スマートデバイスが爆発的に普及し、それに呼応するかのようにWeb技術も急激に進化しつつある。IT/Webの世界は、そうした変化の大波に飲まれている。エンジニアがこの荒波に負けず生き残るためには、強力な「未来を指し示すコンパス」が必要となる──。

そうしたコンセプトで開催されている「Tech Compass」は、マイナビが主催するスキルアップ勉強会である。第4回となるセミナーが、竹橋のパレスサイドビル・マイナビルームで開催された。

今回のテーマは「データマイニングは魔法の杖か?」である。人気のWebサービスはデータマイニングが支えていると言われ、ビッグデータの活用がビジネスの成功に結びつくとして大きく注目されている。しかし一方で、データマイニングは万能ではないという意見もある。

データ解析はビジネスにとってどれほどの威力があるのか、またその限界はどこにあるのか。Web/ゲーム業界で大きな成功を収めているヤフー、ドリコム、Gunosyの3社から、データマイニングに深く関わる3人のエンジニアを招き、各社のデータ活用の事例を語っていただいた。

すべてのスタッフがデータに触れられる環境が必要

まず最初にヤフーからは、事業戦略統括本部データソリューション本部サービスマネージャーの角田直行氏が登壇し、「課題解決エンジンを支えるデータ処理システムと利活用事例」と題した講演を行った。

ヤフー 事業戦略統括本部データソリューション本部サービスマネージャー 角田直行氏

「課題解決エンジン」とは、Yahoo! JAPANのサービスコンセプトである。ユーザーが抱える問題・課題を解決するため、検索、オークション、地図、ニュース、不動産、保険など多数のWebサービスを提供する。それゆえにYahoo!は、月刊総ページビュー数が約507億(2013年1~3月期)、年間ユニーク検索クエリ数が約75億という、あらゆるジャンルの膨大なビッグデータを保有している。

「検索クエリ、つまり検索キーワードは、ユーザーの強い意志が表れるデータです。そのため私たちは、特に重要な情報として扱っています」(角田氏)

角田氏は、「ビッグデータはユーザーの課題解決につながる」と主張する。ユーザーの属性や行動を示す各種データを解析・分析し、それをサービスに反映させることで、ユーザーの課題を解決することができる。この満足度の向上が次の利用につながり、また多くのデータが蓄積される。「こうしたビッグデータ蓄積・解析のライフサイクルを回すことも、非常に重要なことです」(角田氏)

データ解析によるサービス改善は、Webデザインへも反映される。Yahoo! JAPAN検索キーワードを入力するウィンドウは縦22ピクセルで作られていたが、これを縦28ピクセルに変更したことでユーザーの満足度が向上し、年間数億円にのぼる利益向上につながったという。

このほかにも、ユーザー向けにはターゲティング広告をはじめ、レコメンデーション、検索キーワードの入力補助、音声アシスト(音声認識や意図解析)といったサービス、また社内ツールとしてはアクセス解析、マーケットインテリジェンスなどでデータ分析が使われている。

角田氏は「データへのアクセシビリティ」が非常に重要だと主張する。「スタッフ全員がデータに触れられる環境が重要です。サービスをよく知るヒト、つまりサービスの担当者が、いちばんサービスをよくすることができます。データマイニングの担当者は、そうした活用を支援するために存在すべきです」

講演後の「データマイニングに弱点はあるか」という質問に対し、角田氏は「最近はビッグデータということばが先行しているためか、とりあえずデータを集めようという風潮になっています。しかし、そのデータで何をするかを後から考えたとき、必要なデータを取得していなかったというケースも珍しくありません。ゴール設定が重要です」と注意を促した。