東北大学は12月22日、小笠原諸島の外来トカゲ(グリーンアノール)のゲノム配列を小笠原諸島の父島および母島、移入元のフロリダからそれぞれ8個体、合計で24個体解読し、得られたゲノム配列を用いて、50年前に移入した時点の個体数(有効集団サイズ)が、約14個体(最大でも50個体)であったとの推定結果を発表した。

  • 小笠原諸島の外来トカゲ「グリーンアノール」 (出所:東北大Webサイト、撮影:森英章氏)

同成果は、東北大大学院生命科学研究科の生物多様性進化分野の玉手智史氏、河田雅圭 教授、牧野能士 准教授、総合研究大学院大学、自然環境研究センターの森英章氏、フロリダ大学らなどで構成される共同研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

同研究によると、現在の外来トカゲの小笠原集団の遺伝的変異の量は、フロリダの集団の約半分ほどであったことから、小笠原に最初に移入したトカゲの個体数は少なかったと考えられるものの、複数の別々の集団の異なる遺伝的系統をもつ個体が混合した傾向も観察されることから、個体数から予想される遺伝的変異より大きかったと考えられるという。

さらに、小笠原諸島の集団のみで自然選択が検出された遺伝子のうち、移入元のフロリダの集団と比べて、遺伝子頻度が有意に異なる遺伝子を候補遺伝子として、小笠原諸島に移入後、自然選択により頻度を変化させた遺伝子の検出を試みたところ、5つの遺伝子が複数の推定方法すべてで検出され、そのうち2つは筋肉の発生や収縮に関わる遺伝子で、ほかの2つは食物代謝に関する遺伝子(ntn1,pik3cb)であったという。

小笠原諸島の個体と北米フロリダの個体の形態を比べてみたところ、小笠原の個体で後肢が長くなっていることを確認。グリーンアノールの後肢の長さは、生息する樹木の部位などの生息場所と関係していると言われており、後肢が長いほど太い幹や平らな場所での移動能力が優れていることが示されたものだと研究グループでは説明しているほか、これらのことから、小笠原では、移入元よりも樹木の下部や地面での活動が増加し、餌の種類も変化したことが予想されるとし、筋肉の発生に関する遺伝子は、後肢の伸長や運動能力の変化に関連し、食物代謝に関する遺伝子は食物の変化による代謝の変化に対応して進化したものだと推定されるとしている。

なお、今回の成果を受けて研究グループは、侵略的外来種になる可能性のある生物は、侵入時にたとえ少数の個体であっても、個体数と分布を拡大し、固有の生態系への脅威となる恐れが無視できないとしている。また、この研究は移入初期段階での駆除対策を強化し、成功させることの重要性も示唆するものだともしている。