「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向け、通信キャリアの事業を中心に、決済・保険・投資、エンターテインメント、ライフサポート、ショッピング、ヘルスケアと多様なビジネスを展開する NTTドコモ。2022 年 7 月には、スマホ完結型の個人向けローンサービス「dスマホローン」の提供を開始しました。ドコモが提供する各サービスの利用状況に応じて金利優遇が受けられる同サービスは、ドコモユーザーにとっての“お得感”というメリットだけでなく、全てのユーザーにとってスピーディに借り入れができるサービスとしても注目が高まっています。この dスマホローンのアジリティを支えるシステム基盤に採用されたのは、Microsoft Azure でした。

スマートライフ事業における収益の柱となる「dスマホローン」サービスのプロジェクトが始動

モバイル通信キャリアとして広く知られている NTTドコモですが、“コミュニケーション”を軸に便利で快適な生活を実現するスマートライフ事業も積極的に展開しており、幅広い領域で多様なサービスを提供しています。その 1 つである「決済・保険・投資」カテゴリでは、決済サービス「d払い」や電子マネー「iD 」付きのクレジットカード「dカード」といった FinTech サービスを提供しており、多くのユーザーに利用されています。同社では、これらの決済サービスを起点に金融事業の拡大を図っており、その一環としてスマホ完結型の個人向けローンサービス「dスマホローン」を 2022 年 7 月 20 日にリリースしました。同サービスのビジネス領域における責任者である NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部 ファイナンスサービス担当部長 進藤 丈二 氏は、dスマホローンのプロジェクトが発足した経緯をこう語ります。

  • 株株式会社NTTドコモ-スマートライフカンパニー-クレジットサービス部-ファイナンスサービス担当部長 進藤 丈二 氏

    株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部 ファイナンスサービス担当部長 進藤 丈二 氏

「NTTドコモは通信キャリアとして携帯電話事業で大きく成長してきましたが、現在は dカードや d 払いといった決済サービスも主要ビジネスと捉えて注力しています。携帯事業と決済ビジネスは相性が良く、ここを起点に金融事業を拡大していくという事業戦略を立てています。決済事業以外にも、融資や投資、保険と、さまざまな FinTech サービスを手がけており、そのなかで、収益の柱となり得る『ローン』領域のサービスを自社で立ち上げていこうというプロジェクトがスタートしました」(進藤 氏)。

ローンサービスの立ち上げはかなり以前から検討されていましたが、本格的にプロジェクトとして始動したのは 2020 年です。進藤 氏は「当時はスマホを使って簡単に借り入れができるサービスが出現してきており、通信キャリアである弊社も、スマホ完結型のローンサービスを目指しました」と語り、セキュアで高い可用性が求められる金融システムの開発にあたっては、約 2 年をかけて設計・構築を進めたと振り返ります。

dスマホローンは、ドコモのさまざまなサービスを利用しているユーザーほどお得に利用できるサービスとして設計したと進藤 氏。「具体的にはドコモの回線契約があれば標準金利から 1 %優遇、dカードの契約があればレギュラーで 0.5 %、ゴールドで 1.5 %、さらに家計簿アプリ『スマート家計簿 スマー簿』を使っていれば 0.5 %の金利優遇が受けられます」と説明します。さらに同サービスでは、d払い残高にチャージし、そのまま決済で

使える形で借り入れができる仕組みも採用しており、同社の決済サービスとの連携により利便性を高めています。

自社サービス群との接続に Azure Virtual WAN を用いるなど、Azure の機能・サービスを効果的に活用

2020 年に始動した本プロジェクトですが、独自に貸金業のシステムを構築するのは NTTドコモにとって初めての取り組みとなり、まずは RFI(情報提供依頼書)の形で 25 社のベンダーから情報を収集しました。本プロジェクトでシステム開発の責任者を務めた NTTドコモ スマートライフカンパニー プロダクトデザイン部 クレジットサービス ファイナンスサービス担当課長 広瀬 仁一 氏は、システム構成と開発ベンダーを選定するまでの流れを次のように語ります。

  • 株式会社NTTドコモ-スマートライフカンパニー-プロダクトデザイン部-クレジットサービス-ファイナンスサービス担当課長-広瀬-仁一-氏

    株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー プロダクトデザイン部 クレジットサービス ファイナンスサービス担当課長
    広瀬 仁一 氏

「dスマホローンは貸金業に属するサービスで、貸金業の法令を遵守するため、実績の高いパッケージ製品の導入を検討しました。RFI で情報提供いただいた 25 社のベンダーから私たちのビジネスにマッチする 5 社を選定させていただき RFP(提案依頼書)を実施しました。そのなかで、融資サービスのシステム開発において豊富な実績を持つパートナー企業 2 社との協働による、パートナーが提供する勘定系システムを軸としたシステム構成の提案を採用したという経緯です」(広瀬 氏)。

NTTドコモでは、以前より DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み、オンプレミスからクラウドへの移行を加速させていました。そのため、dスマホローンのシステム基盤としてもクラウド(IaaS)を軸に選定を進めたと広瀬 氏は説明します。同社では、適材適所で複数のクラウドサービスを使い分けるマルチクラウドを推進しており、今回のプロジェクトではMicrosoft Azure(以下、Azure)が採用されました。

「パートナー企業が提供する勘定系システムに、Azure 上に構築した事例が豊富だったことが採用を決めた要因の 1 つです。さらに Windows Server との親和性や、オペレーションのしやすさ、拡張性の高さなどを総合的に判断した結果、Azure の採用を決定しました」(広瀬 氏)。

こうしてクラウド基盤として Azure が選定され、約半年をかけてシステムを構築。その後はテストを重ねて問題点の洗い出しとシステムのブラッシュアップが行われ、2022 年 7 月より dスマホローンサービスの提供が開始されました。同サービスの基盤は、勘定系システムを軸とした債権系の基幹システムをはじめ、バックエンドの機能を兼ね備えたフロント基盤、DWH となる情報系基盤と大きく 3 つのシステムで構成されています。

パートナー企業 2 社とともにシステム構築に携わった広瀬 氏は、「決済サービスをはじめ当社が展開しているサービス群や貸金業提供にあたり接続が必須な社外サービスとの接続に苦労しました」とシステム構築時の苦労を語り、その解決にあたっては Azure の各種機能・サービスが重要な役割を果たしたと当時を振り返ります。

「Azure の基盤上に構築した dスマホローンのシステムは、社内外のさまざまなサービスとの接続が必須となりました。そこで本プロジェクトでは、当時提供が開始されたばかりだった接続サービス Azure Virtual WAN を採用することで、各サービスとのスムーズな接続を実現しています。このおかげでシステム構築のリードタイムも大幅に減らすことができ、Azure を採用したメリットを感じました」(広瀬 氏)。

また、システムの運用をスモールスタートできたことも、Azure の採用によるメリットの 1 つと広瀬 氏。「基本的に小さく始めて大きく育てるというスタンスで構築を進めており、システム基盤としてもスモールスタートでユーザーの増加に合わせて柔軟に拡張できる Azure は、コストメリットを考えても非常に有効でした」と力を込めます。標準ツール類の使いやすさについては開発チームからの評価も高く、コスト分析やリソース分析を行うツールを効果的に活用することで、戦略性を持った拡張計画が立てられたといいます。

システム構築にあたっては、マイクロソフトのサポートも大きな効果があったと続けます。「Azure Virtual WAN に関しては、事例やドキュメントも少ない状況で、トライ&エラーを繰り返して実装していきましたが、その際にはフロントに立ったパートナー企業 2 社はもちろん、マイクロソフトの密接なサポートにも助けられました」と広瀬 氏は喜びを口にします。

与信管理などに利用する情報系システムでは、Power BI や Azure Synapse Analytics などを採用しデータ活用

dスマホローンのサービスを設計したビジネス部門では、システム構築に合わせてユーザー受け入れテストやフィールドテストなど、さまざまな検証を実施。サービスとして顧客に提供できるクオリティーを実現するための取り組みを続けていきました。安定稼働やユーザーの利便性を担保するためのテストは多岐にわたり、順風満帆ではなかったと進藤 氏は語ります。本プロジェクトで、審査業務、コールセンターなど現場サイドのオペレーションを担当した NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部ファイナンスサービス推進担当主査 島田 明典 氏も、当時の苦労を振り返ります。

  • 株式会社NTTドコモ-スマートライフカンパニー-クレジットサービス部-ファイナンスサービス推進担当主査-島田-明典-氏

    株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部 ファイナンスサービス推進担当主査 島田 明典 氏

「本プロジェクトではオペレーションの設計・運用といった部分を担当しており、プロジェクト発足当初の業務要件定義フェーズから関わってきましたが、システム構築後にテストをしたところ、期待した通りにシステム動作しないなどの問題が発生したりと、リリース前にこれらの問題を解決するのは大変でした。やむを得ずオペレーションで回避する対応をとったものもありました」(島田 氏)。

また、dスマホローンの基盤を構成するシステムの 1 つである情報系基盤は、日々蓄積されていくビッグデータを分析して、戦略データとして審査業務などに活用されています。この情報系システムでは、Microsoft Power BI をユーザーインタフェースとして採用し、参照元のデータを取り込む機能として Azure Data Factory や Azure Functions を活用。DWH、ビッグデータ分析として Azure Synapse Analytics を採用するなど、Azure が提供する機能・サービスを積極的に利用しています。与信戦略などを担当し、データサイエンティスト的な立場で本プロジェクトに携わっている NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部 ファイナンスサービス戦略担当 青柳 禎矩 氏は、直感的な操作性を実現できたことを高く評価しています。

  • 株式会社NTTドコモ-スマートライフカンパニー-クレジットサービス部-ファイナンスサービス戦略担当-青柳-禎矩-氏

    株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー クレジットサービス部 ファイナンスサービス戦略担当 青柳 禎矩 氏

「データは与信管理などに日々活用していますが、直感的に操作できることが大きなメリットと実感しています。ノウハウの共有などを密に行わなくても、新しい担当者がスムーズに作業でき、円滑に業務を進められています」(青柳 氏)。

このように、Azure の機能・サービスを十二分に活用し、dスマホローンのシステム基盤は構築されました。2022 年 7 月の提供開始から半年余りが経過した現在、初年度としては順調な滑り出しと進藤 氏は語り、大きなトラブルなしでサービスを提供できていることを喜びます。

「設定した目標はもう少し高かったのですが、初年度としての出足は順調であると評価しています。ただ、dスマホローンは決済サービスに続く収益の柱と位置付けており、さらにプロモーションを展開していく必要があると考えています。申し込みされるお客様のなかには NTTドコモの回線を利用していないユーザーも多かったことから、回線契約に依存しないサービスであるという“気づき”が得られました。申し込みのしやすさ、審査のスピードなどが評価されたと考えており、ドコモユーザーに“ お得感”をアピールするのはもちろん、その他のユーザーに対しても、利用しやすいローンサービスとして認知拡大を図っていきたいと思います」(進藤 氏)。

高可用性・セキュリティ・柔軟性を併せ持つ Azure が、ドコモの金融事業戦略を支える土台となる

今回の取り組みを踏まえ、NTTドコモでは dスマホローンの改善を続け、顧客に価値を提供するサービスとして、ブラッシュアップしていく予定です。基盤システムの観点からの今後の展望について、広瀬 氏は次のように語ります。

「dスマホローンサービスは開始したばかりで、基盤となるシステムも生まれたてに近い状態です。ユーザーに価値を提供するためには、UI ・ UX についての精錬が必要になると考えています。そのなかで、システムのアジリティ向上は重要なテーマと捉えており、現在は当社とパートナー企業 2社が一体となり、高速ウォーターフォール的な開発で、2 週間に 1 度のペースで機能改修を行い、新たな価値の提供にチャレンジしているところです。こうした取り組みにより、ビジネス部門の戦略をシステム面からフォローしてきたいと考えています。Azure はその土台であり、高可用性・セキュリティ・柔軟性といった金融事業に不可欠な部分を担保し、お客様に価値を提供するクラウド基盤として、さらなる機能拡充を期待しています」(広瀬 氏)。

進藤 氏も、ストレスなく利用できるサービスを目指して改善を続けていきたいと語り、ビジネス部門としても、突発的なニーズに対応するための審査の高速化を進めていきたいと展望を口にします。

こうしたシステム開発のアジリティ向上や審査の高速化を実現するため、Azure が提供する PaaS サービスに注目していると広瀬氏。「現在は IaaS としての利用がほとんどですが、必要に応じて Azure が提供する PaaS サービスも積極的に活用し、サービスの改善を含めて Azure との関係性を深めていきたいと考えています」と話します。

NTTドコモが展開する金融事業を、Azure とマイクロソフトが今後も力強く支援し続けます。

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