魔法の杖だとしてもそれでは人を動かせない

続いて登壇したのは、ソーシャルゲームやインターネット広告などの企画・開発を行うドリコムの"ところてん"氏だ。同氏は、「本当は広いデータ分析の世界」と題した講演を行い、まず最初に世の中の"データ分析"と氏が手がける"データ分析"は毛色が違うという点について述べた。

ドリコム "ところてん"氏

「世間一般の"データ分析"と言うと、"ビッグデータ"や"データサイエンティスト"などのカッコイイキーワードが並びます。しかし私が手がけているデータ分析は"Excel""ピボットテーブル""明日までにデータ出して!"…何か違います」(ところてん氏)

一口にデータ分析と言っても実態はさまざまで、広い分野で活用されている。ところてん氏によれば、アカデミックな研究用途から、検索・レコメンド業界、氏の関わるソーシャルゲームという分野ごとに、手法も質も変わる。それぞれ、サービスやシステムを改善するためのPDCAサイクルにおいて、データ分析を活用する部分が異なるという。

「研究レベルのデータ分析はF1レース。決められたレギュレーションの中で0.1%の精度を競い合う世界です。この結果は、PDCAのPlanで活用されます。検索・レコメンド業界のデータ分析は、総合力が試されるラリーレースの世界。データ分析と自体がサービスの改善につながるため、PDCAサイクルのすべてを担うことになります」(ところてん氏)

ではソーシャルゲームのデータ分析は何に例えられるかと言えば、なんと「軽トラック」であるという。

「ソーシャルゲームのコアコンピタンスは"ゲームがおもしろいかどうか"です。データ分析はないと困りますが、あったから勝てるというものではありません。代替手段はあっても、荒れた農道をつっぱしるには軽トラが一番というわけです」(ところてん氏)

ソーシャルゲームは、ユーザーが飽きないように、常に新しい体験を提供し続ける必要がある。ゲームの改善に生かすためのデータ分析が必要であり、また開発のスピードに追いつくためには、素早い分析手法が必要であるという。しかも分析者は、利益を最大化する改善策や企画を立てられる人物が望ましい。

「現場のエンジニアやゲームディレクターが理解できないアルゴリズムは使えません。現場で改善が提案され、実装されてこそ意味があるためです。例えば重回帰解析は、知っている人ならば非常に有用な情報が得られる手法ですが、現場には伝わりません」(ところてん氏)

そして氏は「データマイニングが魔法の杖か」という疑問へ次のように回答する。

「十分に発達した科学技術は魔法のようなものです。しかし、魔法では人は動かせません。早くて簡単で翻訳しやすい、現場を動かすことのできる分析手法が必要です」(ところてん氏)