David Wood氏は2009年9月まで、Symbian FoundationでSymbianエバンジェリストを務めた。手にしているのは、いまでも愛用しているという「PSION Series 5MX」

Symbian Foundationの戦略変更が発表され、「Symbian」プラットフォームはNokiaの管理下に入ることになった。SymbianはNokiaに2008年に買収されるまで、英Symbianが開発とライセンスを行っていたOSだ。その歴史は古く、20年以上前にPSIONという小さなイギリスのベンチャー企業が作成した小型端末向けのソフトウェアフレームワークが前身となる。その原型作りを担当したのがDavid Wood氏だ。Wood氏は現在、Accentureで組み込みソフトウェアサービス部門に勤務している。

11月、Symbian Foundationとして開催するイベントとしては2回目にして最後となった「Symbian Exchange & Expotision 2010」が開かれたオランダ・アムステルダムで、David Wood氏にスマートフォンから"モノのインターネット"まで、さまざまな話を聞いた。なお、質問への回答はAccentureとしてではなく、Wood氏個人のコメントとなる。

--あなたがSymbianプラットフォームの原型を作られたと伺っています。

1988年より、ソフトウェアエンジニアとしてPSIONに勤務しました。ソフトウェアアーキテクトとして、ソフトウェアを統合してフレームワークを設計して作ったものが「EPOC」です。EPOCは、その後Symbian OSとなります。

PSION Series 5MXはEPOCを1999年に発売された。持たせてもらったが、思ったより軽かった

1998年、Nokia、Motorola、Ericsson、パナソニックなど外部からの投資を得られることになりSymbianが創業されることになりました。われわれは、スマートフォンが重要になり、将来誰もがスマートフォンを利用するようになるという展望を持っていました。当時は首を傾げる人が多く、ユーザーは複雑なスマートフォンよりも、電話ができるシンプルな携帯電話を望んでいると思う人が多かったのです。ですが、われわれはこのような小型デバイスでコンピュータの能力が活用される日が来ると信じていました。

Accentureに入社したのも同じようなパターンです。あれから10年以上たった2010年、わたしは、車やTVなどあらゆる種類の組み込みデバイスがリッチで洗練されたソフトウェアを持つようになると信じています。Wi-Fiを搭載したカメラが出てきており、ユーザーの健康状態をモニタリングする医療機器などの開発も進んでいます。匂いセンサーにより、ユーザーの息をモニタリングして健康状態を知らせる、といったことが可能になってきました。Accentureの組み込みソフトウェアサービスは、スマートな組み込み機器の時代が来る、というわたしと同じビジョンを持っており、共感できたので参加することにしました。もう1つの背景がSymbianサポート・コンサルのSOSCOです。SOSCOはSymbian設立当初にわたしが立ち上げた事業部で、Nokiaが2008年にSymbianを買収したときに売却を決定、最終的にAccentureが取得しました。

この分野は今後5年、10年、大きく発展し、Accentureはこの技術の活用や、この技術を利用した製品の利用を支援します。

携帯電話の重要性は低くなり、われわれはさらに多くの種類のスマートな組み込み端末に囲まれるでしょう。その中には、電話の機能を持つ端末もあります。たとえば「iPad」には無線通信機能(3G)があります。10年後には5,00億台のスマート端末が出てきており、RFIDなどを入れると、兆の単位になると予想します。スマートなオブジェクト - "Internet of things(モノのインターネット)"の時代です。

--端末どうしがコミュニケーションするような時代に向け、課題は何だと見ていますか?

技術的課題では、バッテリ持続時間、OTA(Over-the-Air)でのデバイスのアップデートとサポート、低電消費力の無線などが挙げられます。

それ以外では、セキュリティとプライバシーの問題があります。ユーザーは常にモニタリングされることになり、たとえば保険会社がよく病院に行っている人に対して製品で差別をする、なといったことが起こるかもしれません。

セキュリティとプライバシーは解決不可能な問題ではありませんが、よく考える必要があります。最終的にはプライバシーがない状態に慣れるだろうと見る人もいますし、Facebookの創業者、Mark Zuckerberg氏は、ムーアの法則に真似て「Zuckerbergの法則」のようなものを持っていると聞きます。「ユーザーが公開する自分に関するデータは18カ月ごとに2倍になる」というものです。最初は名前を公開し、その後、星座、写真、友人と写っている写真、とだんだん増えていきます。将来、ある種の反動が出てくるのではないでしょうか。公開されたデータは友人も閲覧しますが、悪意ある人もこの情報を使うかもしれません。

このようにデータの収集と管理について、まだ課題はたくさんあります。技術は実現の助けになりますが、これは技術の問題ではありません。

もう1つの問題がビジネスモデルです。これまでの既存技術を使って業績が出ている企業は、新しい技術の活用に熱心ではありません。新技術はコストを節約しますが、古いやり方で新技術を使っても収益は出せません。新技術が登場してもフルに活用されないのであれば、新しい事業グループが必要です。

スマートフォンでもこれが起こりました。スマートフォンの進化はAppleやGoogleなど、業界の外部で起こりました。Appleらは、業界の内部者とは異なる事業目的があったのです。

--Symbian Foundationの戦略変更が発表されました。当初から長く関わった立場から、現状をどう見ていますか?

Symbianが実現してきたこと、到達してきたことを誇りに思っています。2014年にはSymbianの累計出荷台数が10億台に達するともいわれています。1998年に自分が関わったソフトウェアが動く端末が世界で10億台も出荷されると聞けば、飛び上がって喜んだはずです。Symbianはスマート端末の可能性を人々に提示したといえます。

わたしのモットーは、競合する前にコラボレーションすること。敵をどうやって友人にするか、です。

Symbianの由来はSymbiosis(共生、協力などの意味)やSymphony(調和)で、その名が示すとおり、Symbianはとても良いチームでした。プラットフォームそのものは今後も継続/発展し、Symbian端末の出荷台数も増加し続けると信じています。Symbian端末は安価で、今後さらにミッドレンジで利用されるようになるでしょう。ハードウェアの価格が下がることで、このトレンドがさらに加速し、インドや中国、南米などの大きな需要に答えることができるでしょう。Nokiaはアプリストア「Ovi Store」を改善しているので、開発者もひきつけられると思います。

ですがわたしは現在、Accenture勤務であってSymbianエバンジェリストではありません。Accentureはプラットフォーム中立で、Android、MeeGoなどさまざまなチームがあります。

--オープンソースという決断は間違っていたと思いますか?

良い戦略だったと思います。オープンソースはある種の共同作業を可能にしてくれます。

オープンソースは共有したいというメンタリティが重要になりますが、これはすべての企業にフィットするとはいえません。現在Symbianを使っている企業(Nokiaなど)は共有したいという気持ちが強くないようなので、今後はオープン性が少し変わってくるかもしれません。今後も共有する部分はあるでしょうが、これまでのようにコミュニティ作りにフォーカスすることはないと思います。コミュニティというよりも、使いたい企業にライセンスするという方針になるのではないでしょうか。