Visual Studio Onlineとは?

本連載では、WindowsでLinuxアプリケーションを開発する方法として、Visual Studio CodeとWSLを使う方法を何度も取り上げてきた。具体的には、Visual Studio Codeに「Remote - WSL」というエクステンションをインストールすることで、Visual Studio CodeからWSLで動作しているコマンドが利用できるようになる。これにより、WSL側のファイルシステムを用いて、WSLで動作するコンパイラやデバッガを利用することが可能になる。

この方法の最大の特徴は、Linux環境を別のマシンや仮想マシンに構築する必要がない点にある。代わりに、Microsoft StoreからUbuntuなどのLinuxディストリビューションをインストールするだけで、あとは「Remote - WSL」エクステンション経由でWSL上のLinuxコマンドを利用することができる。とにかく手軽にLinuxの開発環境が用意できるのが魅力だ。

しかし、この状況がさらにお手軽になる可能性がでてきた。Microsoft「Visual Studio Online」と呼ばれるサービスのパブリックプレビュー版の公開を発表したからだ。

  • Visual Studio Online

    Visual Studio Online

「Visual Studio Online」は、簡単に言うと「Visual Studio Code + WSL」をクラウドサービスとして提供するようなものだ。Webブラウザからサービスを申し込むと、クラウド上にLinux環境が作成され、そこを利用する開発環境がWebブラウザに展開される。どこかにLinuxサーバが作成され、それを利用するVisual Studio CodeがWebブラウザの中に生えてくるようなものと考えるとわかりやすいだろう。

「Visual Studio Code + WSL」は、ユーザーがWSLで動作するLinuxディストリビューションを用意する必要があった(必要があるといっても、Microsoft StoreからUbuntuをインストールして、初回だけアカウント情報を入力するといった程度だが)。Visual Studio Onlineになると、その必要性すらなくなる。さらに、Linuxアプリケーションの開発が簡単に準備できるようになるというわけだ。

欠点は「利用料金がかかること」

Visual Studio Onlineはいいこと尽くめのように思えるが、そうは問屋が卸さない。クライアント側はまだしも、Linuxサーバ側はIaaS (Infrastructure as a Service)だ。当然、利用するには料金が必要になる。今のところ初期費用は不要で、解約手数料もかからない。使用した分だけ支払えばよいスタイルではあるものの、無料で利用できるわけではない。

  • Visual Studio Online - 参考価格

    Visual Studio Online - 参考価格

Webブラウザさえあれば開発できるのだが、Visual Studio Onlineの利用はVisual StudioやVisual Studio Onlineからも可能だ。いつものように、対応するエクステンションをインストールすれば利用できるようになる。

そもそも、Visual Studio CodeはWeb技術を使って開発されたGUIアプリケーションだ。このアプリケーションをWebブラウザで動作せることはそれほど難しくない。Visual Studio CodeからもWebブラウザからも使えることはそれほど不思議なことではないのである。

チーム開発でこそ力を発揮する

このため、Visual Studio Code + WSLで開発するのか、Visual Studio Onlineで開発するのか、意見が分かれるところだが、もしチームで開発するなら、Visual Studio Onlineを検討したほうがいいかもしれない。

Visual Studio Onlineにはチームメンバーでコラボレーションしやすくなる機能が用意されている。環境のセットアップの手間はかからないし、環境の共有が行いやすい。「Visual Studio Code + WSL」を使ってチームで開発するとなると、ソースコードの共有や情報共有にGitHub.comやSlackといった別のサービスを併用する必要がある。Visual Studio Onlineでも同じような作業は必要になるものの、チーム開発向けのサービスが用意されている。

Visual Studio Onlineはまだパブリックプレビューの段階だ。この段階で本番システム向けのアプリケーションを開発するのはリスクがある。しかし、将来的にこの環境を利用した開発が可能であるかどうかを試すにはよい段階に来ているのではないかと思う。

現在の価格設定だと月額5000~ 6000円程度の料金が発生することになるが、今後の開発へ向けた可能性を試すという点ではそれほど高くないように思う。

2020年春にはVisual Studio Code + WSLがWSL 2を使った新しいものとなり、Visual Studio Onlineもそれほど変わらないタイミングで正式版として公開される可能性がある。つまり、2020年はWindowsにおけるLinuxアプリケーション開発が新しい時代を迎えることになるかもしれない。今後の動向から目を離せない状況だ。

なお、Microsoftは以前、「Visual Studio Online」という名称でほかのサービスを提供していたことがある。それと今回のVisual Studio Onlineは別物なので注意してほしい。