三角柱型の分子ローリングロボットを開発した仙台チーム

最後にプレゼンを行ったのが仙台チームで、同チームも前述したように分子ロボコンに参加した。分子ロボコン運営の担当は、「高速AFMによる観察」だった。なお、仙台チームのプレゼン画面は、最終選考会で使用した英語版のままなので、若干わかりづらいところもあるかも知れないがご了承いただきたい。

そして仙台チームの作成する分子ロボットだが、分子スパイダーを改良して移動速度を上げるという方法も考えたが、新しい分子をデザインするというBIOMODの趣旨に従って、自由にロボットをデザインし、どの移動方法が最も速いかを検討することにしたという。関西チームは前述したようにルートの工夫をしたわけだが、仙台チームは分子ロボットそのものの性能を上げることに挑んだのである。

当初のアイディアには、分子に車輪をつけることも考えたという。しかし、分子レベルでの実現はなかなか難しいことから、1歩の歩幅(ストライド)を広げること、無駄なく直線的にゴールへ向かうということを目指した。

そして歩幅を広げる方法として、三角柱の分子ロボットを作り、ロボットそのものを回転させるという方式を選択したというわけである。三角柱は、長方形のDNAオリガミを折りたたんで作る。1辺が44nmあり、一般的な分子スパイダーの1歩の歩幅が30nmであることから、ストライドを広げることが実現した(画像24)。

画像24。分子スパイダーと三角柱ロボットとの1歩の歩幅の比較

三角柱の設計方法は、「M13mp18」と呼ばれる長い1本鎖DNAがあり、それを2本鎖によるらせん状態を組んで固定するためのM13mp18に相補となる短いステープルDNAを用いてDNAオリガミの平面構造を作るのである。

そしてチームは三角柱の製作を進めると同時に、分子動力学を用いた粗子化シミュレータも作成(画像25)。これにより、移動の仕方の分析や別種の分子同士の比較など、実際に確認するのが難しいものも視覚化して検証できるようにしたというわけだ。

画像25。分子動力学を用いた粗子化シミュレータの分子スパイダーのモデル

シミュレーションでは、分子ロボット本体のブラウン運動を「ランジュバン方程式」で記述。分子ロボットを仮に正四面体のノーマルな分子スパイダーとし、スパイダーの足DNAがフィールド上の「サブストレイト(substrate)」(仙台チームは足場の基質DNAをサブストレイトと表現)と二重らせんを組もうとして引き寄せられ、実際に組めば足DNAが固定されるというわけだ。

サブストレートには結合した相補鎖を途中で切断する活性を持つ「DNAzyme配列」があり、その作用で二重らせんが解消されるという仕組みである。今いるサブストレートとの二重らせんが解消されれば、足DNAは別の長いサブストレートと二重らせんを組もうと次のものを探し、それが分子ロボットを移動させていくというわけだ。

また、シミュレーションでは分子ロボット本体の構造をいろいろと変えられるため、通常の正四面体の分子スパイダーと、三角柱ロボットで移動速度を比較。分子スパイダーに対して三角柱ロボットはサブストレートの間隔を広げることができるので、速度的に三角柱ロボットの方が5~7倍も速いことがわかった(画像26)。

なお、当初は足DNAを3種類用意し、サブストレートもそれぞれに相補的に3種類用意し、より直線的に進めるようにと考えた(画像27)。しかしこれはあまり効果がなく、時間は1種類を1としたら、3種類は0.99というもので、ゴール成功率に関しては1本足の21%から6%に大幅ダウンという逆に悪い結果が出てしまったという(画像28・29)。

画像26。シミュレーションによれば、分子スパイダーよりも1歩の間隔が長い三角柱ロボットは、ゴールまでに5倍から7倍早くたどり着けるという結果が出た

画像27。3種類用意すれば、より直線的に進むようにという工夫だったが、返ってよくないことが判明

画像28。ゴールへの到達時間はほぼ一緒。有意な差が出ていない

画像29。それに対して成功率は逆に1種類の足の方が3倍以上も高い。3種類の足はよくないことが判明した

続いて、三角柱ロボットの設計の話に。構造設計は「caDNAno」というソフトウェアを用いて行われた。平面状のDNAオリガミの2カ所が中空構造になっており、そこで折り曲げて三角柱を作るというわけだ。また、両端は接続部分となっており、折り曲げた時に接することで三角柱としての形状を維持するのである(画像30)。

画像30。caDNAnoでデザインした、三角柱ロボットの基本となるDNAオリガミ。これを2カ所で折りたたんで三角柱にする

分子ロボットの実際の製造は、M13mp18とステープルDNAを1:10の割合で混ぜるところからスタート。「5×TAE-Mg2+」と超純水を用いて、構造体の濃度が4nMになるように調整が行われた。続いて、「PCR」を用いて95℃まで温度を上げ、そこから25℃まで1分に1℃ずつ温度が下がるように設定して「アニーリング」(熱処理、焼き鈍し法などのことだが、今回の場合の意味としては、1本鎖のDNA同士が絡み合って2本にすること)した。

AFMで実際に三角柱ができているかどうかの確認を実施したところ、併せて作った平面のDNAオリガミと、別の形状のものが確認された。特性上、AFMは正確な三角柱の立体構造の確認をできないのだが、平面ではないのは確かである(画像31・32)。

画像31。三角柱に折りたたむ前のDNAオリガミの顕微鏡画像

画像32。直径19nmの三角柱と思われる顕微鏡画像

そして足DNAの動作確認についても説明が行われた。足DNAとサブストレイトの比率を1対1として「TA-Mg2+」バッファで調整し、20分アニーリングして二重らせんを組ませ、その後にサブストレートと足DNAの切断に必要な触媒としてZn2+を加えたものと、加えていないものを調整。それを15分放置した後、24%アクリアミドゲルで電気泳動し、Zn2+を加えていないものは結合が切れないバンドのみが現れ、Zn2+を加えたものは結合が切れたものと切れていないものの2本のバンドが現れ、足DNAが正常に作動することが確認された。

しかし、三角柱ロボットをコの字型のコース上に載せて実際に歩行するか否かの実験を仕様としたところ、うまく載らないことが判明。原因は、DNAがマイナスの電荷を帯びているための静電的反発が理由と推測された。結局、このために三角柱ロボットもコース上を移動するまで至らなかったという。今後は、足DNAやサブストレートの長さを伸ばすなどの調整を加え、ロボットとコースとの距離を開けて静電的反発を軽減させるなどの対策を考えているとした。

Wikipediaの仙台チームのページ「MOLECULAR ROLLING ROBOT」はこちらだ。

以上で、3大学のプレゼンの終了である。さすがにSF作品に出てくるような分子ロボットまではまだまだ遠いようだが、5年、10年とコンテストを続けていき、しっかりと先輩から後輩へとノウハウやデータを伝えていくことができれば、コの字型のコースを移動してゴールへ向かうのは易しすぎで、コースも複雑な形状を取るようになることだろう。始まったばかりでまだまだだが、今から注目しておけば、その進展ぶりがわかると思うので、ぜひみなさんも追いかけてほしい。

なお、来年は東京チームが東工大と東大とそれぞれ1チームずつに分かれて参加する可能性が高いほか、ほかにも参加に興味を示している大学が1、2校あり、日本チームだけでも参加数が増えそうである。来年は正式種目となる分子ロボコンでぜひ結果を出し、きっちりと成績を出してBIOMODの総合優勝などを目指してほしいし、世界的に活況を呈してもらって、数年後にはBIOMODから分子ロボコンが独立するぐらいの状況にしてほしいものである。