気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018」によると、二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中濃度の増加と、数年から数十年で繰り返される自然変動によって世界の年平均気温はこの100年間で0.72度上昇しました。2015年に採択されたパリ協定では、気温上昇や温室効果ガス排出量についての長期目標を掲げており、世界的に省エネに対する意識が高まっています。

今年は関東甲信地方は6月中に梅雨明けとなり、暑い日が続いています。また、気象庁の発表によると、今年は7月後半から晴れの日が多く、8月の気温は昨年と同じか上回る日が多くなるとの予想がでており、今年も各地で暑い夏を迎えることでしょう。

日本において、この7月から9月は1年の中で電力消費量が最も多くなる時期ですが、オフィスビルで最も電力消費が高いのは約48%を占める空調であると言われています。昨今は、再生可能エネルギーの活用や省エネルギー化によって化石燃料などから得られるエネルギー消費量をゼロにするZEB(ネットゼロエネルギービル)といった、究極の省エネビルも実現されつつありますが、オフィスビルで消費される空調エネルギーはまだまだ大きいのが現状です。

本記事ではオフィスビルにおける空調の仕組みや省エネ技術、そして現在注目されている新技術、さらにはAI/IoTなどを活用した未来のビル空調について最新の導入事例を交えてご紹介します。

オフィスビルの空調の仕組みとその歴史

空調の仕組み

現在のオフィスビルの空調方式は、大きく「中央熱源方式」と「個別分散熱源方式」の2種類に分類できます。「中央熱源方式」は、ボイラーや冷凍機などの熱源となる機器を建物の地下や屋上などの機械室に集約して空調を行う方式でセントラル方式とも呼ばれます。

「個別分散熱源方式」は、熱源機器を各階や空調したいゾーンごとに設置して個別に空調を行う方式で、ビル内に空気を運ぶ管(ダクト)がないためダクトレス方式ともいわれます。中央熱源方式は、大型ビルで広く採用されている方式で、地下の熱源機で発生させた冷熱や温熱、あるいは冷水や温水を空調機(エアハンドリングユニット、ファンコイルユニット)に送り、そこで取り込んだ空気と熱交換を行って、調和された空気をビル全体に送ることで空調をコントロールします。個別分散熱源方式は冷媒を使う空調機(ルームエアコン、パッケージエアコン)を各階やゾーンごとに設置して個別に空調するもので、一般家庭のエアコンと同じ仕組みです。

ここでは大型のオフィスビルで広く採用される中央熱源方式を中心にその歴史をご紹介します。

空調の歴史

この中央熱源方式の空調は、古代ローマなどで「ハイポコースト」と呼ばれ利用されていた、温気を床下に通す暖房方式が原型といわれています。

その後、産業革命のきっかけともなる蒸気機関がイギリスで発明され、1700年代半ば頃には蒸気暖房が紡績工場で初めて利用されました。そして、1800年代後半になるとアメリカで安価で大量生産が可能な鋳鉄型ボイラーが製造されました。鋳鉄型ボイラーはセクションと呼ばれる部品をつなげて作るため、運搬が容易で、比較的設置しやすいというメリットがありました。これによって、暖房技術の本格的な発展が進みました。

この頃の空調は、地下に設置したボイラーのダンパーを開閉することで空調を調節していました。つまり、温度調整のために地下にあるボイラー室に行かなければならなかったのです。これを不便に思ったウォーレン・ジョンソン(ジョンソンコントロールズの創業者)は、部屋の中で室温を制御、調節できる装置「電気式遠隔温度計」を発明し、1883年に特許を取得しました。これは水銀の熱膨張を利用して電気回路を開閉することで、室内から地下にあるボイラーのダンパーを制御するものでした。後にこれは「電気式室内サーモスタット」として知られるようになります。そして、1906年には、ウィリス・キャリア(キヤリアの創業者)によって冷房用機器が発明されました。

  • 電気式遠隔温度計

    電気式遠隔温度計

その後、第一次世界大戦後の映画館ブームをきっかけに空調制御システムは大きく発展しました。戦争に疲れた大衆が娯楽を求めるようになり、街に映画館が新設され、その空調管理のために空調制御装置のニーズが高まったのです。

さらに1929年に世界恐慌が起こると、省コスト化を目指して人が部屋やビルを離れたときに自動的にエネルギー消費を抑制し、室温を下げる「デュアル式サーモスタット」が世界中で導入されました。

  • デュアル式サーモスタットの概要

    デュアル式サーモスタットは、1台のサーモスタットに温度感知部が2個あることで、目標温度が異なる場合にも室温設定が1台で実現できるようになり、省コスト化に大きく貢献した

この世界経済が混乱する時代にも、百貨店や公会堂など大型施設への近代的な温度調整システムによる空調設置の需要はますます高まりました。

そして、第二次世界大戦中は軍事施設や工場に温湿度制御システムが設置され、戦後には新築ビルへの空調システム需要が増えました。制御システムも電気式から、空気圧を利用してセンサー部分の検出器、温度を調整する調節器、そして空調を操作する操作器の制御を行う空気式が主流になりました。

1956年には空気式集中監視装置が開発され、施設内のすべての温度制御装置を一括して監視できるようになり、建物の空調制御の効率化が大きく躍進しました。その後、1900年代後半には、電子式、デジタル式とより細やかな調節が可能な制御システムが登場しました。

空調の制御からビル全体の制御へ

1990年代以降はインターネットの普及に伴い、ビル設備向けのオープンプロトコルである「BACnet」の導入が始まりました。このオープンプロトコルの登場により、建物内に設置された異なるメーカーの様々な設備システムと空調システムの接続が可能になったため、制御範囲が大きく拡大しました。

さらに照明や防災、防犯設備などのビルシステムが連携したことで、これらの設備で使用するエネルギー消費データを一括で管理、解析できるようになりました。これによって、各種のエネルギー使用の無駄とムラを発見し、適切に省エネにつなげることができるようになりました。

ビル全体を管理・自動制御するシステムをBAS(ビルオートメーションシステム)といいますが、省エネニーズの高まりとともにエネルギー消費を効率化する機能が充実したBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)へと進化しました。

  • BASの仕組み

    BASの仕組み (出所:ジョンソンコントロールズ)

最新の省エネの取り組み

最近ではZEB(ネットゼロエネルギービル)という言葉がメディアで見られるようになりましたが、その建物の中だけで実現するのではなく、周辺の建物とエネルギーを融通しあって実現しているものもあります。

また、このほかにも情報技術の進歩によって得られるようになったビッグデータを自動で解析しエネルギー消費を効率的に見える化、管理する仕組みなども定着してきています。

再生可能エネルギーを利用したエコキャンパスの実現

最も先進的な取り組みの1つに、アメリカのハワイ州の取り組みが挙げられます。ハワイ州では、2045年までに再生可能エネルギー100%を達成するという目標を掲げており、その一環として、ハワイ大学が州内にいくつかあるキャンパスのエネルギー消費を効率化することを先日発表しました。

特に、ハワイ大学マウイカレッジでは、新しい太陽光発電システムと蓄電システムの運用を開始することで、2019年から化石燃料を使ったエネルギーを一切使うことなく再生エネルギー100%を実現する予定です。さらに、リーワードコミュニティカレッジ、ホノルルコミュニティカレッジ、カピオラコミュニティカレッジ、ウィンドワードコミュニティカレッジの各キャンパスに、日除けテントや分散型蓄電池と、エネルギー効率化システムを組み合わせて導入し、化石燃料の使用量を70%~98%削減する見込みです。

ビッグデータを活用した予測制御でエネルギー効率を最大化

米国のスタンフォード大学では、最新の制御システムと独自に開発したエネルギー最適化システムを導入し、10日間の天候、電力料金予測に基づいて、キャンパス内の1時間ごとの冷暖房需要を予測することで、排熱回収チラーや冷暖房機器を制御し、効率的な運用を行うことで、次世代の省エネを実現しています。

国内では、北九州市の「いのちたび博物館」において、団体予約のデータなどから翌日の入館者数を予測して、それに適した温湿度、照明などを調整するほか、電力需要がピークに達するときに、事前に決めた手順に従って空調機の停止や蓄電池の活用などが行われており、ピーク需要を抑え、省エネにつなげています。

ほかにも、人感センサーとの連携により、人のいる場所を重点的に空調制御するように制御したり、天気や外気温などの環境データを細かく分析してエネルギー消費を抑えながら、最適な空調になるように制御したりするなど、快適性を維持しながらも大きく省エネが実現できるような取り組みが行われています。

スマートビルから「考えるビル」へ

昨今、IoTという言葉が良く聞かれますが、建物内の設備機器をシームレスに接続し、効率的に運用するという自動制御システムはIoTのコンセプトそのものということができ、技術革新と共に大きく進歩してきました。今後はAIの活用によってビル内で収集された膨大なデータを解析することで居住者一人ひとりの好みに応じた快適性を最大化し、エネルギー消費を最小限に抑えながら、ビル全体を効率運用するような建物が増えてくると考えられます。

例えば、空調システムと会議室の予約システムが連携することで、会議が始まる前に参加者人数を把握し、最適な温度になるように会議の5分前から空調が稼働、会議室内に設置されたセンサーで利用者のバイタルデータを収集してAIで解析し、それをもとに体調や好みに合わせた空調管理も可能になるほか、外出先から会議室へ入った人にはスポットで涼しい空気を送るような空調制御をすることも可能になるでしょう。

ビルはスマートであるだけではなく、「考えるビル」へと大きく進化しようとしています。デバイスに話しかけずとも自動で快適制御されるような、そんな未来も遠くないのです。

著者プロフィール

地田清和(ちだ きよかず)
1996年、ジョンソンコントロールズ入社
同社では主にBEMS製品管理を担当