クラウド名刺管理サービスを導入した効果

そこまでして社内での利用を促したものの、すぐに効果が出るか否かは疑問符が付く。その点を浦部氏に尋ねてみると「効果が可視化されてきたのは半年後でした。名刺情報をマーケティングに活用していきたいと考え、MAツールの『Marketo』の導入も検討していました。しかし、リードの情報がなければMarketoを導入しても活用できないことから、Sansanを先行導入して、まずは名刺データを集め、その後にMarketoを導入しました」と説く。

これにより、2016年8月にSansan導入前に保有していた過去の名刺情報のみで登録した約5000人から、2017年2月からスタートさせた同社のブログを紹介するメールマガジンの送付件数が1000人増の6000人、現在では7800人と順調に拡大している。

浦部氏は「リード数が飛躍的に伸びました。ブログを立ち上げて、その内容をMarketoでメール配信するのですが、送信相手はSansanから得るというシステムを構築しました。従来は、デジタル上での問い合わせはコーポレートサイトのみだったことに加えて、それまでは年間の問い合わせはゼロに等しく、問い合わせがあったとしても売り込みしかない状態でした。しかし、デジタル化に舵を切ったことで、2016年は6件だった問い合わせが2017年には前年比15倍の90件に急拡大しました」と、Sansanに加え、MAツールを導入したことでデジタルでの顧客とのタッチポイントが改善した点を挙げている。

結果としてデジタルからの問い合わせに対する受注率は20%となり、1000~2000万円の案件も受注するに至っている。

一方で、地元の大企業と長年取り引きをしているとアップセル、クロスセルで多くの商材を発注してくれるものの、同じ企業が関東に拠点を展開している場合、同社の関東営業所の担当者が訪問しようとしても、クライアントの関東担当者からしてみればトヨコンを知らないことがあるため、間口が広がらないことがあったという。

同氏は「Sansanの名刺データを連携させることで、地元の担当者が当社と取り引きしているということを当社の関東営業所と共有し、つながりを持つことで取り引きができるようになったというケースもあります。名刺の管理が各個人に依存していたときは、こういった情報を連携できませんでしたが、名刺データを共有していれば連携することが可能になりました」と、名刺データの共有で販路の拡大につながった経緯を説明した。

現状では安定的な収益の確保と成長を続けており、売り上げに対する貢献は全体の2%がデジタルからの接触となっており、3年以内には5%を目指す考えだ。

コロナ禍で突き付けられた新たな課題

SansanとMAツールの導入により、順調にデジタルマーケティングを進めていたトヨコンだが、新型コロナウイルスの感染拡大が同社の事業にも影を落とすことになる。

浦部氏は「昨年3月に緊急事態宣言が発令された際に営業部に所属する40人が自宅待機のため一切動けなくなり、情報をアウトプットすることができなくなりました。そのため、情報を発信できる場が必要であると考え、同6月にZoomによるウェビナー企画を発案し、営業部に打診しました」と話す。

また、8月には浦部氏が所属する同社の経営管理部 人事広報課に細井あゆみ氏が他部署から異動してきていた。

ただ、実際には8月~10月までの期間はZoomで自主開催を検討していたが、ノウハウなどが蓄積されていないほか、メルマガやアンケート、参加者の把握など、裏方作業の整理と準備で何が必要か、ということに時間を割いてしまっていた。

さらに、従来から利用しているMarketoの活用も候補に挙がったが、オペレーターが1人しかいない同社では一からすべてを作りこみつつ、ウェビナーの配信やZoomの設定、登壇者のアサインなどを行うには、あまりにも範囲が広すぎると感じていたという。

結果的に東芝テックと11月に共催という形でオンラインセミナーを開催したものの、当初から考えていた自主開催の実現には及ばない状況が続いていた。

同氏は「なんとか裏方作業だけでも簡素化できないのかと考えていた際に、未経験者でも最短10分で作成開始からページ公開まで完了できるという『Sansan Seminar Manager』を紹介されました。まずは、導入してみたら自社でのウェビナー開催に近づくのではないかと感じました」と当時を振り返る。

Sansan Seminar Managerは昨年10月にSansanが発表したセミナー実施における募集ページ作成、来場受付、ウェビナー(オフラインイベントも可)、リード管理をはじめとした一連のオペレーションを提供し、セミナー運営を支援するセミナー管理システムだ。細井氏が裏方作業は未経験ということも相まって、同社ではSansan Seminar Managerの導入を決める。

初心者でもセミナーの管理を可能に、そして新たな取り組み

そして、共催のオンラインセミナー直後となる11月12日に告知し、同19日にはウェビナーの開催にまでこぎ着けている。

実際に、Sansan Seminar Managerを利用した細井氏は「セミナーの内容、日程などを順番に入力するフォーマットがあるため、申し込みのLPページは数分で完了し、メール配信設定もテンプレートがあることから作業はスムーズでした。何もわからない状態でしたが、すぐに使えて簡単でした」と、初心者でも簡素化されたツールであるため裏方作業がスムーズになり、難なく使えたという。

トヨコン 経営管理部 人事広報課 細井あゆみ氏

トヨコン 経営管理部 人事広報課 細井あゆみ氏

現状では使用感などに不満はないものの、細井氏は「当初は、こういう機能が欲しいなぁと思っていたのですが、時間の経過とともに使いやすくなっています。強いて言えば、LP作成時に登壇者の入力欄があるのですが、もう少し表現を柔らかくした『出演者』や『講演者』などのバリエーションがあるとうれしいですね」と話す。11月以降はウェビナーやオンラインによるイベント開催は自社で実現しているが、将来的な展望は気になるところだ。

この点について浦部氏は「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、強制的にオンラインでつながる時間が増えてDXが加速し、ウェビナーなども含めてお客さまとデジタルでの接触をあらゆる企業が実施しています。そのため、当社は可処分時間(顧客が自由に使える時間)にユーモアを添えてコンテンツを配信できればと考えています。お客さんが自由に使える時間にちょっとしたユーモアを届けられればということで、ウェビナーやYoutubeの企画を打ち出していきたいですね」と、他社の動向をふまえつつ独自性を持ったコンテンツ配信を心掛けている。

その一例として「トヨコンラボ」という包装資材の徹底比較やレビューなどを行うチームを立ち上げて、動画コンテンツの配信に現在では取り組んでいる。すでに、3月25日に第1回として「もっと早く知ればよかった『テープの選び方』」をYoutubeで配信しており、これまで蓄積した知見を発揮したコンテンツを提供している。

包装資材の徹底比較やレビューなどを行うトヨコンラボを設立している

包装資材の徹底比較やレビューなどを行うトヨコンラボを設立している

このように、いわゆる”足で稼ぐ”営業スタイルから、SansanとSansan Seminar Managerを導入して、デジタルトランスフォーメーション(DX)を遂げたトヨコン。地方企業のみならず、こうした事例は待ったなしのDXに悩む企業においては解決に向けた糸口になるのではないだろうか。今後も同社のDXに向けた取り組みに期待したいところだ。