ChatGPTに壁打ちの相手になってもらうことは定番の活用法の1つです。しかし、ChatGPTを使ったことのない人は、AIに悩みを相談するなんて馬鹿らしい、お遊びでしかない、自分で考えたほうが早いし正解、と言うことがあります。そもそも、人に相談することなどない、という人もいるでしょう。→過去の「柳谷智宣のChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」の回はこちらを参照。
2023年10月、「ソフトバンクワールド」で孫正義氏は日々ChatGPTと議論を重ねていると言っていました。ChatGPTと意見交換するだけでなく、複数のキャラクターを見立ててAI同士で議論させることもあるそうです。日本屈指の経営者がChatGPTを壁打ちに使っているのですから、われわれが恥ずかしがることはありません。
孫氏は、すでにChatGPTとの議論の中で生まれたアイディアの特許を1000件以上申請しているそうです。ChatGPTのレベルが高く、議論の成果も大きいことがわかります。
同僚や先輩にお願いして壁打ちするのも良いのですが、いつでもどこでも月20ドルもしくは無料でChatGPTが議論相手になってくれるのですから、ぜひ活用しましょう。今回は、仕事・プライベートの悩みや相談事をChatGPTにぶつけて壁打ちするプロンプトを考えてみましょう。
キャリアパスの壁打ち相手になってもらう
今の仕事に漠然とした不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。とは言え、公言しにくいテーマでもあるので、思考が堂々巡りすることも多いかもしれません。そんな時は、ChatGPTに自分のキャリアに関する相談をしてみましょう。
まず、ChatGPTのロール(役割)を決めて、指針をおさらいさせます。「あなたは●●のプロフェッショナルです。相談に乗る際に心がけていることを10個教えてください」と入力します。●●はコーチングやコンサルティング、心理カウンセラーなど相談内容に合わせて変更します。
そのうえで、悩みに聞いて寄り添った回答をしてくれるように頼みます。ChatGPTはふわっとした常識論を出力することが多いので、悩みがサクッと解決することはないでしょう。チャットを続ける必要があるので、プロンプトにはこちらに質問するように指示を追加しておきます。
ここでは、ChatGPTが登場したことで不安を感じているライターが相談してみます。
心がけていることを念頭に置いてもらい、実際に相談してみます。やり取りは以下の通り。
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プロンプト
その心がけをもとに私の悩みを聞いてください。簡潔に寄り添った回答をしたあと、より状況を改善するために必要な質問を必ずしてください。このステップを繰り返してください。
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出力
もちろんです。お悩みをお聞かせください。
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プロンプト
ライターとしてキャリアを積んできたのですが、今後AIが広まる中でどうしていけばいいのか不安です
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出力
AI技術の発展は、ライターを含む多くの職業に影響を及ぼしていますが、これは同時に新たな機会の創出も意味しています。AIを活用して生産性を高めたり、創造性を新たなレベルに引き上げたりする方法を模索することが重要です。AIが生成するコンテンツと人間特有の感性や創造性を組み合わせることで、新しい価値を提供できるかもしれません。また、AIを使って独自のニッチな分野を探求する、またはAIによるコンテンツ作成プロセスを管理・編集する技術を磨くことも、有効な戦略となり得ます。
さらに具体的なアドバイスを差し上げるために、次の質問をさせていただきます。あなたの専門分野や興味がある分野は何ですか?そして、AI技術を学ぶことに対してどの程度の興味や意欲がありますか?
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プロンプト
専門分野はビジネス向けのITツールのレビュー、解説です。AIにはあまり詳しくないです
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出力
ビジネスの世界では、新しいテクノロジーをいかに効果的に活用できるかが常に問われており、専門知識を持つライターに対する需要は変わらず大きいでしょう。AIに詳しくないとのことですが、これを機にAI技術やそのビジネスへの応用について学ぶことは、あなたの専門性をさらに深め、価値を高める良い機会となり得ます。
AIの基本的な知識を身につけ、それをビジネス向けITツールのレビューや解説に統合することで、読者に対して新しい視点を提供できるようになるかもしれません。また、AIを利用してビジネスプロセスを最適化するツールの解説に特化することも、非常に有益な方向性となり得ます。
次に進む前に、AI技術やその応用について学ぶことに対して、何か具体的な不安や懸念がありますか?また、新たなスキルを身につけることに対して時間やリソースを割くことができますか?
チャットで存分に悩んでいることをぶつけましょう。ChatGPTの質問に正面から答えなくても構いません。すでに悩んでいるわけですから、魔法のような解決策がすぐに出てくることはないでしょう。しかし、幅広い視点を持つChatGPTはこちらの言うことを受け止めたうえ、アドバイスとその理由を返してくれます。
記事掲載用の画面を用意するために、何度もChatGPTとチャットしたのですが、ライターとして示唆に富むアドバイスを多くもらえました。また、会話するうちに自分の頭の中も整理されて、議論のポイントが明確になります。
何はともあれ、ChatGPTにプロンプトを入力して壁打ちしてみてください。少しでも、壁打ちの効果を体感できれば、あとはプロンプトをブラッシュアップすることで、より高度な議論を行うことができます。
GPT-4なら最新情報もBing検索してくれる
もう少し壁打ち相手の挙動を制御したいなら、プロンプトを改良しましょう。最初に命令文を置き、次にルールやロールを指定します。
例えば、全肯定ばかりだとちょっと物足りない場合は、否定的な回答をするように指示したり、口調を指示したりできます。通常は中年男性でいいと思いますが、今回は20歳女性にしたところ、「なかなか大きな市場になりそうだね。次にどんなステップを踏みたいと思ってる?」のように気軽い感じになりました。
また、ChatGPT Plusを契約しているなら「ChatGPT 4」が使えます。例えば、「ビジネスマッチングの市場規模を検索してください」と検索すれば、さらっと最新情報を検索し、しかもチャットの文脈にまとめて回答してくれます。
昔(と言っても1年前)のChatGPTは数字を扱うのが苦手で、計算もほとんどできなかったのに、今はまったく問題ありません。
3年後のシェアの3%を取ったらいくらになる?という質問にも、「約16.65億円になるね。なかなか大きな市場になりそうだね」と回答。いい壁打ち相手になっていますね。
ChatGPTに複数のキャラクターを設定し議論してもらう
次は、孫氏のようにChatGPTに複数のキャラクターを設定して議論させてみましょう。ユーザーは監督のようにその議論を眺めて、インサイトを得るだけでいいのです。異なる意見が飛び交うので、1on1で行うよりも議論が深まる可能性が高くなります。
基本的にChatGPTはいい人なので、相手の意見を肯定しがちです。そこで、反対意見を述べたり、疑問がある場合はぶつけたりできるようにしておきましょう。相談事が1つなら、想定されるキャラクターのペルソナをプロンプトに入れます。
もし、プロンプトを使いまわして、いろいろな議論をさせるつもりなら、ペルソナもChatGPTに考えてもらう方が楽です。議論する人数は何人でもいいですが、あまり多くしても意味がありません。2~3人にしておきましょう。
同様に議論に必要な最新情報をあらかじめチェックしておくこともできます。ChatGPT 4であれば検索結果を要約できます。
海底熟成ウイスキーに関しては、あまり有益な情報が集まりませんでしたが、それでも「海底熟成するとまろやかな味わいになる」や「南伊豆沖で行われている」といった正確な追加情報を手動入力せずに得ることができました。
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プロンプト
以下の相談に回答する議論を行うために必要な最新情報として、検索すべきキーワード・話題を3つピックアップしてください。
次に、その3つそれぞれを検索して、その結果を要約してください。
###相談 海底熟成ウイスキー「トゥールビヨン」の販売促進について議論してください。あまり予算はないですが、売り上げを向上したいです。
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出力
相談内容にもとづき、海底熟成ウイスキー「トゥールビヨン」の販売促進に関して有効な情報を提供するために、以下の3つのキーワード・話題で検索を行います。
海底熟成ウイスキー市場動向
海底熟成ウイスキーは、そのユニークな熟成方法により、味わいや香り、食感に独特の変化をもたらします。日本では、南伊豆沖で行われている海底熟成プロジェクトが注目を集めており、ウイスキーを含む様々な酒類が対象となっています。このプロジェクトは、ウイスキーの新たな可能性を探る試みとして興味を引き、特にウイスキーにおいては、海底での熟成が樽熟成したものと比較しても、まろやかな味わいを引き出すことが確認されています。 ~略
結論
世界のウイスキー市場は成長を続けており、特にアジア太平洋地域での人気が高まっています。日本産ウイスキーも品質と風味によって高い評価を受けており、海底熟成ウイスキーはその中でも特にユニークな位置づけにあります。この市場動向を踏まえ、トゥールビヨンのような海底熟成ウイスキーは、その特異性を活かしたマーケティング戦略で、特に若年層やウイスキー愛好家からの注目を集める機会があります。
ペルソナや最新情報に問題がなければ、議論を開始してもらいましょう。今回は10回の議論で一時停止し、続行するかどうかを聞くように指示しました。
もちろん、10回で足りるわけはないのですが、例えば、100回と入力しても10回も議論せずに止めてしまうのです。続行を指示しても到底100回は続きません。それであれば、10回と指示して、複数回続行させる方が文脈を維持したまま議論が続くのです。
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プロンプトと出力
議論が停滞気味になると、ChatGPTから終了を促してきます。強制的に続行させることもできますが、内容が重複してしまいあまり意味がありません。
異なるペルソナの議論を見て、インサイトを得られましたでしょうか?まだであれば、新セッションで同じプロンプトを実行しましょう。反論が足りないならその旨を、議論の中で興味深い話題があればその話題をプロンプトに追加すれば、さらに有益な議論になることでしょう。
議論が長く続いたなら、ChatGPTに要点をまとめてもらいましょう。ここまで上げ膳据え膳できるのが、ChatGPTなのです。
以上が、仕事・プライベートの悩みや相談事をChatGPTにぶつけて壁打ちするプロンプトの作り方になります。想像以上に壁打ちは気持ちがよく、得られるものも多いので、ぜひ試してみてください。役員と議論するよりChatGPT相手の方がいい、と言う経営者のことを笑えなくなること請け合いです。