中国のロケット・ベンチャーはほかにも

中国のロケット・ベンチャー、あるいは"中国版スペースX"と呼ばれる企業はワンスペースだけではない。

たとえば「アイスペース」(i-Space)と呼ばれる企業も固体ロケットの開発を行っており、今年4月5日には、海南島から「ハイパーボーラ1S」(Hyperbola-1S)というロケットを打ち上げ、高度100kmを超えたとされる。ちなみに、このロケットもまた、公開されている写真などから、ワンスペースと同じように東風11か東風15の技術移転を受けたものと考えられている。

同社はワンスペースほど広報に積極的ではなく、詳細はあまり明らかになっていないが、中国の報道では2019年6月までに衛星打ち上げを成功させる計画だという記事が出ている。

さらに、ワンスペース、アイスペースのような、ミサイルを転用した(と考えられる)ロケットを開発、運用するのとは違う動きもある。

2016年には、国営の中国航天科工集団(CASIC)が、「エクスペース」(ExPace)という企業を立ち上げている。CASICは「快舟」という固体ロケットを開発し、これまで何度か打ち上げを行っているが、その顧客は軍や研究機関、大学などに限られていた。そこで、商業打ち上げや販売を担う会社としてエクスペースを立ち上げたとされる。また一部の報道では、製造もエクスペースに移管させる計画だとされる。

そして中国のロケット・ベンチャーの中でも異彩を放つのが、2015年に清華大学発のベンチャーとして誕生した「ランドスペース」(LandSpace)という企業である。

「朱雀2号」の想像図

ランドスペースが開発中の「朱雀2号」ロケットの想像図 (C) LandSpace

同社は当初、国営宇宙企業の中国航天科技集団(CASC)の支援を受け、CASCの固体ロケット「長征十一号」(CZ-11)をもとに開発した「ランドスペース1」の商業打ち上げビジネスを行うとしていた。つまりこの時点では、前述の企業と似たような事業内容だった。

ところが今年に入り、同社は突如、液体酸素とメタンを推進剤とするロケット・エンジンを開発していることを明らかにし、さらにそのエンジンを使ったロケット「朱雀2号」の開発も発表した。朱雀2号は低軌道に1~3トンほどの打ち上げ能力をもち、OS-Mやエレクトロンのような超小型ロケットはもちろん、日本の「イプシロン」よりも大きな、中型ロケットである。

まだロケットは設計段階で、エンジンの燃焼試験も始まっていないようだが、ワンスペースなどとは大きく異なる方向性をもつ点は、大いに注目すべきだろう。

また昨年末には、ランドスペース1の商業打ち上げ契約を受注したことも発表され、おそらく同機と朱雀2号、小型の中型の二種類のロケットで事業展開をしていく考えなのだろう。

さらに、つい最近では民間のファンドから2億元の投資も受けており、その期待の高さもうかがえる。

再使用ロケットの開発に挑むリンクスペース

そして、もうひとつ別の意味で"中国版スペースX"と呼ばれるのが、「リンクスペース」(LinkSpace)でる。

スペースXというと、ロケットの第1段機体を着陸させ、ふたたび打ち上げる"再使用打ち上げ"がおなじみである。リンクスペースも、まさにそんなロケットを開発している。

同社は2014年に設立され、わずか数年で数kN級の液体ロケット・エンジンを開発するなど、当時から注目を集めていた。

そして2017年、スペースXのように第1段を再使用できるロケット「ニューライン1」(NewLine-1)を発表。さらに同年中に、実際に小型ロケットによる、垂直上昇と水平移動、そして垂直着陸を行う試験に成功し、大きな話題となった。

  • ニューライン1の想像図

    ニューライン1の想像図。回収・再使用のための着陸脚や小形の安定翼が見える (C) LinkSpace

実際に宇宙への打ち上げや、その機体の再使用などはまだ先のことになるだろうが、その動向に注目される。

また同社は、ロケットだけでなく衛星開発も行っており、今年2月には長征二号丙ロケットによって、初の同社製衛星「FMN-1」が打ち上げられている。FMN-1は3Uサイズのキューブサットで、2台のカメラによるパノラマ撮影などができるという。

規模もやっていることもまだまだ小さいが、再使用ロケットと衛星の自社開発を進めるリンクスペースは、スペースXと瓜二つである。

  • 垂直離着陸飛行の試験の様子

    垂直離着陸飛行の試験の様子 (C) LinkSpace

勢力図が変わり始めた中国の宇宙産業

このほかにも、中国にはさらに多くの宇宙ベンチャーが雨後の筍のように誕生し続けている。もちろんロケットだけでなく、衛星の開発や利用を進める企業も多く、さらにまだ表に出てきていない企業も多いだろう。

こうした動きは、1990年代の米国で起こった民間宇宙開発ブームに似ている。このころ、ロケット技術のコモディティ化、製造技術の進歩などで、民間によるロケット開発が始まり、とくに「アンサリXプライズ」という高度100kmに到達することを競ったロケットの技術開発レースでその動きが大きく加速した。また、電子部品の進歩などで小型衛星の開発も進んだ。

もちろん、いま残っている企業の数からわかるように、その多くは淘汰され、撤退した。しかし、それは決して衰退したというわけではなく、むしろ正常な市場競争の結果である。現に、残った企業はスペースXやブルー・オリジンといった技術力も資金力もある企業となった。

現代の中国はやや事情が異なるが、むしろ90年代の米国よりも恵まれた環境にあるのかもしれない。軍民統合という方針のもと、軍の技術を活用できること、また国や地方のサポートもある。そしてベンチャー・キャピタルなどによる企業を育成する環境もあり、Baiduの共同設立者である李彦宏氏のように、宇宙開発に関心をもつ大富豪もいる(もっとも李氏はまだ宇宙事業には投資していないという)。さらに、3Dプリンターなど、技術の向上でロケットや衛星の開発・製造のハードルはさらに下がっている。

また、衛星ビジネスも並行して育ちつつあることで、中国国内だけでかなりの打ち上げ需要が見込める。

他国の市場への参入はやや課題があり、たとえば米国はITARという輸出管理制度を設けているため、米国製衛星の打ち上げなどは難しい。ただ、欧州などから米国製部品を使わない(ITARフリー)衛星が販売されており、また中国製のロケットと衛星をセットで販売するという方法もある(すでに大型衛星の分野で一定の成果を出している)。そのため、国外への進出、市場参入が不可能というわけではない。

かつて、国営企業が牛耳っていた中国の宇宙産業をめぐる勢力図は、徐々に塗り替えられ始めている。中国でもこれから、かつての米国のように淘汰が進み、生き残る宇宙企業は数社に限られるだろう。しかし数社でも残れば大成功であり、そしてその数社が、"中国版スペースX"から、本家スペースXを食らうほどの存在になるかもしれない。

参考

http://www.onespacechina.com/20171202-5-2-2/http://www.onespacechina.com/about/http://www.onespacechina.com/os-x/LandSpaceLinkSpace

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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