というわけで、高精度空間データベースについて紹介したが、続いてはゼンリン本社を離れ、関連会社のジオ技術研究所に赴き、ゼンリンが行っている新しい地図製作や取り組みを紹介しよう。

まずジオ技術研究所についてだが、同社は電子地図の立体映像技術の研究および開発、そして事業化のために2001年8月に設立されたゼンリンの完全子会社である。現在は、高精細3Dデジタル地図「Walk eye Map(ウォークアイ マップ)」(画像9)やデジタル地図3Dレンダリングミドルウェア「WAREM(ワレム:Wide Area Rendering Engine for Map)」(画像10)などを手がけている。

画像9(左):Walk eye Mapによる3D地図データ。スカイツリーから浅草(正確には富士山)方向を見た画像。画像10(右):WAREMの画面。建物が半透明化して表示される、斜め上視点のカーナビ用3D地図である

Walk eye Mapは、実はカーナビではお馴染みの「誘導系画像」と呼ばれる、「高速道路分岐画像」や「3D交差点画像」(画像11)などの製作に使われているほか、2D地図ではなく3D地図を採用しているカーナビにも採用されているケースがある(画像12)。また、都市開発の景観・建築シミュレーション、携帯用ナビなどにも採用実績があるという。カーナビ用途では、実質現在では他社が撤退したため、ジオ技術研究所によるものだけなのだそうだ。

画像11(左):高速道路分岐画像(左)や3D交差点画像(中)の一例。最近のカーナビはわかりにくい交差点には必ずこうしたその交差点を3DCG化した画像が表示される。画像12(右):3D交差点画像が実際に表示されている様子。カーナビはパナソニック製

景観・建築シミュレーションにも使用されているのは、再開発の対象地区だけでなく、その周辺地域も含めた景観を確認できたり、日照やビル風の通り方などのシミュレーションにも使えたりすることが大きい。一般的には、これから建築する建物の3DCGなどは普通だが、周辺どころか街全体の詳細な3D地図情報となるともうゼンリンぐらいしか持っていない。例えば、画像13は渋谷109前だが、3D地図データとして持っているので、同じエリアをもっと上空から見ることも容易だ(画像14)。

画像13(左):渋谷109前の交差点の景観。ポイントとなる交差点は細部にわたって作り込まれる形だ。画像14(右):同じ地点を上空から見たところ。

なおWalk eye Mapで3D地図として整備されている地区は、東京23区、大阪市の全域、全国19の政令指定都市の中心部。面積としては合計2578平方kmだ。更新も年に1回行われているそうである。

ただし、さすがにこの2578平方km全域で実際の景観通りに完全に作られているかというと、さすがにそこまでは行われていない。表通りに面していない奥まった地域など、「広域」と呼ばれるエリアの建物に関しては、ゼンリンの住宅地図データにある建物の枠情報と建物の高さ情報(ゼンリンの住宅地図データは2Dだが建物の高さ情報を持っている)を用いて、自動生成で作られる。そこに、ビルの疑似テクスチャーを手作業で貼っていくのだそうだ。

さらに、建物がコンビニエンスストアなどの地図上でポイントとなる特定業種の場合や、一般家屋などに関しても手作業でそれらの部品が配置される。次に鉄道や高速道路などの高架建造物、公園などが設定されることで、3D地図が完成するというわけだ(ビルの色味や細かい形状などは現実とは異なる)。

しかし、それだけだと景観として違和感が生じてしまうため、表通りや、クルマの通行量の多い交差点など(都道府県道同士以上の大きな交差点の中でもさらに重要なところに絞り込んでいる)は、実際に撮影された景観を基にして、画像13のように細部まで似せる作り込みが行われている。例えば、信号や標識はもちろん、街路樹に至るまで部品配置は計測車両による調査データを基にして行われる形だ。なお、こうした3D地図作りは作業は総勢100名弱の体制で行われているという。

そして、リアルな交差点の3D地図を作るために景観画像の撮影を担当しているのが、ゼンリンが運用している道路情報収集車両4種類の内、360度カメラを搭載したトヨタ「カローラフィールダー」ベースの「タイガー・アイ」だ(画像15・16)。細い生活路には入らないので、軽自動車(ダイハツ「ミラ」)が採用されていた細道路計測車両とは異なり、ステーションワゴンが採用されている。ちなみにタイガー・アイの走行距離は数万kmにもおよび、撮影された景観画像の容量は1年間で何TBにもなるそうだ。

画像15(左):タイガー・アイ。画像16(右):細道路計測車両と同様に360度カメラで街中の景観を撮影しまくる