東京大学は、同大大学院工学系研究科化学生命工学専攻の相田卓三教授、同所属の柳沢佑氏らの研究グループが、世界初の自己修復ガラスを開発したことを発表した。同ガラスは、室温で破断面を押し付けておくと修復・再利用が可能になる初めての素材となる。この成果は、アメリカ科学振興協会発行の学術誌「Science」オンライン版に掲載された。

自己修復ガラスを開発

自己修復ガラスを開発

窓ガラスは損傷や破壊が不可逆的で、加熱溶融しないかぎり再利用ができないため、割れると廃棄される。

今回、研究グループが開発した自己修復ガラスは、ポリエーテルチオ尿素と呼ばれる高分子材料からなる。この高分子物質は生体分子の表面に強く接着する「分子糊」と名付けた高分子物質を合成するための中間体として設計されたが、研究グループはその過程で、固くさらさらした手触の表面をしていながら、破断面を互いに押し付けているとそれらが融合する特別な性質を示すことに気づいた。この性質は驚くべきことであり、温度・圧縮応力を精密に制御できる装置を用いて修復能を評価したところ、室温における数時間 の圧着で機械的強度が破損前と同等の値にまで回復したという。

この自己修復性ガラスに類似の構造を有する複数種の高分子物質を合成し、その力学強度や修復能を評価した結果、(1)比較的短い高分子鎖を用いて局所的な運動性を保証する必要がある、(2)短い高分子鎖で高い力学強度を実現するためにそれらを水素結合で高密度に架橋する必要がある、(3)水素結合による高密度な架橋が結晶化を誘起してはならない、(4)水素結合の交換を容易にする構造が重要、という4つの条件が自己修復ガラスの設計に重要であることが明らかになった。

高分子材料は加熱溶融すれば融合するが、加熱溶融操作は材料の変形を伴い、再利用の可能性を低下させるうえ、危険を伴うため作業環境が限定され、破損部分を応急処置的に修復させるというわけにはいかない。しかし、ガラスの修復が室温でできれば、分子設計次第ではガラス状態にある固い高分子材料までもが自己修復できる。

研究グループは、この非常識を世界ではじめて可能にした歴史的意義は極めて大きく、持続可能な社会への貢献が期待されると説明している。