「Apple vs. the free internet」
Facebookが12月16日と17日に米国の主要紙に掲載した全面広告、2日目の見出しだ。これだけを読んでどんな内容を想像するだろうか? ほとんどの人は「Apple vs 自由なインターネット」をイメージすると思う。「自由」は米国で重要な言葉だけに、インターネットの自由に対する位置に置かれたAppleに批判的な見方になるのが一般的な反応だ。
では、「Apple vs 無料で使えるインターネット」だったらどうだろう? 英語で「フリー (free)」は、「Buy one get one free」(1つ買ったら1つ無料)のように「無料」という意味でも使われる。
プライバシーを人々の権利と位置付けるAppleと、データ活用による成長を目指すFacebookは、プライバシーに関してそれぞれの立場から衝突を繰り返してきた。Appleプラットフォームにおいて個人データの収集をさらに困難にする新しいプライバシールールの導入を巡って、両社の対立が深まっている。
Appleは、ユーザーのデータをターゲティング広告などに活用するための広告識別子を利用する際にユーザーの同意を得ることを、iOS/iPadOSで来年初めから義務づける計画だ。そうなった場合、多くのユーザーが広告識別子へのアクセスを拒否し、パーソナライズ広告やキャンペーン効果が低下して広告収益が減少すると予測される。
「We're standing up to Apple for small businesses everywhere」(私達はすべての中小ビジネスのためにAppleに立ち向かっています)……、Facebookは16日、米主要紙にAppleを名指しで批判する意見広告を掲載した。16日に公開されたブログ投稿によると、データによってパーソナライズされた広告がなければ、広告によるWebサイトの売上が60%以上減少する可能性に中小ビジネスは直面する。計画されているiOS/iPadOSの変更で完全にパーソナライズできなくなるわけではないが、長期的に見て減少が次第に拡大していく方向に進んでいると指摘。「App Tracking Transparencyの本質は、プライバシーではなく利益です。ビジネスがサブスクリプションや他のアプリ内課金に収益を求めるよう変更することを強制します。つまり、Appleが利益を得て、多くの無料サービスは課金を開始するか、市場から撤退することになります」と批判した。
Wall Street Journalによると、FacebookはApp Storeの収益配分モデルや課金システムが反競争的だとしてAppleを訴えたEpic Games (「Fortnite」の開発元)に証拠書類提出などで協力する考えを示したという。Appleが独占問題を指摘されているApp Store、15〜30%の手数料の問題にプライバシー保護強化の問題の論点を持っていくのがFacebookの戦略なのだろう。
そして、たたみかけるように17日に「Apple vs. the free internet」と題した全面広告を出した。Appleの"囲い込み"をイメージさせるパワフルな見出しである。
しかし、それが効果を発揮するのは中身が伴ってこそだ。
ここ数年で人々のプライバシー意識が高まっている大きな理由の1つは、FacebookやGoogleのような企業が無料で使えるインターネットで消費者の関心を引き、ユーザーのデータを利用する自由を行使した結果、ターゲティングのトラブルが拡大したこと。「無料で使えるインターネット」のリスクに消費者は敏感になっている。「Apple vs. the free internet」は「Apple vs 自由なインターネット」をイメージさせて、読んでみると「Apple vs 無料で使えるインターネット」である。Facebookは意図的に「free internet」を使ったと思うが、そのレトリックは同社が「顧客は広告主、消費者は商品」という批判を受けたのを消費者に思い出させる。逆効果になっている。
この騒動についてAppleは「ユーザーのために立ち上がるというシンプルな問題だと考えています」とコメントした。
Appleのプライバシー対策が「利益のため」というFacebookの指摘は的外れではない。ただ、サブスクリプションやアプリ内課金への誘導が狙いであると批判するのは、相手の急所を突こうとするあまり強引すぎる。サービスが成長しているとはいえ、Appleの収益の大部分はハードウェア販売からもたらされている。同社がプライバシー保護を徹底することで、Appleを信じてApple製品を選ぶユーザーが増える。そうしたユーザーの存在によって、App Storeのサブスクリプションやアプリ内課金の優位性を生み出されている。
この問題の本質は、広告識別子の利用をユーザーが選択したら多くが「拒否」を選ぶことにある。これをテレビCMに置き換えて、もし視聴動向からテレビCM配信をパーソナライズできる仕組みがあったとして、視聴者に分析の許可を求めたらそれほど抵抗はないだろう。TIMEの「Facebook上のショッピング詐欺が数千の被害者を生み、被害額が海外に流れていく仕組みの全て」という記事によると、ソーシャルメディアを利用したショッピング詐欺件数が2019年から急増し始め、コロナ禍におけるネット利用の増加もあって深刻な問題に発展している。中小ビジネスにとってチャンスの場であるソーシャルメディアが、手軽に詐欺を行える場にもなってしまっている。安全で信頼でき、便利と思える環境であったら消費者は協力に前向きになる。そうした仕組みを構築することが、ひいては「全ての中小ビジネスのため」になる。