シーメンスの「NX」および「NX X」は、設計・製造現場で一気通貫に利用できるCAD/CAE/CAMソリューションだ。シーメンスの多胡 要佑氏によるセミナー「いよいよCADもクラウドへ!その効果と実力とは?」から、その特徴を紐解いていきたい。
中小企業の設計・製造現場を悩ませる、情報の断絶
多くの大企業の設計・製造現場では図面の3D化が進んでいる。しかし、中小企業の多くでは紙図面こそ減少傾向にあるものの、中心となっている図面は2Dであり、3Dはまだまだ主流になるまでには至っていないのが実情だ。
2Dでやりとりを行うことのデメリットは、3Dで作成したデータを設計から製造までそのまま繋げられないことにある。2Dを取り扱う部署や会社を挟むと、3Dを中間フォーマットに変換する必要が生まれる。その際に欠落が生まれ、完全な連携が難しくなるのだ。
それでも中規模、小規模の事業者に2Dが残ってしまう背景には、都度増設してきたシステムが乱立し、それによってソフトウェア間の連携がうまく取れない状況がある。そして、この連携不足を補うための管理コストが負担になるという悪循環が発生してしまっているのが現状だ。
こういった設計・製造現場の情報の断絶を解決するためにシーメンスが提案するのが、「NX」および「NX X」となる。
「NX」が支持される3つの理由とは
「NX」は、包括的なデジタルツインを実現した、次世代の設計・製造ソリューションだ。3D設計、シミュレーション、製造機能を備え、3Dで作成したモデルをそのまま製造までシームレスに繋げることができる。「NX」が支持される理由は大きく3つある。
ひとつ目は、AIを搭載した新世代のユーザーインターフェースを採用したことによる、使いやすさの追求だ。
ユーザーの操作データに基づき、AIが現在のタスクに適したコマンドを予測して画面に表示させる「コマンド予測」や、AIがコンポーネントの形状を認識して特定する「類似コンポーネントの表示/非表示」、AIが予測したオブジェクトを自動選択しクリック操作を削減してくれる「スマートセレクション」、AIによる音声認識で連続したコマンド操作が行える「ボイス アシスタント」などを搭載することで、ユーザーの生産性を高めている。
ふたつ目は、シーメンスのオープン戦略に基づく、高い互換性の維持だ。
「NX」は3Dジオメトリのモデリングエンジンとしてシーメンスが独自開発している「Parasolid」を使用している。Parasolid は1300以上の企業に提供されており、350を超えるアプリケーションで採用され、600万以上のユーザーが利用している。また6カ月ごとに行われる機能向上のためのメジャーバージョンアップを経ても、互換性は確保。以前の「NX」の旧バージョンはもちろん、前身であるUnigraphicsのデータも直接開いたり編集したりすることができ、実際に30年以上前のデータでも利用できるという。
3つ目は、ジェネレーティブデザインに代表される新しい3Dモデル作成やエレメカ連携への対応を進める最新技術への投資だ。
ジェネレーティブデザインでは、従来の工作機械で加工するようなオリジナルデザインをもとに最適化された形状をコンピュータが生成する。生成されたモデルをCAD上で直接編集できるコンバージェントモデリングも搭載し、設計という視点での高い運用性を実現している。さらに、設計したモデルを簡単に検証できるCAE(Computer Aided Engineering)や製造後のモデルの検査といった一連のプロセスを「NX」ひとつで一気通貫に行うことが可能だ。
またエレメカ連携では、配策(電気ルーティング)・配管(機械ルーティング)設計はもちろんのこと、シーメンスのハーネス設計ソリューション「Capital」と連携し相互にやりとりを行ったり、基板設計ソリューション「Xpedition」と連携し、メカ設計を行ったりすることができる。
「NX」をクラウド化させた「NX X」
「NX X」は、この「NX」をクラウド型にしたサービスだ。従来の「NX」は、ライセンスサーバーとワークステーションを社内に設置して運用する形を取っており、社内のIT部門がセットアップやアップデート、管理業務を行う必要があった。
これに対しクラウド版の「NX X」は、「NX」の機能や互換性、使い勝手はそのままに、新たな価値とより柔軟な利用形態を提供するものとなる。
「NX X」では、「NX」同様にクライアント用ソフトウェアをインストールするが、同時にクラウドとも接続され、ネットにアクセスできる環境であればどこでも利用できる柔軟性、クラウドを活用した協調設計、ワークフローが実現できる。また、ライセンスはクラウド上にあるため、ユーザー側でライセンス等の管理を意識することなく「NX」を利用可能だ。
これによる大きな利点は、クラウド版である「NX X」を選択することで、ITインフラの一部をシーメンスに負担してもらえるという点にあるだろう。これによって軽減できるIT管理リソースは大きい。また「NX X」では、クラウドをバックボーンとするAIに代表されるようなサービスとの融合が拡張されていくため、それらの機能をすぐに活用できるのは大きな魅力だ。
「NX X」は3つのコアシートから選択可能
「NX X」を利用する際は、「NX X Design Standard」「NX X Design Advanced」「NX X Design Premium」の3つのコアシートからユーザーに適した製品を選択することになる。どのコアシートにも、ベース製品として「NX X」「Teamcenter Share」「NX X組み込みデータ管理」が含まれており、上位製品はこれに加えツールが追加されていく形だ。
「Teamcenter Share」は、無償で利用できるWebブラウザベースのデータ共有+コラボレーションツール。ひとつのプロジェクトにつき、社内外問わず最大10名が登録し、利用できる。CADデータのみならず、関連資料も含めたデータの受け渡しに利用できるため、小規模プロジェクトの連携に気軽に利用できるだろう。
「NX X組み込みデータ管理」は、製造現場の企画・開発・設計に関するデータを一元管理できる、いわゆるPDM(Product Data Management)ツール。「NX X」1本のライセンスごとに、1ユーザーが登録でき、「NX X」で作成したデータが自動でクラウド上にも保存される。チェックイン・アウトの排他制御や、ローカル保存の選択なども可能だ。
「NX X Design Advanced」では、これらの機能に加え、PMIや板金機能、ルーティング機能が、「NX X Design Premium」では、高度なサーフェス機能、AIを搭載した操作支援機能が追加される。
「NX X」のトークン・ライセンスとパッケージング
「NX X」では、「NX X Value Based Licensing」というライセンス形態も採用しており、トークンパックをあらかじめ購入しておくことで、シーメンスのさまざまなオプション機能を利用することができる。このトークンは、利用後に開放されるという仕組みを持っている。「NX X Value Based Licensing」はバージョンを重ねるごとに機能が拡張されており、現行バージョンの「NX X」では130以上のアプリが利用可能だ。
「NX X」のパッケージは、3つのコアシート、トークンパック、そしてオプション製品から構成される。オプション製品には、「NX X Remote Add-on」と、Webで閲覧できる効率的な学習コンテンツ「Siemens Xcelerator Academy」が用意されている。
一聴すると混乱するが、分かってしまえば非常にシンプルなパッケージングだ。他社の競合製品と比較すると、ベースライセンスの中にデータ管理ツールが含まれ、必要な機能は都度トークンで利用できるため、コストを抑えながら自由な設計環境を構築することができる。このスモールスタートを叶えるスケーラビリティの良さは、小さな企業にとっても好適だろう。
設計部門における「NX」の導入事例
国内の有名電子・電機メーカーでは、デザインの革新を通じて技術革新をリードするべく、設計にシーメンスの「NX」と「Teamcentor」を導入したという。
その結果、生産性が25%向上。開発によりリソースを避けるようになっただけでなく、製品を企画・設計し、市場に投入するまでのリードタイムを約40%短縮できたという。また、それまでのCADソフトは学習期間が約12カ月かかっていたが、「Siemens Xcelerator Academy」を利用することで2カ月まで短縮できたそうだ。
また欧州の電気自動車メーカーでは、従来のより軽く、クリーンで、エネルギー効率が良く、手頃な価格の自動車を設計するために、「NX」を初めとしたシーメンスのソリューションを採用。製品開発のプロセス全体をデジタル化することでマイクロファクトリーコンセプトを実現し、開発コストを約20%削減したという。
30日間のフリートライアルも用意
「NX」と「NX X」の機能はいまもなお進化を続けており、今後は、インターネットと外部AIがより融合し、さらなるユーザーエクスペリエンスの向上が期待される。
「NX X」は、30日間のフリートライアルが用意されており、基本的に設計・製造系のフル機能が利用できる。興味のある方は、ぜひ一度、その機能を試してみてほしい。設計から製造まで一気通貫で扱えるというメリットは、中小企業においても設計・製造現場に革新をもたらしてくれるはずだ。
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