「あつまれ どうぶつの森」「Ghost of Tsushima」「ファイナルファンタジーVIIリメイク」「Fall Guys」「スパイダーマン:マイルズ・モラレス」など、ゲームのあたり年だった2020年。米国で後半に「HADES」というゲームが話題になった。初めて聞いたという方も多いと思う。インディゲームで、対応プラットフォームはPCのみ (海外ではSwitch版もあり)。でも、Steamでは10万人以上がレビューして「好評」が98.9%という圧倒的な好評価。IGNやPolygonといったゲーム専門メディアのゲームオブザイヤー、TIMEの2020年のベストゲーム、The Game AwardとGolden Joystick Awardsのベストインディゲームなど、激戦だった2020年のゲーム賞レースで輝かしい受賞歴を残した。

HADESはギリシャ神話の世界をモチーフにしている。プレイヤーは冥界の王子・ザグレウスになり、襲いかかってくる敵を倒し、試練を乗り越えて父・ハデスが支配する地獄から脱出する。アクションゲームだ。

  • 爽快な戦闘が魅力だが、ギリシア神話の神々が内輪もめを繰り広げる物語も面白い。冬中に日本でもSwitch版が登場する予定で、英語版の良さを伝えるローカライズに期待したい(出典:Supergiant Games)

    爽快な戦闘が魅力だが、ギリシア神話の神々が内輪もめを繰り広げる物語も面白い。冬中に日本でもSwitch版が登場する予定で、英語版の良さを伝えるローカライズに期待したい(出典:Supergiant Games)

HADESがヒットしている理由の1つが、失敗してもまた挑戦してしまう中毒性の高さである。まず、アクションが派手で爽快。そして、脱出の途中で仲間の神々と出会い、それらが持つ能力を取り入れてザグレウスを強くしていくRPG的な成長要素が面白い。

いわゆるローグ(Rogue)ライクなゲーム(挑戦の度にマップや出現する敵、展開などが変化)で、常に新鮮に遊べる。失敗したら能力やスキルを失って最初からやり直しになることに心が折れる"ローグライク嫌い"の人もいるかと思うが、HADESの場合、再挑戦になっても消費アイテムなど一部の要素が維持され、強くなったザグレウスを擁して「今度こそは!」と思える。リトライさせる塩梅が絶妙だ。一度脱出に成功した後にもう一度試しても、異なる武器やスキルのザグレウスで全く違うゲーム体験を楽しめて、また挑戦してみたくなる。

HADESのようにプレイしたらはまるゲームでも、世に知られなかったら大ヒットにはつながらない。そうして消えていったインディゲームは枚挙に暇がない。HADESを開発したSupergiant Gamesは開発段階から積極的に情報を共有し、ファンに参加させるマーケティングで注目を維持し続けた。

例えば、アートデザインだ。HADESはSupergiantの4番目のゲームである。「Bastion」「Transistor」「Pyre」と、同スタジオは美しいグラフィックスのゲームで評価を積みかさねてきたが、HADESの場合、出てくる神々が非常に個性的に描かれている。アートの歴史をふり返ると、裸婦の絵画や彫刻が認められなかった時代でも神や悪魔として表現したら許された。時代が変わってもそうした免罪符のような効果はあると考え、HADESではバイセクシャルであったり、二面性であったり、「神だからあり」というような大胆な表現でデザインし、そうした独特の解釈や世界観をソーシャルメディアで広めた。

  • 愛と美の女神アフロディテもゼルダの大妖精のようなド迫力(出典:Supergiant Games)

正式版の発売は2020年9月だが、アーリーアクセスプログラムを通じて、開発途中のバージョンが2年以上にわたってプレイされてきた。アーリーアクセスは、完成前のゲームでもプレイヤーを集められる一方で、アーリーアクセス版の購入者から開発資金を前借りしたような状態に甘えて公約を果たせなかったり、完成に至らないということも。そうした落とし穴にはまることなく、Supergiantは継続的にアップデートを提供してプレイヤーを少しずつ拡大させながら価値のあるフィードバックを収集、それに基づいた改善を提供するというプラス循環を生み出していた。

さらに、YouTubeチャンネル「Noclip」が、2018年の発表からHADESの開発を追い続け、開発のドキュメンタリーがHADESのもう1つのストーリーになった。昨年、コロナ禍の直撃を受けたのはSupergiantにとって悪いニュースだったが、リモートに移行して完成を目指す状況を伝えた昨年8月配信のストーリーがあったから、9月の発売への期待が高まった。そうして地道にプレイヤーやファンとのつながりを広げ、その輪にTwitchやYouTubeのゲーム配信者も加わったことでHADESは好スタートを切れた。

Supergiantはコミュニティ色の強いゲームスタジオで、創業者のAmir Rao氏は自身の肩書きをCEOではなく「スタジオディレクター」としている。少数精鋭のグループを作り、CEOが独断で会社を動かすのではなく、チームメンバーそれぞれの能力を引き出し、メンバーのコラボレーションやチームによる判断が機能するように導く。そうした姿勢は、同社のゲームをプレイする顧客との関係にも現れており、ゲーム開発をプレイヤーやファンとも共有することでHADESを成功に導いた。

近年、ゲーム産業はハリウッド映画のように開発費が高騰し、ハイリスクハイリターンで、開発費をかけられないと競争から脱落してしまう問題が顕在化していた。しかし、プレイヤーは大作だけを求めているわけではない。人気シリーズの新作がマンネリ化したり、昨年末発売の「サイバーパンク2077」は贅沢なマーケティングで話題になったが、実際のゲームの完成度やゲーム体験の落差から返金騒動に発展した。巨大になれば創作の指揮や管理が難しくなる。クリエイターの意志が伝わる面白いゲームを提供するという目的では、小規模なスタジオの方が有利な面が少なくない。

2019年発売で昨年D.I.C.E. AwardsやGame Developers Choice Awardsのゲームオブザイヤーにノミネートされ、Golden Joystick Awards 2020のPCゲームオブザイヤーを受賞したコジマプロダクションの「DEATH STRANDING」。超話題作だったが、あえて分類するならインディゲームである。〝小島監督〞こと小島秀夫氏はインタビューで、AIがクリエイターを支える時代がやってきているから、インディーズでもできることを示そうと思ったと独立について語っていた。機械学習の分野で話題のSoftware 2.0を先取りするような動きである。

小島監督が思い描く未来はまだ先だと思うが、「Untitled Goose Game」「Fall Guys」「Among Us」「HADES」など、新型コロナ禍でたくさんのインディゲームが話題になったのは、デベロッパーの規模の大小とは関係なく、面白いゲームが遊ばれ、独立系からでも大ヒットを飛ばせる手法があることを示した。