右下の横棒の長さは0.5ミリメートル。

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    写真3 虫こぶの内壁に生えた細長いケヤキの毛。毛にまとわりついているのが、ボタンヅルワタムシが出したワックス。右下の横棒の長さは100分の1ミリメートル。

自然界にも水をはじくものがある。有名なのがハスの葉だ。ハスの葉の表面に落とした水は玉になり、ごみや汚れをからめとりながらコロコロと転がり落ちる。ハスの葉が持つこの性質を「ロータス効果」という。「ロータス」は、その名もずばりハスのことだ。

ハスの葉の表面には細かい毛が生えていて、その毛から、さらに細かいワックスの毛が生えている。そのため水滴は、葉の表面にベタッと張りつくように広がることなく、まるで宙に浮いているように水玉のままでいられる。

ハスの葉の場合は、ハスが自分のために自分で撥水(はっすい)効果を高めているわけだが、そうではなくて昆虫が、自分の暮らしに役立つように植物をあやつって、葉に生えた毛の数を増やし、しかも、ごていねいに毛をワックスで覆って高い撥水性を発揮させている例を、東京大学の植松圭吾(うえまつ けいご)助教らの研究グループが初めて見つけた。

植松さんらが調べたのは、ボタンヅルワタムシという種類のアブラムシがケヤキの葉の裏に作る球状の「虫こぶ」。かれらが集団で暮らすために作った中空の巣だ。

アブラムシは、おしりから「甘露」とよばれる汁を出す。ボタンヅルワタムシも甘露を出すので、それをつねに虫こぶの外に捨てなければ、中が甘露で汚れてしまう。甘露の海で溺れてしまうかもしれない。だから幼虫が、虫こぶの割れ目から甘露を外に押し出して捨てている。もし虫こぶ内壁の撥水性が高ければ、ハスの葉を水滴が転がるように、甘露を小さな水滴のまま簡単に外に押し出せる。内壁が甘露でべたべた汚れてしまうこともない。では、虫こぶの内壁には、どれくらいの撥水性があるのか。

植松さんらが虫こぶを割って調べたところ、その内壁は、きわめて高い撥水性をもっていた。水をたらしてできた水滴の形は球に近く、「超撥水」に分類してもよいほどの高い撥水性だったという。

この超撥水性は、ボタンヅルワタムシがふたつの方法の相乗効果で実現させたものだ。ひとつは、ボタンヅルワタムシがケヤキの葉に小さな毛を密に生やさせたこと。虫こぶを作る葉の裏には、長さ0.1ミリメートルくらいの毛が、1平方ミリメートルあたり7本ほど生えていた。これが、虫こぶの内壁では約220本に増えていた。30倍もの密度だ。

それだけでもかなりの撥水性を発揮するのだが、ボタンヅルワタムシは、これに加えて、毛にワックスをかけていた。アブラムシは、体表から粉状のワックスを分泌する。これがワックスのもとだ。ボタンヅルワタムシは、まずケヤキになんらかの働きかけをして「毛」の密度を高め、さらに自分が分泌した「ワックス」をそれにかける2段階戦略で、虫こぶ内壁の超撥水性を獲得していた。ハスの葉も「毛」プラス「ワックス」で高い撥水性を実現していた。ボタンヅルワタムシは、ケヤキをうまくあやつって、それとよく似たしくみを自分で作りだしていたのだ。

植松さんによると、虫こぶに割れ目を作らないアブラムシの場合には、内壁には毛が生えていない。甘露は虫こぶに吸収される。アブラムシは、その種類によって、自分の暮らしに合うように虫こぶ内壁の構造を変えて、撥水性をコントロールしているわけだ。

昆虫を見ていると、なにもそこまで理想を追求しなくてもよいのではないかと思うことがある。枯れ葉とほんとうにそっくりな羽をもつコノハチョウの「擬態」。そして、巣の壁の撥水性を究極まで高めているボタンヅルワタムシ。かれらは、やるときは徹底的にやるということか。昆虫の進化には驚かされる。

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