発展目覚ましい推薦システムも使い道がなければ意味が無い

最後に登壇したのは、関喜史氏だ。東京大学大学院に籍を起きつつ、ユーザーに合わせた情報を届けるGunosyの共同創業者として、「推薦システム(レコメンドエンジン)」の研究・開発の研究に従事している

Gunosy 共同創業者の関喜史氏

推薦システムとは、簡単には「膨大な情報の中からユーザーに適した情報を検索して提供する」ものである。Amazonやe-bayなどのECサイトでは馴染みが深く、Google検索やFacebookのタイムラインなどにも活用されている。

「スマートデバイスの普及が、推薦システムの普及に寄与すると考えています。パソコンに比べて画面が小さいなどの制約があるため、推薦システムを用いて提供する情報を削減することが重要です」(関氏)

推薦システムの要素は「どのようなデータを用いるか」「どのようにフィルタリングするか」「どのようにデータを用いるか」「何を推薦するか」という4つに分けられる。それぞれにさまざまな手法が用いられているが、特にどのような基準で推薦するかという点においては、多くの議論が起きているという。

「過去の行動に合わせた同じような記事ばかりでは、ユーザーの満足度の向上につながらないという議論があります。そのため、"多様さ"や"新鮮さ"といったパラメータが重要になります。また、推薦エンジンの信頼性を高めるため、"安定性"や"信頼性"といったパラメータも重要視されています」

「Gunosyでは、アルゴリズムを変更して多様性を導入し、リスト内に同じような内容の記事が挿入される割合を減らしたところ、サービスの継続性が改善するという結果が得られました」(関氏)

また情報の信頼性においては、SNS情報を推薦システムへ活用しようという動きが出てきているという。

「SNS情報からは、アイテムに対する信頼性やユーザーに対する信頼性といった情報を得ることができます。これらを用いてフィルタリング性能を強化します。また、ユーザータグを用いたシンプルなコンテンツベース推薦も、協調フィルタリングの要素を含んだものとして活用が見込まれています」(関氏)

関氏によれば、推薦システムの技術はまだ発展途上であるという。ユーザー視点に立った評価方法は最近考慮され始めたばかりで、指標はまだまだ確立されていないのが現状だ。f

「最近は推薦システムを導入したいという声をよく耳にするのですが、自身が抱えている課題に対してマッチしているのかどうかを見極める必要があります。例えば、ニュースと不動産情報を比べると、ユーザーのプロセスがまるで違います。そのためまったく異なる課題が存在するのです。データ分析や推薦エンジンという魔法の杖も、使い道がなければ意味がないのです」(関氏)

「データから、何のために、何を紡ぎ出すのか」

こうしてWeb/ゲーム業界の注目企業3社による、三社三様のプレゼンテーションが終了した。「ビッグデータをどう活用しているのか」という点については、それぞれの企業のサービスモデルごとの特色が色濃く出ていたが、何よりも興味深かったのは、どの発表者も「どんな目的を達成するためにデータ分析を導入するのかという課題設定こそが重要」という点で一致していたことだ。

データマイニングは、迷える子羊に行き先をさし示す魔法の杖ではない。だが、使い手が「何のために、何を紡ぎだすのか」を理解した上で、自らのビジネスに合った適切なやり方でその杖を振るうことができれば、極めて大きな威力を発揮する――そんな実像の一端を知ることができた勉強会だった。