パーダルカ宇宙飛行士は世界記録を更新

今回のミッションではもうひとつ、パーダルカ宇宙飛行士による宇宙滞在の合計日数の世界記録も作られる予定だ。

現時点での合計日数の世界記録保持者はシルゲーイ・クリカリョーフ宇宙飛行士で、6回の宇宙飛行で計803日滞在している。2位はアリキサーンドル・カレーリ宇宙飛行士の759日、3位はシルゲーイ・アヴデーイフ宇宙飛行士の747日だ。

パーダルカ宇宙飛行士はこれまで4回の宇宙ミッションを行い、宇宙滞在日数を合計すると710日で第4位の記録だが、今回のミッションで約半年間宇宙に滞在するため、これらの記録をごぼう抜きにし、1位になることになる。

また、クリカリョーフ宇宙飛行士とアヴデーイフ宇宙飛行士はすでに宇宙飛行士を引退しており、カレーリ宇宙飛行士は引退こそしていないがもう高齢なため、おそらく当分の間、パーダルカ宇宙飛行士の記録が抜かれることはないだろう。

左から、ケリー宇宙飛行士、パーダルカ宇宙飛行士、カルニエーンカ宇宙飛行士 (C)Roskosmos

宇宙旅行者枠の復活

今回の1年間の宇宙滞在によって、副次的に宇宙旅行者の飛行機会が訪れることになった。宇宙旅行者とは文字通り、国の代表である宇宙飛行士としてではなく、宇宙飛行に掛かるお金を自分で負担し、旅行者として宇宙に行く人のことだ。

ロシアは、サユース宇宙船の座席を販売することで外貨を稼ぐという試みを行っており、また米国のスペース・アドヴェンチャーズ社という会社が仲介人となって、これまでに実業家のデニス・チトー氏や、ゲーム・クリエイターのリチャード・ギャリオット氏、「シルク・ドゥ・ソレイユ」の創設者ギー・ラリベルテ氏など、これまでに7人が宇宙旅行者としてISSに行っている。

だが、ISSの6人体制が始まったことや、またスペースシャトルが引退したことで、販売できる座席の余裕がなくなり、2009年を最後に中断されていた。

ISSは現在6人体制で運用されているが、6人の宇宙飛行士を一度に打ち上げるのではなく、3人の宇宙飛行士を6か月ごとに、3か月ずらして打ち上げることで維持されている。ある3人の宇宙飛行士が打ち上げられれば、そのときすでにISSには3人の宇宙飛行士が滞在しており、合流後6人で運用される。その3か月後に先に滞在していた3人が地球に帰還すると、直後に新しい3人の宇宙飛行士が打ち上げられ、ISSはまた6人体制になる、の繰り返しだ。

だが、今回はその3人のうち、2人が1年もの間滞在し続けるため、2席分の空きが生じることになり、パーダルカ宇宙飛行士は1人で帰還しなければならなくなってしまう。そこで今回は変則的に、まずサユースTMA-16Mの帰還の前にサユースTMA-18Mを打ち上げ、一時的にISSを9人体制にし、その直後にサユースTMA-18MでISSにやってきたうちの2人と一緒に、パーダルカ宇宙飛行士がサユースTMA-16Mで帰還するという運用が行われることになっている。

この場合、サユースTMA-18MでISSにやってくるうちの2人の宇宙滞在が約2週間ほどしかないが、ここに今回が初の宇宙飛行となる新人のアンドレアス・モゲンセン宇宙飛行士と、宇宙旅行者として参加する、世界的歌手のサラ・ブライトマン氏が充てられていることになった。新人と旅行者にとって2週間はちょうど良い、というわけだ。

現在サラ・ブライトマン氏は、ロシアのモスクワの郊外にある、通称「星の街」と呼ばれる宇宙飛行士の訓練センターで、宇宙飛行に向けた訓練などを行っている。宇宙旅行者は、ただ単にサユースに乗るというわけにはいかず、厳しい身体検査や、宇宙飛行の理論からサユース宇宙船の仕組みや構造の学習、地上の設備や航空機を使った訓練などを受けなければならないためだ。

付記: 今後のISSへの宇宙飛行士の飛行予定

以下に、今後カルニエーンカ、ケリー宇宙飛行士が帰還するまでの、ISSへの宇宙飛行士の飛行予定を一覧にまとめた。名前の横は(所属機関、サユース宇宙船での役目)を示す。

なお、日付は現時点での予定であり、今後延期される可能性がある。

・サユースTMA-16M打ち上げ(2015年3月27日)
ギナジィ・パーダルカ(ロスコスモス、コマンダー)
ミハイール・カルニエーンカ(ロスコスモス、フライト・エンジニア)
スコット・ケリー(NASA、フライト・エンジニア))

・サユースTMA-15M帰還(2015年5月11日)
アントーン・シュカープリラフ(ロスコスモス、コマンダー)
サマンサ・クリストフォレッティ(ESA、フライト・エンジニア)
テリー・バーツ(NASA、フライト・エンジニア)

・サユースTMA-17M打ち上げ(2015年5月26日)
アレーク・カノネーンカ(ロスコスモス、コマンダー)
油井亀美也(JAXA、フライト・エンジニア)
チェル・リングリン(NASA、フライト・エンジニア)

・サユースTMA-18M打ち上げ(2015年9月1日)
シルゲーイ・ヴォールカフ(ロスコスモス、コマンダー)
アンドレアス・モゲンセン(ESA、フライト・エンジニア)
サラ・ブライトマン(宇宙旅行者)

・サユースTMA-16M帰還(2015年9月11日)
ギナジィ・パーダルカ(ロスコスモス、コマンダー)
アンドレアス・モゲンセン(ESA、フライト・エンジニア)
サラ・ブライトマン(宇宙旅行者)

・サユースTMA-17M帰還(2015年11月5日)
アレーク・カノネーンカ(ロスコスモス、コマンダー)
油井亀美也(JAXA、フライト・エンジニア)
チェル・リングリン(NASA、フライト・エンジニア)

・サユースTMA-19M帰還(2015年11月20日)
ユーリィ・マレーンチェンカ(ロスコスモス、コマンダー)
ティモシー・ピーク(ESA、フライト・エンジニア)
ティモシー・コプラ(NASA、フライト・エンジニア)

・サユースTMA-18M帰還(2016年3月)
シルゲーイ・ヴォールカフ(ロスコスモス、コマンダー)
ミハイール・カルニエーンカ(ロスコスモス、フライト・エンジニア)
スコット・ケリー(NASA、フライト・エンジニア)


参考

・http://www.roscosmos.ru/21400/
・http://www.sarahbrightman.com/news
・http://iss.jaxa.jp/iss/crew/top.html