ホリエモンとフナッシー

窓を開け見える景色は埼玉県という場所に住んでいますが、都民のひとりとして都知事選挙をニタニタと眺めています。それはIT業界の有名人、家入一真氏の出馬会見がきっかけです。

出馬発表の記者会見に同席したのは、結果的とはいえ旧ライブドアを経営破綻させ、かつて衆院選挙に無所属で出馬し落選したという、「負のオーラ」をまとうホリエモンこと堀江貴文氏。その甲斐あってか、家入氏については、主要な報道機関では一切触れられず、完全な泡沫候補扱いでした。かつて時代の寵児と持ち上げられ、登場するだけで歓声があがったホリエモン氏。当時の活躍をいまに例えるならそれは「フナッシー」。ヒルズ族における「ゆるキャラ」だったのかと気がつきます。そしてもうひとり「ゆるキャラ」を発見します。小泉純一郎元首相です。

ちなみに家入氏といえば、レンタルサーバの会社を当時の最年少記録でジャスダック市場に上場させながら、その1年半後には本人の希望(ウィキペディア情報)により、代表権を返上し非常勤役員となり経営の現場から離れています。米国ではグーグルのように、経営を経営の専門家に任せる創業者は珍しくありませんが、家入氏が目指しているのは東京都知事。この職務は東京都の「経営」です。彼もゆるキャラのひとりかも知れません。

中身のない首相

参院で否決されたからと衆院を解散したのが「郵政解散」。勤務実態もなく給料を貰っていた疑惑に対しての答弁が「人生いろいろ、会社も色々」。イラク派兵を問われれば「自衛隊の活動している地域は非戦闘地域」。極めつけはG8で当時のベルルスコーニ首相に「スパゲティ、マカロニ、ソフィア・ローレン! 」と話しかけます。人気はあるが中身はない。小泉純一郎氏をゆるキャラとする理由です。

その小泉純一郎氏がツイッターを始めたという噂はネットで瞬時に拡散され、フォロワーは7万人を超えました。ところが小泉氏の事務所が「知らない」と発言し、なりすましではないかとアカウントが閉鎖されました。結局、「知らない」と答えた事務所関係者が、ツイッター開設を知らなかっただけのことです。事務所も「ゆるい」のかもしれません。

とはいえ、小泉ツイッター騒動のような事例は民間企業でも散見します。無造作な髪型は、どこか小泉純一郎氏と重なるU社長は、バブル崩壊により被った痛手の反省から、現金主義の堅実経営を続けました。そして蓄えた資産が、長引いたデフレ不況で華開きます。赤字にあえぐライバル店の買収を繰り返し、店舗網を30店にまで拡大させたのです。買収した企業のひとつに「ネット通販」の専業会社がありました。そこでその会社を「IT部門」として組み入れ、会社や店舗のホームページの管理を任せます。

トラブル続きの専門家

それから半年後。ネットのトラブルが絶えません。ホームページに掲載された営業時間が違う、店舗地図が違う、そもそも店舗が掲載されていない等々。また、ツイッターやフェイスブックの更新も止まります。

買収前、店舗や会社のホームページは外部の業者に委託していました。そのころのウェブ担当者は店舗の統括責任者で、店舗の情報に変更があればその都度、業者に指示して更新させていました。社内にIT部門ができれば外注にだす必然性はありません。そこでウェブ全般の管理をIT部門に移管しますが、IT部門は店舗に詳しくありませんし、ネット通販のみだったことから、店舗地図を掲載する重要性を理解していません。さらに言えば、通販以外の業務に興味が無く、ツイッターやフェイスブックを開設していたことも知りませんし、知ろうともしていませんでした。幻となった「小泉ツイッター」と同じ「ネット戦略0.2」です。

ネットは個人が世界に向けて情報発信できる便利なツールです。しかし、組織でネットを活用するためには、組織側においての情報と目的の共有が不可欠。「組織力」が重要となるのです。

類は友を呼ぶ

U社長は、買収した企業は買収された企業のために働くものと考えています。だから「IT部門」になった以上、組織のために働くのは当然で、各店舗に営業時間や最新情報を確認し、更新することが当然と考え、それは正論です。また、いまどきツイッターやフェイスブックの活用は、命令されるまでもなく取り組むものだという主張にわたしも同意します。しかし、機転が利かない企業だから「買収された」という解釈も成り立ちます。

小泉純一郎氏の関係者がツイッターの開設を知らなかったのはむべなるかな。2012年の衆院選挙で大量の新人議員が生まれ、秘書やスタッフの人手不足が懸念されました。優秀な人材は、党派を超えて採用され、その反対は淘汰されました。買収の対象にすらならなかったといえば言葉が過ぎるでしょうが、すでに政界を引退した小泉純一郎氏の周辺に集まるのは、一線級の人物ではないと推察できます。あるいは「いざ、鎌倉」とかつての手下が集まったとしても、彼らが活躍した時代、ツイッターの存在感は無いも同然ですし、そもそも「ネット選挙」が解禁されたことも知らない可能性も否定できません。

いよいよ次の日曜日には投開票となる都知事選挙。小泉純一郎というゆるキャラを従えた細川護煕か、ホリエモンに背中を押される家入一真氏か。いや、そもそも細川護煕氏とは、その20年間にも渡る「新党ブーム」の初代ゆるキャラ。今回の都知事選挙が「ゆるキャラ」対決と見れば、わたしでなくともニタニタすることでしょう。

エンタープライズ1.0への箴言


「ソーシャルはもちろんネットの活用に組織の連携は不可欠」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」