京都大学(京大)は、反社会性パーソナリティ障害である「サイコパス」が、ためらうことなく、半ば自動的に嘘をついてしまう傾向があり、その背景に前部帯状回の活動低下があることを実証したことを発表した。

この成果は、こころの未来研究センターの阿部修士特定准教授、米国ハーバード大学のJoshua D. Greene教授、米国ニューメキシコ大学のKent A. Kiehl教授らの研究グループによるもので、7月3日、英国の国際学術誌「Social Cognitive and Affective Neuroscience」のオンライン版に掲載された。

  • サイコパス傾向と反応時間および前部帯状回の活動との負の相関(ただし反応時間の結果は両側検定で有意傾向)(出所:京大ニュースリリース)

    サイコパス傾向と反応時間および前部帯状回の活動との負の相関(ただし反応時間の結果は両側検定で有意傾向)(出所:京大ニュースリリース)

「サイコパス」は反社会性パーソナリティ障害として分類され、良心の呵責や罪悪感、共感性の欠如といった特徴がある。サイコパスは「平然と嘘をつく」とされているが、その背景にある心理学的・神経科学的メカニズムは解明されていなかった。

研究グループは、刑務所に収監されている囚人の15〜25%はサイコパスであるという報告のもと、米国ニューメキシコ州の刑務所に収監中の囚人を対象に、移動可能なmobile MRI装置を用いた脳機能画像研究を実施した。

分析の対象となったのは67名の男性の囚人に、嘘をつく割合を測定する心理学的な課題(コイントス課題)を実施中、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳活動の測定を行ったところ、嘘をつく割合が高い囚人の群において「サイコパス傾向が高いほど嘘をつく際の反応時間が速い」傾向にあり、また葛藤の検出などの心理過程に関わるとされる前部帯状回の活動が低いことが明らかになった。

この研究成果では、サイコパス傾向が高い参加者では、嘘をつくか正直に振る舞うかという葛藤が低下しており、躊躇せずに素早い反応時間で嘘をついていると解釈することができる。これは、サイコパスにはためらうことなく半ば自動的に嘘をついてしまう傾向があり、その脳のメカニズムとして前部帯状回の活動低下があることを示唆する知見となった。

なお、この研究で焦点を当てている嘘については、金銭的な利得が参加者に対して発生するか否かといった点で、嘘をつく相手に対して何らかの損害を与えるといった側面はない。サイコパスにおいて、他者への共感性が欠如しているという知見を踏まえれば、嘘をつくことが相手に対して何らかマイナスの影響がある状況の方が、サイコパスにおける嘘を調べるためのより妥当な条件設定であると考えられる。今後の研究では、こうした課題にもアプローチしたいと考えているとのことだ。