上越工場で見た日本のものづくりの根幹を為す"ヒト"の在り方

同社が注目に値する点は、そうした最先端の技術を自ら開発していくのみならず、生産という面でも革新を続けよう、というところだ。筆者も、さまざまな場所のさまざまな規模の工場を拝見させてもらってきたが、工場内で実際に作業をしている人であっても、こちらの姿が見えると挨拶を交わしてくれる、という経験は基本したことがなかった。ところが、同社の工場ではそれが徹底されていたと言って良いほど、挨拶を交わしてくれた。「我々は工場そのものが売り物だと思っている。そうした意識が働いている人たち、1人ひとりの意識として根付き、商品としていかによく魅せるか、というところに結びついている」と語るのは同社執行役員で上越工場長の渡邊幸俊氏だ。

上越工場は大雑把に言うと2つの区画に分けることができる。1つの区画はプリント基板を積層し、パターンを形成していく工程。もう1つは基板の各層をつなぐためのビア(孔)を開ける工程(ドリル穴明)だ。工場の外観写真を見ていただければ分かるが、1つ目の工程は基本的に一方通行で行われ、その長さは実に400mほどに及ぶ。

左は工場のレイアウトを示したパネル。中央と右は、自分が現在、工場のどの付近に居るかを示す距離の目安。このように通路の至るところにも訪問者が分かるように工程の説明パネルや位置などを配置し、何がどこで行われているのかが一目で理解できるような工夫も施されており、まさに工場そのものを商品として見せようという努力が見てとれる

一方のビア形成工程も当初は1つ目のラインに組み込まれていたが、工場の床の強度不足のため、装置の振動を吸収しきれずに誤差が生じやすかったことなどから、別区画を改修することで対応することにしたそうだ。その結果、これまで振動を抑えるために控えていた装置の性能もフルに発揮できるようになり、精度の向上とともに加工時間の短縮も果たせたという。

ビア形成工程の工場内の様子。液晶パネルに映っているのは、各装置の稼働率。取材させていただいた日は工場のお盆休み明けであったため、まだ稼働率は低いものとなっていた

こうした工夫の結果、現在、上越工場は3200品種/4000ロット(ロットあたり2.3m2)の生産能力を有しており、1日あたりに換算するとおよそ100品種ほどのプリント基板がライン上で処理されているという。また稼働率も平均で80%ほどと高い値を達成している。

工場での生産性の改善を進め、最新技術を開発し、国内外から業種問わずで顧客獲得に務める、と文字だけで表すと、工場についても、さもコストをかけて最新鋭の設備を入れて、ヒトの手を介さない生産をしているのではないか、と思うところではあるが、実際に工場を拝見させていただいた限り、必ずしもヒトを排除し、オートメーション化を進め、機械がすべてを行う、というよりも、むしろヒトを活用することで生産性を高めることを重視しているように見受けた。

工場内の様子。必ずしも最新の設備を何台も導入すれば生産性が向上する、というわけではなく、ヒトの知恵と工夫でそれを実現するということが肌で感じられた。ヒトが写っている画像は最終の品質チェックと出荷作業の様子

それは先述の渡邊氏の言葉にもつながるものであり、1人ひとりを活かすことが企業としての成長につながる、という意識は各所からも感じられた。実際、工場の設備は、必ずしも最新のものが設置されているわけではなく、現有の資産の能力をいかに効率よく最大限に引き出してやるのか、をヒトが知恵を出しあって、実際に実行してみて、改善点を出して、さらに改善を進める、という地道な工夫の繰り返しの端々を工場の各所で見ることができた。

「我々はOKIグループとして、高多層基板で日本一、それは世界一の企業になることを目指している。そのためには技術にこだわり、市場からの要求に応えるために、どこよりもその要求を早く察知して、こまめに技術のアップデートを進め、他の追随を許さない早さでそれを提供していくことで勝負していく」と同社は語る。IoTやクラウド、ビッグデータと言ったキーワードがもてはやされる昨今。あらゆる機器がネットワークに接続され、大量のデータが生み出される時代になっても、そうした機器はなんらかのプリント基板の上に半導体デバイスが搭載され、電気が通ることで、ようやく動くことができるという仕組みに変わりはない。ムーアの法則の終焉を迎えつつある半導体デバイスだが、それでも高機能化、高性能化、小型化といったニーズは止む事はない。そうした時代、こだわりのプリント基板の存在は、そうした半導体デバイスを搭載する機器の進化を支える縁の下の力持ちとして、その存在感を増していくことになるはずだ。その時、OPCのような技術にこだわる企業の存在はきっと注目の的となるに違いないと思える今回の訪問であった。