多様なビジネス環境や製造現場におけるデジタル化と、データセンター(DC)におけるサステナビリティをテーマにグローバルでビジネスを展開する知見をもとに、DX(デジタルトランスフォーメーション)と脱炭素について紹介する本連載。

前回は、インダストリー4.0に代表されるデジタル化を実現するための重要な要素であるエッジコンピューティングについてご紹介しました。第2回となる今回は、エッジコンピューティングの「肝」とも言えるITインフラについて、その重要性に加え、運用をいかに効率的に行い、かつ持続可能性を向上させるかについてご紹介します。

重要性が増すエッジコンピューティング

エッジコンピューティングは、ただのキャッチフレーズではなく、データ遅延の問題や運用面での過大な負荷、セキュリティといった課題の改善に取り組む上で不可欠なデータ処理プラットフォームです。特にコロナ禍において、さまざまな業務のデジタル化が急速に推進され、属人的にならない管理や運用の需要が高まる昨今において重要な意味を持っています。

Gartnerによれば、2025年には企業のデータの75%がエッジで生成および処理されるようになると予測されています。また、Analysys Masonによる2019年の報告によると、企業が今後3年間でエッジコンピューティングに費やすIT予算は平均で全体の30%になる見込みです。

企業は、ビジネス効率の向上や競争力を高めるために、これまで以上にDXを加速させています。あらゆる種類のデバイスがデジタル化され、これらの多くはネットワークに接続されます。ここで生成される局所的なデータは、エッジコンピューティングによって必要な処理を施され、リアルタイムに活用する情報へと変換されます。

  • DXとサステナビリティを実現するためのIT環境のあるべき姿 第2回

DXの時代において、ビジネスの成功を左右するのは、言うまでもなくデータに基づいた付加価値を活用することです。企業は、意思決定を改善するためにデータを効果的に収拾したうえで迅速に分析し、競争優位性の確保と収益の拡大へ活用していかなければなりません。

現在、エッジコンピューティングはますます重要になりつつあります。なぜなら、リモートワークや多国間コラボレーションをはじめとしたビジネス環境におけるIoTデバイスは、その役割の性質上、さまざまなデータを生成するため、その処理をクラウドのみで行っていたのでは、デバイス間での高速なデータ処理のための通信に遅延が起こる可能性があるからです。

需要の高まりに応えるには持続可能なエッジデータセンターが不可欠

こうした需要の高まりに対応していくためには、持続可能で回復力に優れたエッジデータセンターが不可欠です。シュナイダーエレクトリックの予測では、データセンターのエネルギー消費は今のペースで拡大し続けると、2040年には現在の2倍に達すると予測されています。

その大きな要因は、エッジ環境で生成されたデータを処理するための小規模DC(ローカルエッジDC)が増え続けていることにあります。

  • DXとサステナビリティを実現するためのIT環境のあるべき姿 第2回

また、2025年までに750万のマイクロDCと呼ばれる工場や小規模店舗向けにサーバやラックなどの統合された超小型のDCソリューションが新設される予定で、全世界のピーク電力はエッジ施設だけでも120ギガワットと驚異的な値となります。これをCO2排出量に換算すると、年間45万から60万トンにも相当します。

持続可能性は民間と公共のいずれの部門においても常に関心の高いテーマです。社会全体が持続可能性やCO2排出量削減に注目しているなか、あらゆる企業や組織はそれを実現するために、DXをより一層推進していくでしょう。

このDXの拡大がローカルエッジDCの設置を後押しし、結果としてその電力消費が増加することになります。相反する関係があるとしても、ローカルエッジDCもCO2排出量に対して責任を負わなければなりません。ローカルエッジDCにおける持続可能性の向上とエネルギー消費の効率化は、今まで以上に大きな注目を集める課題の1つになることでしょう。

回復力に優れる先進的なエッジデータセンターが備えるべき4つの要素

DXを推進する企業にとって、安定的なネットワークやシステム、プロセスは不可欠であり、これらは可用性と障害からの回復力に優れ、そして何よりも持続可能かつ効率的なものでなければなりません。回復力と持続可能性を兼ね備えたエッジDCを大規模に展開するには、以下を考慮に入れる必要があります。

標準化と簡素化
遠隔地や分散した小規模な場所に置かれるエッジインフラの導入に際して十分なITスタッフを配備できていない、あるいはまったく配備されていないといった状況は決して珍しくありません。それだけに、優れたリファレンスデザインやデジタル設計ツールの利用がより重要になります。標準化によってエッジインフラの導入とメンテナンスが簡素化され、パートナーを含むすべての関係者にメリットが生まれます。また、多くのグローバルベンダーとの検証済みの製品を用いることで、事前のテストを行わなくても構築が可能になるため、多拠点へのエッジインフラの導入の簡素化が叶うという利点もあります。

運用の効率化
現在、ローカルエッジDCに対する需要が高まっていますが、膨大な数に上るこれらの管理をITスタッフに要求するのには大きな負担が伴います。この負担軽減のためには、一元化されたクラウドベースのインフラ管理ソフトウェアを用いて、リモートでの監視や運用を行うことが、解決策のひとつになります。 また、クラウドに蓄積されたデータを活用したインサイトやベンチマーク、予測分析が可能になり、電力消費の効率向上とコスト削減を実現する上で重要な差別化要因になります。

レジリエンシー(回復力)と可用性
ローカルエッジDCのITファシリティや電源、物理セキュリティを一元的に監視・管理することで、問題発生時に効率的に対処でき、レジリエンシーを向上させ、ビジネスの継続に必要不可欠なエッジコンピューティングの可用性を維持できます。オープンでベンダーに依存しないクラウドベースのインフラ管理ソフトウェアであれば、複数のベンダーの機器のアラームをリモートで検知し、迅速に対処できるようになります。また、データ収集・分析機能を活用して、パフォーマンス向上につながる対策が可能になります。

保守の簡素化
多拠点のローカルエッジDCに設置された機器のメンテナンスには、多額のコストやリソースが必要になる可能性があります。ここで理想的なのが、最小限のメンテナンスで済む設計にすることです。また、メンテナンスやトラブルシューティングが必要になった場合に、熟練者ではないスタッフでもオンサイトで対応できるようにしておくことも重要です。しかしながら、自社での保守には限界があるため、メーカーの運用・保守サービスを利用することも選択肢の一つに入れておくべきです。

  • DXとサステナビリティを実現するためのIT環境のあるべき姿 第2回

DXの取り組みが加速する今日のビジネス環境において、持続可能性がその基盤に不可欠な要素となっています。エッジコンピューティングの活用は世界中で進展しつつありますが、自社のビジネスにとって最適なソリューションを実現するには、必要な要件やプロセスの見直しを行い、それに合わせたソリューションを選択しなければならない点を念頭に置いておくべきです。

費用対効果を考慮した最適なシステムを導入することで、テクノロジーとイノベーションの革新を享受し、持続可能性に優れたビジネスオペレーションを実現することは十分に可能になっていると言えるでしょう。