NTTドコモは2021年6月28日、「MWC Barcelona 2021」でバーチャル展示していた同社の5G・6Gに向けた技術を国内メディア向けに披露しました。中でも注目されたのが「つまむアンテナ」なのですが、これは5Gの高度化や6Gに向けた技術とのこと。一体どのような技術で、なぜアンテナを“つまむ”必要があるのでしょうか。
アンテナのつまんだ場所だけをエリアにする技術
新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年は開催直前に中止となってしまった、携帯電話業界最大の見本市イベント「MWC Barcelona」。2021年は開催時期を例年より遅い6月に設定し、なおかつリアルとオンラインの二元開催という形を取ることで、無事開催されるに至りました。
とは言え、リアルイベントとしてのMWC Barcelonaは、エリクソンやノキアなど多くの企業が出展を取りやめたこともあって、規模は大幅に縮小。本格回復には至っていない印象を与えたというのも正直なところのようです。
例年、MWC Barcelonaに出展している国内企業も同様で、多くの企業が出展を見合わせたり、オンラインでの出展のみに絞ったりするなどの対応を取っていました。その1社がNTTドコモで、同社は今回のMWC Barcelonaにはオンラインでのみ出展。自社が進めている5Gや6Gに関する技術や取り組みをアピールしていたのですが、2021年6月28日には国内のメディアに向け、その出展内容を実際に展示するイベントを実施しています。
その内容は、5Gと「BodySharing」という技術を活用したリアルな遠隔でのカヤック操作体験や、O-RANの海外普及に向けた「5GオープンRANエコシステム」の取り組みなどかなり多岐にわたるのですが、中でも注目されたのが6Gに向けた取り組み。その1つとして挙げられたのが「つまむアンテナ」です。
これは、ミリ波のような非常に高い電波を使って屋内などをエリア化するのに用いられる技術とのこと。具体的にはまず、フッ素樹脂などでできた「誘電体導波路」と呼ばれるケーブルのような長い線路を屋内に設置し、そこに5Gや6Gなどで用いる高周波の電波を送ります。その後、誘電体導波路のうちエリア化したい場所を「別伝導体」でつまむと、そこから電波が漏えいし、周辺をエリア化できるというわけです。
内容としては、わざと電波を漏えいさせ、地下鉄などをエリア化する同軸ケーブルなどに近いものといえるのですが、重要なポイントはやはり、つまむことで離れた場所をエリア化できる点にあります。しかし一体なぜ、“つまむ”ことが必要なのでしょうか。
建物内でミリ波をより遠くに、柔軟に届ける仕組み
その理由の1つは、高い周波数の電波を特定の場所に、しかも安価に届けられるようにするためです。高い周波数の電波は帯域幅が広く、5Gや6Gで求められる高速大容量通信に適している一方、障害物に弱く直進性が強いことから、室内のように入り組んだ場所では基地局から離れた場所に電波を届けにくいという弱点があります。
しかし、つまむアンテナの技術を使えば室内にあらかじめ誘電体導波路を設置しておき、後からエリア化したい場所だけをつまむことで、高い周波数帯の電波を直接その場所に送ることが可能になります。誘電体導波路の素材自体は高額なものではないとのことで、基地局を複数設置したり、中継器を設置したりするよりもコストを大幅に抑えられることがメリットの1つとなるようです。
そしてもう1つは、建物内のレイアウト変更に柔軟に対応できるようにするためです。工場などではレイアウトの変更が頻繁になされることが多く、その中でミリ波による5Gを活用するとなると、レイアウト変更の度にエリア整備をし直さなければならず手間がかかります。
ですが、つまむアンテナがあれば、あらかじめ誘電体導波路を設置しておけば、たとえレイアウトが変わってもつまむ場所を変えるだけで指定の場所だけをエリア化できるので、柔軟性が高く手間がかからないというメリットがあるのです。
会場では、現在使用されているミリ波の28GHz帯より一層周波数が高い60GHzの電波を、誘電体導波路と別伝導体を使って壁の向こうにある場所に電波を届けるというデモを実施。誘電体導波路を別伝導体が付いた洗濯ばさみでつまむことで電波が射出され、受信機を通じてモニターに映像が配信される様子が示されていました。
ミリ波は現状、その特性の影響から非常に使いにくい帯域と評価されることが多く、積極的な活用がなされていないというのが正直なところです。しかしながら、5Gの高度化、そして6Gにおいては帯域幅が広いミリ波をいかに広範囲で有効活用できるかが重要になってくるのもまた確かです。
それだけにつまむアンテナのような、ミリ波を必要な場所に確実に届けるための技術やアイデアは今後一層重要になってくるでしょう。
NTTドコモでは他にも、ガラスを使って電波を集約し、最大200倍まで電波を増幅する「メタサーフェスレンズ」など、他にも高い周波数帯の電波を有効活用するための技術開発を進めているとのことで、そうした技術の実用化が進むことでミリ波を取り巻く環境が改善されることに期待したいところです。