• 「IRAS 16552-3050」付近の想像図 (Credit:木下真一郎/鹿児島大学)(出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

    「IRAS 16552-3050」付近の想像図 (Credit:木下真一郎/鹿児島大学)(出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

国立天文台は、野辺山45m電波望遠鏡などを用いてさそり座の方向、地球から約27,000光年の距離にある赤外線星(赤外線で明るい星)「IRAS(アイラス)16552-3050」から噴出する、きわめて多量かつ高速の双極ガス流の根元を成す構造を解明したと10月6日に発表した。

また同天体は、2つの星が互いに周回する連星系と推定されているが(距離があるため、2つの星を個別に分解・解像できていない)、今回の観測結果は、この2つの星がいよいよ合体する段階に入ったことを示していることも明らかにされた。

同成果は、鹿児島大学 理工学研究科 附属天の川銀河研究センターの今井裕教授(鹿児島大 総合教育機構 共通教育センター兼務)、国立天文台の甘田渓研究支援員、メキシコ・グアナファト大学のルセロ・ウスカンガ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

「宇宙の噴水」メーザーとはなにか

星はその多くが、星間ガス雲から2つ以上同時に生まれることが知られている。天の川銀河においては、少なくとも半数は連星系と見積もられている。これらの連星系は、一度重力的に安定すると、星系として存在する期間の大部分において、共通重心を軸にしてお互いがお互いの周囲を公転し続ける。

やがて、これらの星々の寿命が近づき、急速に膨張するような末期の進化段階に入ると、より質量の大きい主星の方が先に寿命を迎え(星は質量が大きいほど短命)、外層にあるガスを吹き飛ばし、後には白色矮星や中性子星、ブラックホールなどのコンパクト天体を残す。

さらに、伴星も寿命を迎えて膨張し、公転軌道の半径が十分に小さくなると(太陽-地球間の距離以下)、コンパクト天体となった主星は強い重力で膨張した伴星の表層ガスを吸い寄せるようになる。主星の表面には、伴星から剥ぎ取った物質が勢いよく降り注ぎ、高速回転するディスクから物質の一部が双方向に高速で「ジェット」として噴出すると考えられている。

このジェットについては、いつ頃から出現し、どれくらいの期間継続し、その間どの程度の物質をどのように星間空間へと散逸させるのか、その結果として、これらを含む星系はどんな末路をたどるのかという点が、解明すべき謎として残されている。

そうした中、研究チームはジェットに注目し、そこから放射される「宇宙メーザー」の研究に取り組んできた。このようなジェットのうち、水メーザーが存在するものは「宇宙の噴水」と呼ばれている。メーザーとは、「マイクロ波版レーザー」に例えられ、指向性が極めて高く極端に増幅された強力なマイクロ波放射を指す。

星間空間においては、水、一酸化ケイ素、水酸基、メタノールなどの分子を含むガス雲から、マイクロ波を含む波長1mm〜1mの範囲内において多数のメーザー輝線が観測される。特殊な環境ではあるものの、物理条件が揃えば長大な増幅経路が天然に形成され、多くの星形成領域や終末星周囲物質の縁などで観測されるのだ。

宇宙の噴水が存在する天体は、1,000億個とも2,000億個ともいわれる星々が属する天の川銀河において、現時点でわずかに約20天体しか確認されていない。このことから、宇宙の噴水は星の長い寿命のうち、わずか100年程度の極めて短い期間しか存在しない可能性がある。

そこで研究チームは今回、野辺山45m電波望遠鏡用に水と一酸化ケイ素メーザーの電波輝線を同時に効率よく観測できる準光学系を開発し、宇宙の噴水が存在する天体「IRAS 16552-3050」に対し、メーザー源の監視観測を行うことにした。

今回の研究成果

観測を開始して間もない2021年2月に、この天体にて、水だけでなく一酸化ケイ素のメーザーが新たに出現していることが発見された。しかし、メーザーのスペクトルだけでは、メーザー源がこの星系のどこでどのように生じているのかを明らかにすることはできない。そこで次に、南天にあるこの星系の電波撮像が可能なオーストラリアの電波干渉計「ATCA」を用いた観測が行われた。

観測の結果、以前から存在が確認されてきた水メーザーの分布のほぼ中央に一酸化ケイ素メーザーの分布域が存在することが判明。外側に広がって見える水メーザーの領域はジェットの形状を示し、一酸化ケイ素メーザーの領域はジェットを取り巻くようにその根元付近にて低速で広がるガス流の存在を示していることが明らかにされた。

  • 野辺山45m電波望遠鏡で取得された「IRAS 16552-3050」からの一酸化ケイ素メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig.1改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

    野辺山45m電波望遠鏡で取得された「IRAS 16552-3050」からの一酸化ケイ素メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig.1改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

  • オーストラリアの電波干渉計ATCAで取得された「IRAS 16552-3050」からの水メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig.5改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

    オーストラリアの電波干渉計ATCAで取得された「IRAS 16552-3050」からの水メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig.5改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

水や一酸化ケイ素メーザーを励起する物理条件などを含めて考察すると、この星系では次のような進化が進んでいることが推察されるという。この星系を覆う、一酸化ケイ素メーザーを励起させる星周物質縁は今から300年以上前から発達し、今から20年ほど前から急速に発達してきた双極ジェットと、その星周物質が衝突するようになり、一酸化ケイ素メーザーの励起が始まったと考えられるとした。

野辺山45m電波望遠鏡による継続観測では、この一酸化ケイ素メーザーが見られる期間は3年以内に限定されていた。このことから、このメーザーを励起するような勢いを持ったジェットは断続的なものであることがうかがえるとしている。

今回解明されたこの星系に付随する一酸化ケイ素メーザーの放射分布と時間変化については、今後10〜20年以内に再び同様の現象が観測されることが予想されるという。その際、この星系までの距離が27,000光年もあるため、2つの星を分解撮像することは困難だが、この星系が本当に想定されているような連星系なのかをはじめ、連星軌道周期やそれぞれの星の質量や進化段階などの特徴が判明し、この星系の進化経路が解明される可能性があるとした。

こうして、新星や超新星(特にIa型)にならなければ推定材料が得られなかった連星系の進化に対し、「宇宙の噴水」天体の観測を通して、そうなる前段階における手がかりを得ることが期待されるとしている。

  • ATCAで観測された「IRAS 16552-3050」の周囲で光る水および一酸化ケイ素メーザースポット群の分布(出版論文Fig.5改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

    ATCAで観測された「IRAS 16552-3050」の周囲で光る水および一酸化ケイ素メーザースポット群の分布(出版論文Fig.5改変) (出所:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)