日本製鉄は、カーボンニュートラルビジョン2050で掲げる「大型電炉での高級鋼製造」「水素による還元鉄製造」「高炉水素還元」の3つの革新技術について、研究開発や実証実験、実機化の検討を進めている。2025年5月には、大型電炉での高級鋼製造の実機化に向け、国内3拠点で総額8687億円を投じる電炉転換などの設備投資を決定した。

電炉では高級鋼の量産体制の構築を目指す一方、水素を活用した製鉄技術の開発も進めており、試験設備でCO2排出量の削減に向けた成果を上げている。

第2回では、日本製鉄が「統合報告書2026」で示した技術開発の進捗と、脱炭素化と競争力の両立に向けた取り組みを紹介する。

  • 日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050のロードマップ(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

    日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050のロードマップ(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

高炉と電炉は何が違う? 日本製鉄が転換を進める理由

鉄鋼の製造方法には、主に高炉法と電炉法がある。従来の高炉を用いた製鉄では、鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄を取り出す「還元(かんげん)」という工程でCO2が発生する。これは、鉄鉱石に含まれる酸素と、還元材として使用する炭素が結びつき、二酸化炭素が生成されるためだ。

一方、電炉は鉄スクラップや還元鉄などを電気で溶かして鋼を製造する方式だ。鉄スクラップを利用する場合は鉄鉱石を還元する工程が不要となるため、高炉法に比べてCO2排出量を削減できる。ただし、削減効果は使用する電力の電源構成や原料などによって異なる。

日本製鉄は「カーボンニュートラルビジョン2050」で、2030年にCO2排出量を2013年比で30%削減し、2050年にはカーボンニュートラルを実現する目標を掲げている。こうした目標を達成するため、従来の高炉を中心とした製鉄プロセスを見直し、CO2排出量を抑えられる電炉への転換を進めている。

約8700億円を投資、国内3拠点で高級鋼の電炉生産へ

8687億円の設備投資の対象となるのは、九州製鉄所八幡地区、瀬戸内製鉄所広畑地区、山口製鉄所周南の3拠点だ。

九州製鉄所八幡地区では高炉1基を休止して電炉1基を新設し、瀬戸内製鉄所広畑地区では電炉1基を増設する。また、山口製鉄所では既存の電炉1基を改造・再稼働させる。投資額はそれぞれ6302億円、1400億円、985億円となる。

3拠点の生産能力は合計で年間約290万トンを計画しており、設備転換によるCO2削減効果は年間約370万トンを見込む。また、GXスチールの生産能力を年間約160万トン増やす計画だ。

  • 高炉から電炉への転換投資概要(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

    高炉から電炉への転換投資概要(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

2026年4月には九州製鉄所八幡地区で工事に着手した。山口製鉄所では2028年下期、九州製鉄所八幡地区と瀬戸内製鉄所広畑地区では2029年下期の生産開始を計画している。

ただし、電炉への転換には技術的な課題がある。鉄スクラップには不純物が含まれており、そこから高級鋼を製造するための技術開発が必要となる。日本製鉄は、高級鋼に求められる高度な品質と高い生産性の両立を目指している。

具体的には、波崎の試験電炉で、高効率な脱リン・脱窒素などの試験を進めている。今後は開発した技術を実際の製造設備に導入し、高級鋼の電炉一貫製造・量産体制の構築を目指す。

  • 大型電炉による高級鋼製造に向けた技術開発計画と進捗(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

    大型電炉による高級鋼製造に向けた技術開発計画と進捗(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

水素で鉄をつくる、日本製鉄が挑む2つの製鉄技術

日本製鉄が進める脱炭素化は、電炉への転換だけではない。同社は「カーボンニュートラルビジョン2050」において、「水素による還元鉄製造」と「高炉水素還元」の技術開発も進めている。

「水素による還元鉄製造」は、鉄鉱石から酸素を取り除く「還元」の工程に水素を用いる技術だ。日本製鉄は、還元鉄の製造に使用する還元材を、天然ガスから100%水素に転換することを目指している。

ただし、水素による還元は熱を吸収する反応であるため、反応に必要な熱を補う必要がある。また、特に低品位の鉄鉱石を使用する場合には、還元の過程で原料が粉状になったり、互いに固着したりする課題もある。

日本製鉄は、こうした課題を克服し、生産性や操業の安定性、還元鉄の品質を確保するための技術開発を進めている。具体的には、2010年からREセンター(富津)で試験を重ね、そこで得た知見をもとに、波崎研究開発センターに高さ60mの試験還元炉を建設した。

2026年3月からは、実際の製造設備と同じ工程で、還元から冷却、成型までを一貫して評価する試験を開始。すでに72時間連続の水素還元運転を達成しており、今後も最適な条件を追求しながら試験を継続する。

一方、「高炉水素還元」は、既存の高炉を活用しながら、還元材として使用する炭素の一部を水素に置き換える技術だ。日本製鉄は、2008年から2022年にかけて、製鉄所内で発生する水素系の副生ガスを利用する「COURSE50」の技術開発に取り組み、試験高炉でCO2排出量を10%以上削減する成果を確認した。

さらに、製鉄所外から調達した水素を加熱して利用する「Super COURSE50」の開発も進めている。同技術は高炉からのCO2排出量を従来の操業と比べて50%以上削減することを目指しており、2026年3月には東日本製鉄所君津地区の試験高炉で45%の削減を達成した。

  • 「Super COURSE50」の試験高炉におけるCO2排出量削減率の推移 (出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

    「Super COURSE50」の試験高炉におけるCO2排出量削減率の推移 (出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

また、これまでの試験高炉で得た知見をもとに、約400倍の炉容積を持つ実機(東日本製鉄所君津地区第2高炉)で、2026年度から常温水素を用いた実証を開始する予定であり、現在は水素吹込設備の設置などの準備を進めている。

GXスチールの販売拡大が課題、脱炭素投資をどう回収する?

脱炭素技術の実用化には、技術面だけでなく経済面の課題もある。高炉から電炉への転換には巨額の設備投資が必要となるほか、従来よりも高品位の原料が必要になることや、副生ガス等のリサイクルエネルギーに代わる電力の調達によって、操業コストの増加も見込まれている。

そこで日本製鉄が重視しているのが、CO2排出量の削減価値を付与した「GXスチール」の市場形成だ。脱炭素化に伴う巨額の設備投資や操業コストの増加を回収するためには、政府による設備投資への支援に加え、CO2排出量の削減価値を製品の利用者なども含めたサプライチェーン全体で共有・負担し、その対価を回収できる市場の形成が不可欠だとしている。

同社は2023年9月からGXスチール「NSCarbolex Neutral」を販売しており、自動車や建築、造船など幅広い分野で採用が進んでいる。統合報告書によると、2023年9月から2026年3月までの累計販売量は数万トンとなっている。一方、2026年度の販売可能量は年間30万トンを超える見込みだ。今後、供給能力の拡大に見合う需要をいかに創出するかが課題となる。

  • GXスチール「NSCarbolex Neutral」の販売実績と採用事例(出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

    GXスチール「NSCarbolex Neutral」の販売実績と採用事例 (出典:日本製鉄「統合報告書2026」)

政府もGXスチールを使用した製品の優先調達や、自動車・建築・造船などの分野での購入支援を進めている。しかし、日本製鉄は現在の支援策だけでは十分な市場規模を形成できないとして、さらなる民間需要の創出策が必要だと指摘している。