「計装アンプ」(Instrumentation Amplifier)という用語はしばしば誤用されます。つまり、デバイスのアーキテクチャではなく用途を指す意味で使われるという事です。過去には、高精度と見なせる(つまり、何らかの入力オフセット補正を備えている)アンプは「計装アンプ」であると考えられました。なぜならば、それらは計測システムでの使用を目的として設計されたからです。計装アンプ(INA)はオペアンプの同類であり、基本的構成要素はどちらも同じです。しかし計装アンプは、特定の機能向けに専用設計されているという点でオペアンプとは異なります。この点において、計装アンプはオペアンプではありません。
使用方法における計装アンプとオペアンプの最も大きな違いは、計装アンプではフィードバックループを使わないという事です。オペアンプは回路構成に応じて反転増幅、非反転増幅、ボルテージフォロワ、積分器、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等を含む幅広い機能を実行できます。どの機能を実行するにせよ、ユーザはオペアンプの出力から入力へのフィードバックループを提供する必要があります。そして、このフィードバックループの設計によってアンプ回路の機能が決まります。この柔軟性こそ、オペアンプが各種用途で幅広く使われる理由です。一方、計装アンプはフィードバックループをデバイス内部に備え、入力ピンにフィードバックを行う事はありません。計装アンプの場合、回路構成はアンプのゲイン設定用に1つか2つの外付け抵抗(あるいはプログラマブル抵抗器)を追加するのみです。
計装アンプは差動増幅とコモンモード除去を目的として設計されています。計装アンプは、反転入力と非反転入力間の電位差を増幅すると共に、両方の入力に等しく含まれる信号成分を除去します。この結果、計装アンプの出力はコモンモード成分を含みません。反転または非反転増幅用に構成されたオペアンプ回路は設定された閉ループゲインによって入力信号を増幅しますが、出力にはコモンモード信号が残ります。増幅を必要とする信号(差動信号)のゲインに対してコモンモード信号のゲインの比率が小さいほど出力に含まれるコモンモード成分は減少します。しかしオペアンプの場合、コモンモード成分が出力に残ってしまうため出力のダイナミックレンジが制限されます。
先に述べたように、計装アンプは大きなコモンモード成分を含む信号から必要な微弱信号を抽出するために使いますが、コモンモード成分の形態はさまざまです。ホイートストンブリッジで構成されたセンサ(後述)を使う場合、両方の入力には大きなDC電圧成分が等しく含まれます。このDC成分以外にも各種の干渉信号が含まれます。一般的な干渉源には電源ラインからの50または60Hz(およびその高調波成分)があります。このようなAC干渉信号の周波数は幅広く分布するため、計装アンプの出力における補償は非常に困難です。このためコモンモード除去比の仕様は、DCだけでなく特定周波数レンジのACに対しても重要です。