京都大学は2月3日、攻撃法の異なる捕食者がハダニの対捕食防御を破綻させることを発見したと発表した。

成果は、京大農学研究科の矢野修一助教、同・大学院生の大槻初音氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、オランダの昆虫学専門誌「Entomologia Experimentalis et Applicata」誌オンライン版に近日中に掲載される予定だ。

「カンザワハダニ」は、作物の葉を吸汁する害虫だ。通常、外敵から身を守るために葉の表面に張った網の中で暮らしており(画像1)、アリなどのほとんどの捕食者はこの網のためにハダニに手が出せない(画像2左)。しかし、ハダニ食に専門化した「カブリダニ」は網に侵入してハダニを襲える能力を持つ。しかしカンザワハダニもさるもので、カブリダニが網に侵入した気配を察知すると、今度は網の外に逃げて攻撃を避けるのである(画像2右)。

画像1(左):葉面に張った網の中で暮らすカンザワハダニ。画像2(右):ハダニは網に籠もることでアリの攻撃を防ぎ(左)網の外に出ることでカブリダニの攻撃を防ぐ(右)。しかし両方の捕食者がいる時には、カブリダニから逃げたハダニはアリに食べられてしまう(下)

このように、ハダニは網を攻略できない捕食者とできる捕食者に個別には対処できるが、野外では複数種の捕食者が同居するのが常だ。そこで研究チームは、網に籠もるか網を出るかという相容れないハダニの護身術は、両捕食者がいる場合に破綻すると予想。ハダニとアリ、カブリダニの相互作用を観察できる人工生態系(画像3)を作り、捕食者の一方、または両方がいる系を反復してハダニの生存を比べる実験が行われた。

画像3。アリとダニの相互作用を検証する人工生態系(マイクロコズム)

これまではアリがカンザワハダニを捕食するかどうかを調べる有効な方法がなかったが、カンザワハダニを閉じ込めた葉にアリだけが出入りする装置を使って、葉上からカンザワハダニが消えたことから、アリに捕食されたと研究チームは判定。その結果、捕食者が一方だけの系ではほとんどのカンザワハダニが生き残ったが、両方がいる系ではカンザワハダニの生存率が大幅に低下し、いなくなったカンザワハダニのすべてがアリに捕食されていることが確認された。

要は、画像2の下のイラストのように、カブリダニを避けて網を出たカンザワハダニがアリに捕食されたからである。カンザワハダニがカブリダニを避けることを優先した理由は、カンザワハダニにとっては雑食性のアリよりも、カンザワハダニだけを狙うカブリダニの方がより脅威度が高いからだと考えられるという。

天敵を利用してカンザワハダニを抑える生物的防除は、化学農薬に代わる環境に優しい防除法として近年注目されている。今回の研究は、これまでカンザワハダニと無関係と思われていたアリが、カブリダニを利用したカンザワハダニの生物的防除の成否を大きく左右する可能性を示した形だ。巨大な捕食圧を持ち何処にでもいるアリたちは、まだ我々の知らない多くのところで作物や庭の草木を守ってくれている可能性があるという。気持ち悪いからといってアリを無闇に退治するのは考えものかも知れないとしている。