遠い惑星の大気に何が含まれているかは、恒星の前を通過する際に大気を通った光から調べられる。しかし、惑星の縁全体を平均した分析では、場所による違いが埋もれてしまう。木星型の巨大惑星では、大気の温度や広がりは縁に沿ってどう変わるのか。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測を使った新しい解析が、その違いを調べた。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
平均化で失われる位置依存情報
太陽系の外にある惑星が恒星の手前を横切る「トランジット」では、惑星本体が恒星の光の一部を隠し、地球から見た恒星系の明るさがわずかに下がる。惑星の縁では惑星大気を透過する恒星光が大気中分子に吸収されるので、そのスペクトルから大気の成分や状態を知ることができる。
従来の分析では、惑星の輪郭を円とみなし、縁全体を平均したスペクトルを求めることが多かった。しかし実際には、強く照らされる昼側と夜側の間で熱が運ばれる効果のため朝側と夕側、そして赤道と極付近で大気の状態が異なる可能性がある。
Lili Aldersonらの研究チームが対象としたWASP-17bは、平衡温度が約1760Kの高温の巨大ガス惑星、いわゆる「ホットジュピター」だ。arXivに論文「A Spatial Map of the Atmospheric Limb of a Hot Jupiter」(Nature Astronomyへの掲載受理)を公開している。
質量は木星の約半分、半径は約1.9倍で、密度が低く大気が大きく膨らんでいる。そのため大気のスケールハイト(後述)が大きく、恒星光の吸収による信号を捉えやすい。研究チームは、惑星の縁に沿って場所ごとの大気を調べる新手法を適用した。
恒星の減光から大気の輪郭を推定
用いたのは、2023年3月にJWSTの近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)、近赤外線分光器(NIRSpec)、中間赤外線観測装置(MIRI)で取得されたトランジット観測データである。解析した波長範囲は0.6~12μmで、可視光の一部から中間赤外線までを含む。
手法の要は、波長ごとに惑星の縁の半径を別々に推定する点にある。トランジット中に測るのは、時間とともに変わる恒星系全体の明るさだ。惑星が恒星面に入り始める時と出ていく時には、惑星の縁の異なる部分が順に恒星面にかかる。
その際の光度曲線の形には、縁の形が反映される。研究チームは解析ソフトHarmonicaで光度曲線をモデル化し、縁の形は円に固定せず、縁の半径を角度ごとに求める「transmission strings」法を適用した。
縁に沿った同じ角度で半径を波長ごとに比べると、その場所の透過スペクトルが得られる。ここでいう朝側は、トランジットで惑星が恒星面に最初に接する西側の縁、夕側は反対の東側の縁を指す。縁に沿った角度ごとのスペクトルを調べることで、朝側と夕側をそれぞれ半円として扱う従来の手法より細かな位置依存性を探ることができる。
一方、この手法では波長を24個の幅広い区分にまとめており、波長分解能はR約20、トランジット深さの測定誤差は中央値で約120ppmとなる。位置ごとの情報を得る代わりに、細かな波長情報や測定精度が犠牲になる。
曲線を複雑にしすぎて観測ノイズまで拾わないよう、データの一部で求めたモデルが残りのデータも説明できるかを交差検証し、曲線の複雑さを調整した。検出器が画素を読み出す時刻のずれも補正し、装置由来の時間差を大気の非対称性と取り違えないようにしている。
朝側と夕側で異なる温度と吸収
得られたスペクトルでは、朝側の吸収の特徴は弱く、夕側では水蒸気や二酸化炭素の特徴が大きく現れた。南北対称を仮定したうえで、各角度のスペクトルを独立に解析した結果、赤道付近の西端(朝側、角度0度)の温度は858(+434/-233)K、東端(夕側、角度180度)は1522(+116/-114)Kと推定された。
これはPOSEIDONを用いた自由化学リトリーバルの値で、等温の温度構造を仮定している。朝側は吸収の特徴が測定誤差と同程度に小さく、温度の制約は夕側より弱い。温度差は664(+449/-259)Kと推定された。この温度差は、大気の高さ方向の密度分布にも影響する。温度が高いほど分子の熱運動が強くなり、重力など他の条件が同じなら大気は高さ方向により広がる。
密度や圧力が高度とともに減る度合いを表す尺度が「スケールハイト」だ。単純な等温大気の近似では、高度がスケールハイト分だけ上がると密度や圧力は1/e(約37%)になる。つまりスケールハイトが大きいほど、高さごとの相対的な減少は緩やかである。本研究では、推定温度から計算したスケールハイトは、夕側で朝側の1.77(+0.91/-0.50)倍と見積もられた。
誤差の幅は大きく、温度と同様に朝側の制約が弱いことに注意が必要だ。研究チームは、温度差に伴うスケールハイトの違いが、縁の各位置でスペクトルの形が異なる主な要因だと解釈している。
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縁に沿った角度別スペクトルと大気の推定値。上段の各パネルは角度ごとの透過スペクトル、中央の図は水蒸気・二酸化炭素の存在量と温度の角度依存性を示す。朝側の温度推定値に大きな誤差があることも、帯の幅に表れている
夕側では水蒸気や二酸化炭素の吸収の特徴が目立ったが、モデル解析では、それらの分子の存在量が縁に沿って有意に変化するとは判断できなかった。吸収の強さには温度や大気の広がりも影響するため、特徴が強いことだけから分子が多いとは言えない。
なお、これらの存在量は東側ほどよく制約されているが、場所による差が検出されなかったことは、完全に同じ量だと確定したことを意味しない。
立体的な大気像へ進むための課題
今回、得られた東西の温度差は、光球付近で東向きの大気の流れが卓越するというモデル予測と整合する。また、東側の縁ほど高温という傾向は、MIRIの食観測で見つかった昼側ホットスポットの東向きのずれとも矛盾しない。
今回の解析は風速を測定したものではなく、その値までは求めていない。さらに、縁の温度差の大きさはMIRIの食マッピングで得られた温度差と整合するが、両手法が感度を持つ大気の圧力範囲は異なるため、温度の絶対値を単純に比べることはできない。
また、今回の解析では計算量を抑えるため、惑星の北半球と南半球の大気が対称だと仮定している。さらに、位置ごとの情報を取り出すため、スペクトルを24個の幅広い波長区分にまとめている。
このため、分子の存在量や雲・もやの分布を詳しく推定するには限界がある。水蒸気と二酸化炭素の存在量は制約できた一方、雲・もやの性質や、メタンなど他の分子の存在量が場所によってどう変わるかは確定できていない。
大気モデルの選び方にも課題が残る。放射・対流・熱力学的平衡を仮定したモデル格子では、金属量を太陽の10倍、炭素対酸素比を0.55、内部温度を200Kに固定し、熱再分配の係数も格子内で最大の再分配に相当する端の値となった。
それでも特に夕側の吸収の強さを再現できなかった。この結果は、試したモデル格子の条件では、放射・対流熱力学平衡のモデルが観測された温度構造を説明しにくいことを示す。
一方、化学平衡を仮定した等温モデルでは観測スペクトルをよりよく再現するものの、WASP-17bの大気にある非平衡化学過程は扱えない。加えて、このモデルでは角度によって金属量や炭素対酸素比の推定値に幅が生じた。水蒸気と二酸化炭素の存在量は縁に沿って有意に変化しないという結果と整合しにくく、論文はその原因として、等温モデルにおける化学平衡の仮定を挙げている。
研究チームは、今後のMIRIによる追加観測で5μmより長い波長の透過スペクトルの精度と分解能を高め、縁に沿った雲・もやの違いを詳しく調べられる可能性を挙げている。本研究は、平均した一つのスペクトルでは見えにくかった大気の構造を、縁に沿った角度ごとに検証する手法を示した成果だ。
