土星を13年間周回し続けた探査機カッシーニ。人類初の土星の人工衛星として、非常に多彩な発見をしました。では、その発見には何があったのか。人類が現在持つ、最高品質の土星画像とともにご紹介します。

2004年から土星の人工衛星となった探査機カッシーニ、強力なロケットを搭載し、軌道を複雑に変更しながら、13年間にわたって土星を探査してきました。ついに2017年9月15日には探査を終え、土星に突入して最後を迎えます。時には、土星の衛星に接近し、時には土星の環の内側をくぐりながら、あきれるほどのデータを送ってきた探査機、今回は、その発見の主なものをご紹介します。

1. 衛星エンケラドスに宇宙生命がいるかも!

エンケラドスは、1789年に発見された土星の第2衛星です。直径は500kmですから、3000kmくらいの地球の月よりだいぶこぶりですな。カッシーニ探査機の土星探査での最大のニュースは、このエンケラドスに関する発見です。

こんな星には、大気はないというのが常識だったのですが、2005年エンケラドスに接近したカッシーニ探査機は、大気を発見したのでございます。そして、これを皮切りにエンケラドスにはとんでもない発見が相次ぎ、ついには、生命がいるかも! というところに至っています。カッシーニ探査機が土星に突入して最後を迎えるのは、コントロールを失って、エンケラドスに衝突し、滅菌処理をしていないカッシーニに万々一付着しているかもしれない地球の生命が「エンケラドスを汚染」しないためです。未知の病原菌になりかねないかもしれませんし、生態系を破壊するかもしれません。

さて、エンケラドスの写真はこんなものですが、全面が氷で覆われています。土星系は地球にくらべて、太陽から10倍も遠くにあるので、まあ寒いのは当然ですから、これは不思議ではありません。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

不思議なのは、水色の「ミゾ」のような部分でございます。なにかがしみ出しているようにみえますよね。そして、まるで、湖に氷がはっているようにも見えるわけです。

その後、カッシーニ探査機は、エンケラドスのフチから、噴水のように宇宙になにかが吹き出しているのを発見しました。

(C) NASA/JPL/Space Science Institute

あのミゾのようなところから、暖められた水が温泉のように噴き出していると考えるとピタリあいます。で、氷の下にはタプタプとした海があるのではないかというのが定説となっています。また、その噴出物のなかを2008年にカッシーニ探査機が飛んだところ、水蒸気のほかに、生物をつくる元になる有機物を発見しました。さらに、最近では生物活動には欠かせない水素分子などが発見されるなど、もう、魚が泳いでいてもカニがいてもおかしくないんじゃね? くらいになっているのですね。

2. 環の中をサーフィンする衛星

土星といったら、なんと言っても「環」なのですが、NASAのカッシーニ探査機のサイトのイメージギャラリーで、「Rings」といれると、まーいろんな環の写真がでてきます。環は非常に薄く、向こうが透けてみえるような存在なんですな。

そんな写真のなかで、お気に入りなのがこの1枚です。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

まるで、環のすきまを衛星がサーフィンをしているようですね。「ダフニス(Daphnis)」という衛星は、環の中をまわり、そのため環に隙間ができています。そして、衛星が環をつくる粒子(ほとんどが雪のような氷のつぶ)を重力的に乱して、こんな風に波をつくるんですね。環の写真をみると、他にも衛星によって、環が不思議な模様を作っているものが見られます。

3. 雪が円盤のように積もった衛星

環と衛星の関係だと、ダフニスのほか、パン、アトラスという衛星もユニークです。いずれも環のそばや中を回るのですが、環を作る「雪」が積もって円盤のようになっているんですね。最初に画像を見たときは、おもわず「なんじゃこりゃー」と言ってしまいました。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

4. 大気があり、メタンの海がある衛星タイタン

タイタンは、惑星である水星より大きな衛星です。この衛星は、大気に覆われているということが知られていました。また、この大気が分厚いので、その下に液体の海があるのでは? という予想がされていたんですな。

この写真は、タイタンの疑似カラー映像です。実際は青い空ではなく、ぶあつい黄色っぽいモヤがタイタンを覆っているのですが、赤外線で観測するとモヤの下が見えてきます。左上にキラッと光っているところは、液面で、クラーケン海といわれる場所でございます。見事に海があることをとらえていますな。

(C) NASA/JPL-Caltech/Univ. Arizona/Univ. Idaho

雲の下に海があるからには、雨も降り、川もあるのですが、これらは水じゃあないのです。水だと瞬間で凍ってしまいます。メタン、エタン、プロパンの海です。オクタンとかは割合は少ないでしょうが、炭化水素という点ではガソリンか液化ガスみたいなものですね。で、あとは酸素を補給しながら飛ぶ飛行機なんてアイデアもございます。

また、タイタンにはカッシーニ探査機から分離したヨーロッパのホイヘンス探査機が着陸しました。地表の様子も映しています。

(C) ESA/NASA/JPL/University of Arizona

まあ丸い、風化された岩がころがっていましたよ。また、ホイヘンス探査機は、タイタンへ降下するときの風の音もひろって公開しています。こちらで聞けます。これも、すごいことですな。

5. 土星の「つむじ」を見た

カッシーニ探査機は、土星の上から下から、いろんな方向から写真を撮影しました。で、上から? 写したのがこれです。ぐるぐる渦巻く極地方の「つむじ」のような模様が印象的ですなー。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

6. 環と土星の間に突入

さて、まもなく土星に突入するというので、研究者は探査機こわれてもいいや的なミッションをやっています。そのうちの1つが、環と土星本体の間に突入するというもので、何回も繰り返しながら、土星大気の上層や、環の粒子についての情報を得ようというものですな。

ほかにも、衛星の映像を並べるだけでもおもしろいのですが、もう、おなかいっぱいなので、とてもよくできた、NASAのカッシーニ探査機のサイトをながめてくださいませ

13年間も、土星について色々なことを教えてくれたカッシーニ。もっともっとと思いたくなるのですが、燃料切れなのでいたしかたありません。でも、カッシーニ探査機のおかげで、土星については本当にすばらしい映像があふれるようになりました。NASAは、映像の使用について、かなり鷹揚な態度をとっていて、アーティストが作った作品まであります。全部カッシーニ探査機の写真だけで構成されているからびっくりでございますよ。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。