街づくりの総合デベロッパーとして、オフィス・ショッピングモール・すまい・物流施設・ホテル・リゾートといった不動産ビジネスを広く展開する三井不動産。デジタルの実装にも積極的で、DX本部が中心となりクラウド推進やシステム先進化、BPR の促進といったミッションを掲げ、社内システムのモダナイズはもちろん、オフィスビルや商業施設などのビジネス変革も推進しています。その同社が、2019 年度の本社移転を機に社員間コミュニケーションの活性化に向けた取り組みに着手。ラナユナイテッドが提供するオンライン社員名簿ツール「FACEWALL」を採用し、Azure の PaaS サービスを利用してシステムを構築しました。

【パートナ―】
株式会社ラナユナイテッド
三井情報株式会社

本社移転+ ABW(Activity Based Working)導入で、今までにない社員間コミュニケーションが求められるようになった

幅広い領域で不動産ビジネスを展開する三井不動産では、新入社員はもちろん、キャリア採用での中途社員も多く、社内異動も頻繁に行われています。同社では 2019 年度に本社を移転した当時から ABW(Activity Based Working:場所に捉われないアクティブな働き方)の導入も推進しており、社員同士がお互いを知る機会が減ってしまうのではといった課題が懸念されました。こうした状況に対応するため、ビルディング本部が中心となり、社内コミュニケーションの活性化プロジェクトを始動。同社の社内システムやビル・商業施設の DX といった事業部門のインフラ構築を担う DX本部も参画して、ソリューションの選定に着手します。三井不動産DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事の山本 将人 氏は、当時の状況をこう語ります。

  • 三井不動産株式会社 DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事 山本 将人 氏

    三井不動産株式会社 DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事 山本 将人 氏

「弊社では、2019 年度の本社移転のタイミングで ABW 制の導入を進めており、中途入社の社員も増加している状況のなか、社員それぞれの“人となり”がわかりづらいといった声が各部門からあがっていました。そのため、ビルディング本部を中心に社内コミュニケーションを活性化するためのプロジェクトをスタートし、さらに新型コロナウイルス感染症拡大の影響でテレワークやマスク着用での勤務になり、必要性が増したという経緯です」(山本 氏)。

そして、本プロジェクトでコミュニケーションの活性化を実現するためのツールとして同社が選択したのが、「FACEWALL(フェイスウォール)」です。FACEWALL は、ラナデザインアソシエイツ・ラナエクストラクティブ・ラナキュービックという 3 つのデザインカンパニーで構成されるRANA UNITED(ラナユナイテッド)が開発した、社員のスキルと個性を直感的に検索できるオンライン社員名簿ツールです。本サービスのプロダクトマネージャーを務める、ラナユナイテッドの渡辺 英暁 氏は、FACEWALL の特徴について解説します。

  • 株式会社ラナユナイテッド FACEWALL プロダクトマネージャー 渡辺 英暁 氏

    株式会社ラナユナイテッド FACEWALL プロダクトマネージャー 渡辺 英暁 氏

「三井不動産様に限った話ではなく、社員が数多く入社される成長中の企業からは、以前より『顔と名前がどんどん一致しなくなってきている』といった声が聞こえてきていました。そこにフリーアドレスの導入やリモートワークの普及といったワークスタイルの変化が重なり、他の社員と会話を始めるためのきっかけをつくりづらい状況が増加しています。部署内もそうですが、特に部署間のコミュニケーションが生まれないことは、イノベーションの創出という意味でも大きな障害となります。そこで、人事部が社員を管理するシステムではなく、社員同士が楽しんで使えるツールというコンセプトで FACEWALL を開発しました」(渡辺 氏)。

プロジェクトを立ち上げた段階では、実は別のアプリケーションの導入も検討していたと話すのは、今回の取り組みでアプリケーション部分を担当した三井不動産 DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事の谷本 文音 氏。「今回のプロジェクトは、人事部門が管理して利用を促すものではなく、あくまでユーザー自身がつながりを持つためのツールを提供するというコンセプトだったため、最終的に、人材『管理』を目的としたタレントマネジメントのシステムではなく、操作性が優れている FACEWALL 導入が決定しました」と語り、自発的なコミュニケーションのきっかけとなる使い方も可能で、オンラインとオフラインの橋渡しとなるサービスとして活用できることが、FACEWALL 採用の決め手になったと説明します。

  • 三井不動産株式会社 DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事 谷本 文音 氏

    三井不動産株式会社 DX本部 DX一部 DXグループ 技術主事 谷本 文音 氏

  • FACEWALL の画面例
  • FACEWALL の画面例
  • FACEWALL の画面例

Azure の PaaS サービスでシステムを構築できると判断し、これまで経験のない PaaS の採用を決定

FACEWALL の導入を決定した三井不動産は、ラナユナイテッドをアプリケーションの構築パートナー、さらに三井情報を基盤(インフラ)構築のパートナーとして、プロジェクトを本格的にスタートさせます。三井不動産では、主に社内システム系の基盤に関しては Microsoft Azure(以下、Azure)を活用し、ビジネス系のシステムには別のクラウドサービスを利用しており、三井情報は Azure 環境の構築・運用を担っています。今回は社内システム側のプロジェクトとなるため、アプリケーションの基盤には Azure を採用。当初は Azure IaaS 環境の VM(仮想マシン)上にシステムを構築して PoC を実施していましたが、セキュリティ対応などで求められる運用保守の負荷軽減を考慮して Azure の PaaS サービスの活用を検討したと山本 氏は振り返ります。

「Azure IaaS 上で PoC を実施しているなかで、FACEWALL を構成する要素が、Azure の PaaS サービスで実現できることが見えてきました。PaaS を採用することで、IaaS 環境で必要なサーバーの維持・メンテナンスにかかる作業を省力化できるのではと考え、ラナユナイテッドに相談。Azure のサービスに PHP で動かす仕組みが整っていたことや、データベースも含めた必要な要素が揃っていたことで、比較的スムーズに PaaS の採用を決定できました」(山本 氏)。

データベースなどの一部では Azure の PaaS サービスを利用した経験もあった三井不動産ですが、アプリケーション動作環境を含めたシステム全体を PaaS で構築し、それを全社展開するのは初の取り組みとなり、同社にとって大きなチャレンジだったといいます。インフラ構築のパートナーである三井情報に PaaS を活用することを伝え、ラナユナイテッドも含めた 3 社の協働体制により PaaS 環境でのシステム構築がスタートしました。三井情報ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室 室長の猪野 勝 氏は、プロジェクトに参画した当時の状況を語ります。

  • 三井情報株式会社 ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室 室長 猪野 勝 氏

    三井情報株式会社 ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室 室長 猪野 勝 氏

「三井不動産様の Azure 環境は IaaS 利用が中心でしたが、三井情報では PaaS 環境についても検証を進めており、お客様への提供経験もありました。とはいえ、そこまで実績が豊富にあったわけではなく、三井不動産様の環境でどう実装するかを検討し、手探りの状態で設計・構築を進めていきました」(猪野 氏)。

こうして、IaaS 環境上での PoC を踏まえ、本プロジェクトは PaaS を採用して 2021 年 4 月に再始動。約 1 年弱の開発期間を経て、2022 年 2 月に正式リリースして稼働を開始しています。

最新機能を効果的に活用することで、IaaS 環境と比較しシステム構築にかかる工数を大幅に削減

Azure の PaaS サービスを活用してアプリケーションを構築した今回のプロジェクトでは、Azure App Service とデータベースサービス(Azure Database for MySQL や Azure Cache for Redis)などが利用されています。山本 氏は「社員の個人情報を扱うため、できるだけ社内の環境に構築するというコンセプトのもと、プライベートエンドポイントやVNet(Azure Virtual Network)統合といった新機能を積極的に使っていきました」と語り、こうした機能を組み合わせたことが、大きなトラブルなくセキュアなシステムを構築できた要因と分析します。

「FACEWALL の構成は非常にオーソドックスで、PaaS 環境において比較的構築しやすいソリューションだと思っていましたが、プライベートエンドポイントなど新しい技術については参照できる事例が少なく、どう実現するのか、この構成で合っているのかといったところで苦労しました」(山本 氏)。

本プロジェクトでアプリケーションの設計やディレクションを担当したラナユナイテッド シニアテクニカルディレクターの辺見 直哉 氏は、Azure の PaaS サービスの活用は初めてで戸惑う面もあったものの、Azure の PaaS を利用することのメリットも実感できたと話します。

  • 株式会社ラナユナイテッド 執行役員/シニアテクニカルディレクター 辺見 直哉 氏

    株式会社ラナユナイテッド 執行役員/シニアテクニカルディレクター 辺見 直哉 氏

「Azure の PaaS サービスについては私たちも経験がなく、手探りの状態で進めていきました。苦労したところもありましたが、セキュリティの担保やサーバーの設計など、IaaS 環境で不可欠な作業が省けるなど、採用したことによるメリットも享受できました。IaaS 上でのアプリケーション開発では普段気にする部分でも、それが不要になった箇所は多く、効率的なサービス開発が行えたと実感しています」(辺見 氏)。

インフラ構築を担当した 三井情報 ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室の木川 賢 氏も、「三井情報としてもかなり手探り感は強かったのですが、慣れてしまえばスムーズに進められました。IaaS 環境と比べてチーム体制も簡単に構築でき、全体的に省力化できたことは大きかったと思います」と語り、Azure の PaaS サービスの活用に手応えを感じています。

  • 三井情報株式会社 ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室 木川 賢 氏

    三井情報株式会社 ソリューション技術本部 次世代基盤第二技術部 第二技術室 木川 賢 氏

また、Azure の PaaS サービスを利用して構築を進めるうえでは、マイクロソフトのサポートにも助けられたと木川 氏。「わからない部分は Microsoft Teams などを使って、実際に説明を受けながら作業を進めることができました。こうしたサポートがなければ、システム構築はかなり難しいものになったのではと考えています」とマイクロソフトの技術的支援を高く評価しています。

  • システム構成図

    システム構成図

本プロジェクトで得た PaaS 活用のナレッジを活かし、セキュアで運用負荷の少ない社内システムを構築

こうして Azure の PaaS サービスを効果的に活用することで、2022 年 2 月よりサーバーレス+セキュリティを担保したコミュニケーション基盤としての FACEWALL が稼働を開始。現在は全社に展開しており、安定して運用されているといいます。すでに多くの社員に活用されており、特に組織に加わったばかりの社員からは高く評価されていると、谷本 氏はFACEWALLの導入効果を語ります。

「リリース時には社内報で案内したりメールで告知を行ったりしました。現在は異動した社員や新入社員、キャリア入社した社員など、新しく組織に加わった社員を中心に、幅広く活用されている状況です。昨今ではマスク着用が基本で顔と名前が一致しないと悩んでいる社員も多かったのですが、FACEWALL の導入により、顔と名前が一致しただけでなく、スキルや経歴などの情報を見ることで、それぞれの“人となり”がわかるようになったという喜びの声をもらっています。プロフィールは任意入力なのですが、同じ会社にいる社員をもっと知りたいといった声もきている状況で、想定以上に活用されていることを実感しています」(谷本 氏)。

また山本 氏は、「Azure の PaaS サービスを利用して 1 つのシステムを構築できたことは、当社の実績としても大きいと感じています」と語り、PaaS を利用することでパッチの適用やセキュリティ対応といった日々の運用が楽になったと手応えを口にします。

「今回の取り組みで、Azure の PaaS サービスで社内システムが構築でき、IaaS 上にスクラッチで構築していたような環境を PaaS に移行させると運用負荷が軽減できることがわかりました。基幹業務システムではないため、ある程度リスクを取れたというところもあり、PaaS 活用のスタートとして最適なプロジェクトだったと感じています。今後も PaaS サービスと相性のよいシステムに関しては、積極的に PaaS 化を進めていきたいと考えています」(山本 氏)。

三井情報の猪野 氏も、今回のプロジェクトで得た経験を今後のシステム構築に活かしていきたいと話し、「Azure の PaaS サービスを活用したシステム構築はもちろん、我々はシステム運用も担当しているので、PaaS の機能を活かした運用の仕組みもつくっていきたいと思います」と今後の展望を語ります。

さらにラナユナイテッドの辺見 氏も、本プロジェクトで得た経験が今後のサービス展開に与える影響は大きいと力を込めます。

「今回 PaaS 環境で FACEWALL を構築してみて、メンテナンス性の高さや運用保守の負荷がかからないといったメリットを実感できました。サービスを開発・提供していくにあたっては、当然利用者の増加を目指していくわけですが、利用者が増えた分、運用保守のコストも増えてしまうのでは意味がありません。そこで今回得た Azure の PaaS サービスの知見を活かし、運用保守の負荷をかけずにサービス利用者の増加に対応できる仕組みを実現していきたいと考えています」(辺見 氏)。

手探りの状態で Azure の PaaS サービスの効果的な活用方法を模索し、社内システムにおいても PaaS のメリットを十分に享受できることを証明した本プロジェクト。PaaS 活用のナレッジを獲得した三井不動産、ラナユナイテッド、三井情報の今後の取り組みは、システム構築・運用の効率化を図りたい企業にとって重要な“気づき”を与えてくれるはずです。マイクロソフトは、今後も支援を続けます。

*所属部署、役職等については、掲載当時のものです

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