自動車のデザインレビューや完成前の建物の仮想体験など、産業分野におけるVR活用は年々広がっている印象だ。しかしながら、「現実感」を得るにはあと一歩足りない感覚がある。

そこで、VR活用の要として、近年注目されているのがハプティクス(触感)。物に触った感覚をいかにしてVR体験に組み込むかが検討される中、実用化をめざして触覚デバイス「EXOS」を開発しているのが、ハードウェアスタートアップのexiiiだ。

同社は、グッドデザイン賞などさまざまな贈賞を受けた筋電義手「handiii」「HACKberry」を生んだ企業。義手からVRデバイスの開発へ軸足を移した理由、また触覚デバイスの開発状況について、exiii CEOの山浦博志氏、COOの金子大和氏に聞いた。

  • exiii CEOの山浦博志氏、COOの金子大和氏。金子氏は、ヘッドマウントディスプレイ「FOVE」の開発に携わった経歴を持ち、今回のデバイスの開発に際してexiiiに入社した。

    exiii CEOの山浦博志氏、COOの金子大和氏。金子氏は、ヘッドマウントディスプレイ「FOVE」の開発に携わった経歴を持ち、今回のデバイスの開発に際してexiiiに入社した。

今、VRを使いたい領域にアプローチ

――筋電義手で知られるexiiiが、VRにフォーカスし、触覚デバイスの開発に着手したきっかけというのはどこにあったのでしょうか?

山浦氏: 私たちは、人間とコンピューティングがどう結びついていくか、という大きなテーマを掲げています。その現れ方として、義手があり、触覚デバイスがあります。

VRにフォーカスしたきっかけとしては、2015~2016年にかけて高まっていったVRへの期待感に対して、ファウンダー含め皆がワクワクを感じたことから、この領域で製品開発を行いたいと考えました。現状のVRは視覚と聴覚に依った体験に限定されているため、現実世界とのギャップが生まれています。そこを埋める「触感」を、「EXOS」を通じて付与したいと考えています。

  • 開発中の触覚デバイス「EXOS」
  • 開発中の触覚デバイス「EXOS」
  • 開発中の触覚デバイス「EXOS」。指先に装着する*「EXOS Gripper DK1」*(左)と、手首に装着する*「EXOS Wrist DK1」*(右)の2種類展開となっている。視聴覚情報にあわせてモーターを動かすことで反力を生み出し、そこに物があるかのような状態を提示する。

――VR関連事業に踏み出すにあたり、特に印象的だったデバイスやコンテンツはありますか?

山浦氏: 僕にとっては、HTC VIVEの登場です。また、CADエンジニアとしてキャリアをスタートし、ずっと2Dでコンピューターグラフィックスを扱っていましたので、CADデータが目の前に現れる体験が本当に鮮烈でした。

exiii COO 金子大和 氏(以下、金子氏): 僕はOculus RiftのDK2ではじめてVRを体験して、とにかくすごいと感じました。もうひとつは、Hololensですね。バーチャルオブジェクトが現実世界に溶け込む世界はありうるだろう、と感じました。

――ハードウェアスタートアップらしく、おふたりとも、コンテンツではなくハードから感銘を受けられたのですね。製品の話題に戻りますが、「EXOS」の名称の由来について教えてください。

山浦氏: EXOSという名前は、外骨格(Exoskeleton)から取っています。特に何かの文章の頭文字を取ったということもなく、シンプルに決めました(笑)

――触覚デバイス「EXOS」について、日産自動車 グローバルデザイン本部がカーデザインプロセスへの活用を検討していると発表されていました。この事例からみると、「EXOS」はBtoB用途を中心に展開されるのでしょうか?

exiii CEO 山浦博志氏(以下、山浦氏): はい、現状においてはそうです。将来、VR/ARが今のスマートフォンのように当たり前に使われるようになった時、目の前の、現実には存在しない物に「触りたい」という欲求は広く生まれるだろうと考えています。それが5年後、10年後なのかは置いておいて、今はまだそこまでは到達していないのが現実です。

ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の低価格化・軽量化も進んで行くでしょうが、今はまだ重量感があり、高価です。そんな中、製造業では、発展途上の技術であってもVRを開発に活用していきたいという声があがっています。日産では、われわれがアプローチする以前から、VRによる車体のデザインレビューを行っておられました。

触覚デバイス「EXOS」も、HMD同様まだまだ「重くて高い」ものですが、それでも使いたいというニーズがあったことから、今後は同様のユースケース、つまり製造業などBtoB用途での可能性を広げていきたいと考えています。

――異なるタイプの機器を2種類にわけて開発されているのはなぜですか?

金子氏: 当初は指先に装着する「EXOS Gripper DK1」1種で開発しており、日産へ持ち込み提案を行いました。その際に、つまむのではなく、手のひらで押して触れる感覚を得たいというフィードバックがあり、そこから手首装着型の「EXOS Wrist DK1」が生まれました。

  • 開発中の触覚デバイス「EXOS」

    「EXOS Wrist DK1」を用いた、VRによる車内インテリアレビューのイメージ

山浦氏: 業種問わず、VRで見るCADのデータは厳密に定義されたものが空間に固定されているイメージです。であれば、人間の側も、動かないデータに対して触るというアクションになります。そうした動きを実現する装置としては、手首装着型が適切だったので、「EXOS Wrist DK1」を開発しました。

――手首型のデバイスはCADデータ向き、ということですね。では、「EXOS Gripper DK1」はどの業種で活用されそうでしょうか?

金子氏: 先日発表されたNECのソリューションに「EXOS Gripper DK1」が採用されています。そこで提示されているような、工場などでの作業のトレーニングに向いていると考えています。Gripperは装着の手順が必要なく、手を入れてすぐ使えるので、VRを日常的に使うわけではない作業者の方にも使いやすいのではないかと思っています。

また、既存のソリューションに組み込むのであれば、自分の手を視界内に表示できることから、モーショントラッキングで操作するものとの相性がよいと考えています。メーカー純正のコントローラーでは移動したい方向にビームを出して指し示すような操作を行いますが、「EXOS Wrist DK1」はコントローラーとの併用も行えます。CADデータを複数人でレビューするなどの使い方の時に、触感を付与するような使い方はできると思います。

――コントローラーと合わせて使いたいという要望は多いですか?

金子氏: 現状は、「EXOS Wrist DK1」単体での使用を想定したお問い合わせが多いです。現行機器は重量感があるので、合わせて使う際はコントローラーと逆の手にEXOSをつけるなど、利用方法を工夫すべき段階にあります。利用方法についてはこちらとしても、適切なものを試行錯誤している段階です。

使い道にあわせたデザイン

――2017年に発表されたEXOSのプロトタイプは、義手「handiii」のような未来感のあるデザイントーンでしたが、現在の製品はそこからかなり質実剛健な印象へと変化しています。外観のデザイン変更の経緯を教えてください。

山浦氏: 仰る通り、現在のEXOSに至るまでに、デザインの方針を変更しました。

  • 開発中の触覚デバイス「EXOS」
  • 同社開発の義手
  • 「EXOS Gripper DK1」(左)。プロトタイプの際は同社開発の義手(画像右)白と黒のツートンカラーだったが、現在は黒一色のシンプルな外観となっている。

筋電義手「handiii」は装着者の個性を表現するためにデザインしています。それまでは隠すのが当たり前だった義手をあえて見せるというコンセプトでしたので、その外観は使用者の満足度を重視したものとなっていました。

一方、「EXOS」は先ほどお話ししたような経緯で、BtoBの利用用途に向けて開発しています。仕事場に置いて連日使うデバイスとなるため、その存在をアピールするようなデザインは、利用用途と乖離してしまいます。この点は社内でも議論になり、結果としてデザインとしては抑えめにという方向性で進めています。

――ボディカラーを黒一色に絞ったのも、そのような開発意図からなのですね。

山浦氏: はい、カラーバリエーションを設けるような製品カテゴリではないという判断です。デザイン担当者も、BtoBの製品としてのデザインを意識していると話していました。

また、黒というのは一番引き締まって見える色なので、まだコンパクトとは言えないデバイスから受ける圧迫感、手に取るまでの抵抗感をなくすような意味から、この色を選んでいます。もしも今後エンタメ領域での展開が見込めるような状況になれば、それを反映した製品のデザインをあらためて行うことになると思います。

――義手開発で得た、EXOSに生かされた知見は何かありますか?

山浦氏: 義手開発時に調べた、解剖学的な知見ですね。人間の関節の構造や筋肉の配置を加味したうえでデバイスを作っています。関節が何度まで曲がるか、などはきちんと調べないとわからないので、そうした知識の蓄積は、開発に役立っています。

――事例とデバイスの情報を先日リリースした後、どのような分野の企業から反応がありましたか?

金子氏: やはり日産での検討について記載したことから、自動車メーカーから反応をいただけました。それ以外ですと、建築系、アカデミック系の団体からの問い合わせも何件かありました。いずれも事例として発表できるところまで持って行ければと考えています。

お問い合わせをいただく企業について言えば、すでに社内で相当な試行錯誤をしていて、その上で弊社にお声がけいただくというケースが多く、VR活用に際して困りごとを抱えているんだというのが分かります。そこに対してEXOSがアプローチできれば嬉しく思います。

――最後に、今後の開発ロードマップについて教えていただけますか?

山浦氏: 日産での検討というトピックをきっかけに、CADデータの活用という明確なユースケースが見つかりました。まずはそれにきちんと応えられるようなデバイスにしていきたいと考えています。現行モデルの触覚再現のスペックはそのままに、本体を軽くし、装着しやすさを追い求めていきたいです。

――ありがとうございました。