宇宙企業ヴァージン・ギャラクティックは2018年4月5日、開発中の宇宙船「スペースシップツー」の2号機「VSSユニティ」による、ロケット・エンジンを使った超音速飛行に初めて成功した。

スペースシップツーのロケット飛行は、2014年に1号機の「VSSエンタープライズ」が墜落事故を起こして以来、約3年半ぶり。悲劇を乗り越えてロケット飛行を再開した同社は、宇宙飛行と宇宙旅行ビジネスの実現に向けて、大きな一歩を踏み出した。

  • ロケット飛行するスペースシップツーの2号機「VSSユニティ」

    ロケット飛行するスペースシップツーの2号機「VSSユニティ」 (C) Virgin Galactic/MarsScientific.com & Trumbull Studios

スペースシップツー

スペースシップツー(SpaceShipTwo)は、宇宙旅行ビジネスを目指す企業ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)と、姉妹会社である宇宙船の製造企業ザ・スペースシップ・カンパニー(The Spaceship Company)が開発している宇宙船である。

同機はサブオービタル宇宙船と呼ばれ、パイロット2人と乗客6人を乗せ、一般的に宇宙とされる高度100kmまで到達することができる。地球を回る軌道には乗れず、宇宙空間に滞在できる時間も数分間ほどだが、青い地球や黒い空を眺めることができ、また自由落下時に船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、非日常感を味わうには十分である。

チケットの金額は約25万ドルとされるが、これまでに俳優やスポーツ選手などから、数多くの申し込みがあるという。

また、微小重力環境を利用した宇宙実験などの需要もあるほか、都市間を結ぶ超音速旅客機(2地点間輸送機などとも呼ばれる)としての使い道も考えられている。

  • スペースシップツー

    スペースシップツー (C) Virgin Galactic

スペースシップツーはなにより、その一風変わった機体の形が目を引く。同機の設計を手がけたスケールド・コンポジッツ(Scaled Composites)は、航空機設計の鬼才バート・ルータン氏(Burt Rutan)の指揮のもと、数々の独創的な航空機を生み出してきたことで知られる企業で、同機もその"作品"のひとつである。ただ、ルータン氏はすでに現役を引退しており、スペースシップツーの設計も同氏の弟子などが手がけた。

機体の形も独特なら、運用の方法も独特である。スペースシップツーはまず、ホワイトナイトツー(WhiteKnightTwo)と名付けられた飛行機に吊るされて、上空まで運ばれる。このホワイトナイトツーもまたスケールド・コンポジッツが開発したもので、2つの飛行機を合体させたような、独特の形をしている。

上空で切り離されたスペースシップツーは、ロケット・エンジンに点火し、高度100kmへ向けて駆け上がる。同機で使われるロケットは、ハイブリッド・ロケットと呼ばれる安全性が高いもので、爆発などを起こす危険性が低く、取り扱いもしやすく、さらに万が一機体にトラブルが起きても、燃焼をすぐに停止させることができる。

このロケットで大きく加速したスペースシップツーは、やがて宇宙空間に到達。乗客は窓を通じて眼下に広がる光景を楽しむとともに、無重量状態を味わうことができる。

この宇宙空間で、主翼の後ろ半分を約60度ほど折り曲げる「フェザー・モード」に移る。フェザー(feather)とは羽根という意味で、この形態になることで、降下のスピードを抑えつつ、機体を安定させることができる。原理としては、バドミントンのシャトルが、後方の羽根のおかげで、つねに球の部分を前に落ちてくるのと同じである。

そしてフェザー・モードで大気圏に再突入し、ある程度降下したところで翼を元の状態に戻して、そのままグライダーのように滑空し、滑走路に着陸する。機体はメンテナンスを受け、先に着陸しているホワイトナイトツーと結合され、新しい乗客を乗せてふたたび飛び立つ。

飛行機のように運用したり、ハイブリッド・ロケットを使ったり、そしてフェザーのような独創的な機構によって、スペースシップツーは安全かつ手頃に、宇宙旅行を実現する――はずだった。

  • スペースシップツーはホワイトナイトツーと呼ばれる飛行機に吊るされ、上空まで行き、そこから宇宙を目指す

    スペースシップツーはホワイトナイトツーと呼ばれる飛行機に吊るされ、上空まで行き、そこから宇宙を目指す (C) Virgin Galactic

ワンからツーへのステップアップと、遅れた開発

ところで、スペースシップツーというからには、もちろんワンもあった。

スペースシップワン(SpaceShipOne)は、民間による宇宙飛行を目指した技術レース「アンサリXプライズ」(Ansari XPRIZE)のためにスケールド・コンポジッツが開発した宇宙船で、2004年6月21日に宇宙空間への到達に成功。そして同年9月29日と10月4日にレースの条件を達成し、賞を勝ち取った。

飛行機のような運用やハイブリッド・ロケット、フェザーといった特徴的な仕組みは、このスペースシップワンで確立されたものだった。そしてスペースシップツーは、それらを大型化した機体であることから、開発は容易だと考えられていた。ところが、実際には事はそううまく運ばなかった。

スペースシップツーは2009年に1号機が完成し、2010年から試験飛行が始まった。この1号機には「VSSエンタープライズ」(VSS Enterprise)という名前が与えられた。もちろん、『スター・トレック』に登場する宇宙艦USSエンタープライズのもじりである。

VSSエンタープライズの飛行試験は、最初のころこそ順調で、着実に試験飛行を重ねたものの、2014年には母機であるホワイトナイトツーの主翼に亀裂が入っていることが判明。さらにスペースシップツーに搭載するハイブリッド・ロケットの設計は二転三転した。これにより、まったく飛行できない期間が半年も続くなど、開発・試験計画は大きく遅れた。

当初は2014年にも宇宙飛行ができるとされたが、実際には2014年までに、30回の滑空飛行と、3回のロケット飛行のみを行ったのみで、宇宙空間への到達は一度もできず、足踏みする状態が続いた。

  • 滑空飛行試験をするスペースシップツー

    滑空飛行試験をするスペースシップツー (C) Virgin Galactic