再使用ロケットの蹉跌: DC-XとX-33

1983年、米国のロナルド・レイガン大統領は、ソヴィエトからの核攻撃に対して、人工衛星からミサイルやレーザーを発射して核ミサイルを迎撃するなどといった大胆な計画を盛り込んだ「戦略防衛構想」(SDI)を発表した。

SDIを実現するには、衛星軌道にミサイル迎撃衛星を安価かつ大量に、そして必要とあらば早急に打ち上げられるロケットが必要であり、そのためには機体を繰り返し再使用できるロケットが必要とされた。スペース・シャトルの存在は、そんなロケットが実現できそうだという期待を抱かせるのに十分だった。

そこで国防総省は米国内の企業に開発を呼びかけ、1991年8月、それに応えた数社の中からマクドネル・ダグラスの案「デルタ・クリッパー」が採用され、開発が始まった。

同社はまずデルタ・クリッパーの3分の1ほどの大きさの試験機「DC-X」を開発。1993年8月18日、米国ニュー・メキシコ州にあるホワイトサンズ・ミサイル実験場で打ち上げが行われ、垂直に上昇した後、空中で横に移動を始め、その後徐々に降下し、やがて地上に舞い戻った。到達高度はわずか50m、飛行時間もわずかに59秒間という短いものであったが、そのロケットは宇宙輸送の革命に向けた確かな第一歩を記したのである。

その後も開発や試験が繰り返され、また国防総省が興味を失ってからは米航空宇宙局(NASA)に移管されて開発が続けられた。1996年には、26時間の間隔を置いて2回の飛行を実施し、その2回目の飛行では高度3140mにまで到達している。しかし、7月31日の飛行試験において着陸に失敗し、機体は爆発。このとき計画は資金不足に陥っており、機体を修復することもできず、計画は終わりを迎えた。

またNASAでは、デルタ・クリッパーとは別に、1996年からスペース・シャトルの後継機となる「ヴェンチャースター」の開発を始めていた。ヴェンチャースターは高い性能を出せる新型ロケット・エンジンと、複合材料を使った軽くて丈夫な推進剤タンクなど、数多くの新技術が投入される計画だった。

開発を担ったのはロッキード・マーティンの、先進的な試作機などを得意とする部門「スカンク・ワークス」で、まずヴェンチャースターを小さくした試験機「X-33」の開発から始めた。しかし複合材料の推進剤タンクの開発に難航するなど、技術的な問題と予算超過が原因で、2001年3月に開発は中止となっている。

「DC-X」の飛行の様子(打ち上げ、横移動、降下、着陸)を連続で撮影したもの (C) New Mexico Museum of Space

「X-33」の想像図 (C) NASA

この他、米国の「NASP」や英国の「HOTOL」といった、ジェット・エンジンとロケット・エンジンを切り替えられるエンジンをもつスペースプレーンや、垂直に打ち上げられ、帰還時には内蔵したローターを広げてヘリコプターのように着陸する「ロトン」など、さまざまな再使用ロケットの研究、開発が行われたが、どれも実現しないまま終わりを迎えた。

米国のスペースプレーン「NASP」の想像図 (C) NASA

ヘリコプターのようにローターを回して着陸することができる「ロトン」 (C) NASA

映画『2001年宇宙の旅』では、オライオンIIIに乗ったフロイド博士が、宇宙ステーションを経由して月に行き、さらにボーマン博士らとHAL9000が乗った探査船「ディスカヴァリー」は木星へと向かう。しかし現実の2001年の世界では、ディスカヴァリーはおろか、劇中では序盤の脇役に過ぎないオライオンIIIですら造れないでいた。

このころに開発された新しいロケットは、その多くが再使用を考えず、大量生産することで低いコストと高い信頼性を確保することを狙ったロケットばかりだった。もちろんパンアメリカン航空のスペースプレーンなど影も形もなかった。さらに付け加えるなら、当時世界で最も安く、さらに信頼性も高いロケットは、ロシアが半世紀前に開発した「R-7」、いわゆるサユース・ロケットだったのである。

【参考】

・DC-X - Home
 http://dc-xspacequest.org/
・Mystery - NASP X-30
 https://fas.org/irp/mystery/nasp.htm
・HOTOL
 http://www.astronautix.com/lvs/hotol.htm
・Roton
 http://www.astronautix.com/craft/roton.htm
・松浦晋也. スペースシャトルの落日 ~失われた24年間の真実~. エクスナレッジ, 2005, 239p.