2017年に観測された中性子星連星の合体イベント「GW170817」では、重力波と電磁波の両方が捉えられ、宇宙で重い元素が作られる現場を探る手掛かりとなった。だが、合体するほど接近した2つの中性子星がどのように形成されるのかには、大きな不確実性が残る。小マゼラン雲の連星「DGL-3」を調べた研究が、その途中段階を探る手掛かりを示した。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
合体に至る前の連星を探す
中性子星は、大質量星の中心部が重力で潰れた後に残る高密度の天体だ。2つの中性子星が互いに近い軌道を回る連星は、重力波としてエネルギーを失い、長い時間をかけて接近して合体する。
では、2つの中性子星はどのようにして、合体するほど近い軌道に入るのだろうか。有力な筋書きの1つでは、まず中性子星と大質量星が連星を作る。大質量星が膨張して中性子星を包み込むと、連星の軌道が縮まり、星の外層が放出される。
その後、外層を失った星の中心部が重力崩壊して2つ目の中性子星となれば、接近した中性子星連星ができる。ただし、外層を放出する過程で二つの天体が合体してしまう可能性もあり、連星が生き残る条件の解明が課題となっている。
有力なこの進化の筋書きには、先に生まれた中性子星が、膨張した伴星の外層に包まれる「共通外層」の段階がある。外層との相互作用で軌道が縮まり、外層が放出されれば、中性子星と、ヘリウムに富む内部が露出した恒星の連星が残る。
その恒星も後に中性子星になれば、接近した中性子星連星ができる可能性がある。問題は、この進化の途中にある天体の観測例が乏しいことだ。
Bethany Ludwigらの研究グループが詳しく調べたDGL-3は、外層を失った恒星が見えない伴星と周回する連星で、小マゼラン雲にある。見えている恒星の質量は、先行研究の進化モデルに基づく推定で太陽の約3.4倍とされるが、不確かさは大きい。今回の研究は、伴星の正体に迫り、さらにこの連星の進化の段階を詳しく絞り込むものだ。
光の波長と明るさから伴星を絞る
研究チームは、チリのラス・カンパナス天文台にある口径6.5メートルのマゼラン望遠鏡で、分光器「MagE」を使った観測を38回行い、外層を失った恒星のスペクトルに見られる吸収線の波長が、時間とともにどう変わるかを測定した。
恒星が地球に近づいたり遠ざかったりすると、ドップラー効果で波長がズレる。その繰り返しから、連星の公転周期を約4.2時間と見積もった。軌道運動と恒星の推定質量を組み合わせると、伴星の質量にも制約が付く。通常の恒星なら、その質量に対応する大きさでは、この狭い連星内で自身に許される領域に収まらない。
伴星が、もう1つの外層を失った恒星である可能性も検討された。研究チームは、そのような恒星のスペクトルが観測データに現れるかを調べたが、検出されなかった。このため、伴星は恒星ではなく、白色矮星や中性子星などのコンパクト天体と考えられる。
研究チームは、チリのラ・シヤ天文台にある口径3.5メートルの新技術望遠鏡「NTT」に搭載された高速測光カメラ「ULTRACAM」で、約3.4時間にわたって恒星の明るさを約20秒ごとに測定した。
恒星は伴星の潮汐力でゆがみ、見る方向によって見かけの面積などが変わるため、公転一周につき二度、明るさが増減すると考えられる。観測された約2.5%の変動をモデルと比較し、軌道の傾きと伴星の質量を絞り込んだのだ。
中性子星が最有力
伴星の質量は、観測データだけから直接決まるのではない。見えている恒星の質量や半径、軌道傾斜角などの仮定を置いたモデル解析からは、伴星の質量が白色矮星の上限とされる太陽の約1.4倍を超える確率は99.4%と見積もられた。
この結果は、中性子星が最も有力な候補であることを示すが、質量推定には幅があり、正体が確定したわけではないことには注意が必要だ。
見えない伴星が中性子星なら、見えている星から流れ込む物質によってX線を放射する可能性がある。ところが、XMM-ニュートン衛星やチャンドラX線観測衛星による観測データでは、この位置に有意なX線源は見つからなかった。
ただし、見えている星から放出される恒星風が弱ければ、中性子星に降着する物質が少なくなり、そのためX線も暗くなりうる。したがってX線が検出されなかったことだけで、中性子星という解釈が否定されるわけではない。
超新星爆発の約2億2000万年後に合体と予測
研究チームは、恒星進化コードMESAを使い、この連星の未来をシミュレートした。基準モデルでは、伴星を太陽の1.4倍の中性子星とし、超新星爆発時に新生中性子星へキックが加わらないと仮定した。
それによると、中心部のヘリウム燃焼を終えた外層剥離星は再び膨張し、約140万年後に伴星への質量移動を再開すると予測された。移動した物質の大半は連星系の外へ放出され、その過程で公転周期は4.2時間から1.9時間へ短くなると見積もられている。
その後、超新星爆発を経て2つ目の中性子星が生まれ、連星は重力波を放出して接近する。基準モデルでは、超新星爆発から約2億2000万年で合体すると予測された。
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MESA計算によるDGL-3の将来進化。外層剥離星から二重中性子星が形成され、重力波を放出して合体する過程を示す。左側のグラフ上段では、外層剥離星の質量が減り、超新星爆発後に中性子星となる過程を、下段では公転周期が質量移動や重力波の放出に伴ってどう変わるかを示している
物質が系外へ逃げる際にどれだけ軌道の角運動量を持ち去るかは、将来予測における最大の不確実性だ。研究チームは、質量移動で連星系から失われる角運動量が基準モデルより大きい場合、2つ目の中性子星が生まれる前に2つの天体が合体する可能性もあると指摘している。たとえば、連星を取り巻く円盤が公転角運動量を効率よく持ち去る場合がこれに当たる。
DGL-3の価値は、それが進化の途中段階を観測するチャンスを与え、重力波源となる連星を作る理論に対する具体的な検証対象となるにある。今後は、物質の流出を追う三次元計算や恒星の自転の測定によって、その進化をさらに絞り込めると期待される。
