多様なビジネス環境や製造現場におけるデジタル化と、データセンター(DC)におけるサステナビリティをテーマにグローバルでビジネスを展開する知見をもとに、DX(デジタルトランスフォーメーション)と脱炭素について紹介する本連載。

前回は、持続可能なエッジコンピューティング環境を構築するためのエッジデータセンターについて、4つのポイントで整理しました。最終回となる今回は、昨今のデジタル社会を支える基盤ともいえるDCに話を移し、最新のデジタル技術の活用がDC運営の効率化と、その先にある脱炭素化に代表されるような環境負荷軽減にどのように寄与するのかをご紹介します。

  • DXとサステナビリティを実現するためのIT環境のあるべき姿 第3回

変革期を迎えるデータセンター市場

新型コロナウイルス感染症の感染拡大による在宅勤務の導入や、ビジネス効率の向上や競争力を高めるために、DXは今後ますます加速していきます。シュナイダーエレクトリックの予測では、2035年までにIT業界は世界の総電力消費の8.5%を占めるようになると予測しており、その大部分はDCからのものだと考えています。同様に、2025年までにはICT産業に起因するエネルギー使用量も世界全体の20.9%にまで膨れ上がり、世界の温室効果ガス排出量の5.5%を占めるようになります。

さらに、市場調査会社のTechnavioによれば、世界のDC市場は2020年から2024年にかけて3億487万米ドルに成長すると予測されています。特に、アジア太平洋地域だけを見るとその成長率はさらに大きく、S&Pの調査では全世界のDC業界の成長率は年平均(CAGR)で7%とされているのに対し、アジア太平洋地域の成長率は10%に達する見込みです。こうした調査結果を踏まえると、DC業界は今まさにDXによる市場からのニーズに応えるとともに、環境負荷の軽減という世界規模の課題にも対応しなければならない変革期にあるといえます。

では、実際にDC事業者は自社の事業運営と環境負荷について、どのような意識を持っているのでしょうか。451 Researchの最近の調査によると、グローバルのDC事業者は自らがDCの持続可能性を追求していかなければならないと考えていることが明らかになりました。

実際に、回答者の半数以上にあたる57%は3年後には効率性と持続可能性が非常に重要な差別化要因になると考えていると回答しています。また、すでに現時点でも26%の回答者が持続可能性を重要な課題として認識しており、DCの効率性と持続可能性を両立させることは顧客の期待に応えるうえでも重要な要素であると回答しています。

データセンターにおけるAIと機械学習の活用

このように、DCとして安定的な稼働を確保しながらも、環境面での負荷を考慮した持続可能な運用を実現することは喫緊の課題といえます。そこで重要になってくるのが、AIや機械学習のような最新のデジタル技術を取り入れ、DC運営におけるさまざまな業務を自動化していくことです。

  • DXとサステナビリティを実現するためのIT環境のあるべき姿 第3回

AIと機械学習はこの数年で著しい進化を遂げ、今まで以上に高い性能を発揮するようになっています。DCにおいても、DC運用におけるさまざまな業務の自動化と予測型の保守を目的に開発されたアルゴリズムは年々洗練されてきています。

そういったアルゴリズムでは、機器や設備の稼働履歴データを活用することで、保守が必要になるタイミングをより正確に予測することができます。つまり、何らかの障害の兆候をIT部門に通知するだけでなく、データにもとづく予測型保守モデルによって障害発生のリスクを最小限に抑えることができるのです。

米国エネルギー省によると、予測型メンテナンス(資産に障害が発生する兆候をとらえて障害発生直前に修理を行うメンテナンス)はコストパフォーマンスが極めて高く、予防型メンテナンス(日程を組んで定期的に行うメンテナンス)と比べて8~12%もコスト効率を改善でき、また対応型メンテナンス(障害が発生してから運転機器のメンテナンスを行うケース)との比較では最大40%の改善が図れるという調査結果が報告されています。

このように最新のデジタル技術を活用することでDCのパフォーマンスの最適化とリスクの軽減を両立することができるのです。

データセンターの運用効率を向上させ環境負荷を軽減

DCがその消費電力を抑え環境負荷を軽減するためには、さまざまな機器の運用効率を高め、パフォーマンスを最大限に発揮させることが重要です。AIや機械学習、クラウドベースの次世代型管理プラットフォームはDCインフラの管理を支える重要なテクノロジーです。

AIや機械学習を活用することで予測型のメンテナスを実現することができるのは先に述べた通りです。では、クラウドベースの次世代型運用管理プラットフォームの活用では何を実現できるのでしょうか。それはリモート環境からのDCインフラの一元的な監視と管理です。

新型コロナウイルスの感染拡大きっかけに、DCのサポートをオンサイトのスタッフに頼っていた企業はDCの運用状況を部分的にしか把握できない、あるいはまったく把握できないといった状況に直面しました。しかし、クラウドベースの次世代型運用管理プラットフォームを利用すれば、ITサポートスタッフはサイトを一元化されたプラットフォームからリモートで監視、管理できます。

こうしたクラウドベースの運用管理プラットフォームを活用することで、データの収集や分析も可能になり、分析機能を活用して、DCとしてのパフォーマンス向上も実現することができます。

例えば、機器の稼働状況を把握し冷却システムが適切に稼働しているか、さまざまな機器が十分なパフォーマンスを発揮しているかを知ることは、DCのエネルギーを効率的に利用するうえで重要な要素です。必要以上に冷却されている場合や、機器が必要以上のパフォーマンスで稼働しているような状況では余分な電力を利用することになってしまいます。

そういった状況をリモート環境からリアルタイムに管理・管理できることは環境負荷を軽減するための第一歩であるといえます。最新のデジタル技術活用することで、ITスタッフはIT環境の稼働状態や可用性をより効果的かつ効率的に管理できます。

DXという言葉が注目を集めるようになって数年が経ちますが、新型コロナウイルスの感染拡大によってそのスピードが一気に加速したと思います。それと同時に、SDGsに代表されるように持続可能な事業活動へ変革していくことも求められています。

競合企業との差別化を図り市場で生き残っていくためには、自分達のビジネスの競争力を高めるだけなく地球環境に対する姿勢も問われています。DXが加速する中で、企業はそのような社会変化に対応するためにこれからもさまざまなデジタル技術を活用し、持続可能な成長をしていくことが求められるでしょう。