「鈴木健太」の不当判決

検索エンジン「グーグル」にはキーワードを入力すると、同時に検索されることの多い単語を表示する「サジェスト」という機能があります。都内在住の男性が自分の名前で検索すると、心当たりのない誹謗中傷がサジェストに並ぶようになりました。これを「サジェスト汚染」と呼びます。その結果、職場を追われ、再就職も難しくなり、グーグルに表示の中止を求めますが、グーグルは聞く耳を持ちません。地裁では原告の訴えを認め、表示差し止めを命じていたのですが、高裁で逆転敗訴となりました。

"鈴木健太裁判長は「表示による男性の不利益が、表示を削除することでグーグルや他の利用者が受ける不利益を上回るとはいえない」と述べた(デイリースポーツWEB版より)"

「鈴木健太」裁判長は個人の名誉よりも企業の利益を優先し、事実を問わない噂の流布を公益と判断しました。男性は最高裁へ上告する方針とのことですが、この判決がそのまま確定することを危惧します。

サジェストされたら運の尽き

ITの専門家の立場から述べます。サジェスト汚染されたら「運の尽き」です。男性は2年前に表示削除を求める仮処分を東京地裁に申し立て、このときも地裁は訴えを認めたのですが、

"(グーグル)米国本社に日本の規制は及ばない"

と、グーグルは削除を拒否しています。そもそもグーグルは日本国内の法律に従う気がさらさらないのです。そこに高裁の「鈴木健太」の判決がお墨付き与えます。さらに最高裁で確定すればサジェスト汚染に対して、日本人の誰ひとりとして打つ手がなくなり、社会コストの増大を招きます。ちなみに同様のケースで、ドイツの最高裁は2013年5月、名誉毀損と認定し削除を命じています。

サジェスト汚染の野放しが、日本社会のコスト増を招く一例を、半グレ集団「関東連合」のOBである工藤明男(ペンネーム)氏の著書『いびつな絆 関東連合の真実』に見つけます。グレーゾーンを歩いてきた著者は、自分の実名がネットに登場しないよう「逆SEO」と呼ばれる対策を業者に依頼し、そのために毎月相当な額を支払い続けていると著書に記します。公にしていませんが、一部の企業・団体ではすでに取り組んでおり、その費用を負担しているのは、巡り巡って我々消費者です。

逆SEOとは

SEOとは検索結果の上位に表示される方法論です。「鈴木健太」と高裁の裁判長の名前を表記しているのも、その方法のひとつ。単語の間にスペースがはいる英語と異なり、漢字や仮名が連続したときの区切りの判別をグーグルは現時点で苦手としており、カギ括弧で区切ることにより「固有名詞」と認識させます。逆SEOとは反対に、検索結果に表示されないようにする手法。そしてどちらの対策も「現時点」に過ぎません。グーグルが検索順位決定の方法を変えるたびに、それに合わせなければならず、工藤明男氏や各企業は対策費を支払い続けているのです。

東北に本拠を構えるトレーニングジムはサジェスト汚染に頭を抱えていました。食事制限とすこしきつめのフィットネスでシェイプアップを目指すというメソッドは至って平凡。そこでジムオーナーの社長を「カリスマ」とする演出を試みていました。自己演出はどこでもやっていることですが、いささか神秘主義に傾倒したことが裏目に出ました。例えば「オーナーは生まれて一週間後に立ち上がった」とはやり過ぎです。そして途中退会した元会員の手によるものと思われる「宗教団体」だという中傷が「2ちゃんねる」に拡散されます。

2ちゃんねるに並ぶ誹謗中傷とサジェスト汚染は隣り合っています。検索結果に「関連する検索キーワード」として「2ちゃんねる」から抽出された中傷キーワードが並び、それがクリックされるごとに「汚染」が進むのです。一度「汚染」されてからの対策はとても困難。結局ジムが講じた対策は「社名の変更」。新しい社名は汚染されていないので「究極の逆SEO」と社長は誇りますが「逆SEO0.2」です。

誹謗中傷とはレジャー

社会正義を実現するための告発なら「2ちゃんねる」を選びませんし、実際的な被害を被っていたら駆け込む先は警察か地域の消費者センターです。ネットで誹謗中傷をする連中の動機は「面白い」。つまりは一種のレジャーです。だから社名を変えても、いつか社名変更に気がついたクレーマーがやってきて遊びを始め、誹謗中傷がふたたび拡散されます。社名変更による逆SEO効果は一時的に過ぎません。

逆SEOの代表的な手法を、同業のジムに見つけます。大量広告を投下するこのジムの名前に、「批判」「不満」「嘘」とネガティブなキーワードで検索すると、ずらっと「個人ブログ」が検索結果に並びます。そのすべてが「批判されているけど良かった」「不満は勘違い」とする内容。つまり、ネガティブなキーワードを組み合わせて、褒めちぎるコンテンツを無数に作ることで、中傷コンテンツを検索結果から締め出すのです。報酬を支払いブログを量産するこの手法は、別名「ステマ(ステルスマーケティング)」と呼ばれます。

繰り返しになりますが、逆SEOは継続しなければならず、そのコストは利用者が負担します。根拠のない誹謗中傷の削除すら認めないグーグルと、それを公益と判断した「清水健太」裁判長により、日本国民は負担を強いられます。

最後に「鈴木健太」としているのは、「鈴木健太」裁判長にも汚染の実態を体感して貰おうという狙いからでしたが、同姓同名のアナウンサーもいるようで、流れ弾が当たったらごめんなさい。

エンタープライズ1.0への箴言


「逆SEOで誹謗中傷を消す…コストは国民負担」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」