新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、多くの企業が入社式や研修の実施形態を見直したのではないでしょうか。最近では、多様な働き方を実現させる施策として、リモートワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」という働き方が提唱されており、一般的な認知も徐々に広がっています。

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は2021年4月、新入職員(以下、新入社員)がアバターで参加する「バーチャル入社式」をオンラインで開催しました。アバターを導入した背景には、新入社員に少しでもPwCあらたの雰囲気を感じてもらい、同期同士の横のつながりを築いてもらえればという企画側の想いがありました。

PwCあらたにおける通常の研修は、感染対策を考慮して、現時点では原則として全てオンラインで実施していますが、新入社員向けの研修に関しては、企画側でさまざまな意見が交わされた結果、オンラインとオフラインを使い分けながら実施することに至りました。オンとオフをどう組み合わせるのかを決めるにあたっては、その目的として何を最優先するのかを明確にする必要があります。

私たちが新入社員向け育成プログラムを策定するにあたって特に重視していることは、新入社員の細かい疑問や質問を拾い上げながら、業務に対する不安を丁寧に解消していくことです。プログラムを通して、基本的な業務のやり方を学ぶだけでなく、業務を円滑に進めるためのコミュニケーション方法を身に付け、自信を持って現場に出ることをサポートします。

さらに、このプログラムは部門を超えた同期同士の横のつながりを作る機会となり、現場に配属された後でもお互いに協力し合える関係性を築く役割を果たしています。

これまでの新入社員向け育成プログラムでは、少人数のチームに分かれた新入社員が、チームごとに配置された講師と対面し、監査チームから切り出された業務に取り組んでいました。2021年の新入社員向け育成プログラムは、COVID-19の影響を受けてオンラインを中心としたプログラムに見直した上で、一部はオフラインで実施することとしました。

そのうちの一つが、現場で利用するデジタル監査システムの操作方法を学ぶ研修です。この研修は新入社員が担当する代表的な勘定科目の監査手続を題材にしており、各監査手続がどのような目的で行われているかも理解できるようになっています。

システムの操作方法や監査手続の進め方など最初はわからないことが多く、新入社員は、講師に質問し、チーム内でお互いに議論を重ねて研修を進める必要があります。したがって、このプログラムは対面で受講する方が積極的に質問する姿勢や活発な議論を引き出せると考え、オフラインで実施することとしました。

さらに、実際の業務ではなく、研修用に用意されたデモ環境で監査実務を学ぶ研修に変更しました。従来の「実際に期末監査を実施しているチームから切り出した手続の一部を、研修会場で新入社員に経験してもらう」という形式から、研修用環境で、監査計画の策定、実証手続、開示書類の検証という監査の流れを経験する」形式に大きく変更したのです。

新しい働き方(ハイブリッドワーク・リモートワーク)になると、新入社員が先輩社員から一つ一つ業務をOJTで学んでいくことが難しくなります。そこで、個別の監査手続を体験するだけではわからない、監査の一連の流れをあらかじめしっかりと理解しておくことで、実際の監査現場に出たときに上司や先輩からの指示に対する理解度が高まり、自分の理解が不十分な箇所について的確な質問をできるようになることを狙いとしています。

研修後に新入社員に対して行ったアンケートの結果からも、一部の研修をオフラインで行ったことは、深い人間関係の構築や基礎的なビジネススキルの習得につながり、また全体感を最初にしっかりと把握できたことも、実際の業務にスムーズに適応する一助になったと感じています。

「会計士を志した日に思い描いたプロフェッショナルになってほしい。そのための最初の一歩を惜しまず新入社員一人ひとりをサポートしたい」という想いが、PwCあらたの新入社員向け育成プログラムの根底にはあります。これからも、この想いは変えずにいたいと考えています。

一方で、私たちを取り巻く環境の変化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展を踏まえ、プログラムの実施形態や内容などは継続的に見直し、より良いものに育てていく必要があります。新入社員を受け入れる監査チーム、配属される新入社員の双方の不安を払拭し、負担を軽減しつつ効果を最大化できるプログラムとはどのようなものか、試行錯誤を重ねています。

今回は、新入社員向け育成プログラムにどのような想いと狙いがあったのか、企画側の視点からまとめました。次回は、このプログラムを実際に受けた新入社員が、何を感じ、今後にどう生かしていこうと考えているのかを紹介します。

著者プロフィール
本連載は、Tomorrow's audit, today――次世代デジタル監査への取り組みの一環として、PwCあらたの若手が執筆しています。

岸野 将也 マネージャー, PwCあらた有限責任監査法人

片山 恵 シニアアソシエイト, PwCあらた有限責任監査法人