中性子星は磁場がきわめて強い天体であり、中には宇宙トップクラスの強磁場を誇る「マグネター」のような天体も存在する。そのような強力な磁場を持つ中性子星を含むX線連星の一部では、公転周期ごとにX線で増光することがある。この増光現象は、伴星の物質を中性子星が強い重力で自身に降り積もらせる(降着させる)ことで起こると考えられ、物質が降着する際には、中性子星の周囲に「降着円盤」が形成される可能性がある。
中性子星の降着円盤は単なる重力の影響にとどまらず、きわめて強い磁場により物質が押し留められ、それ以降は中性子星の磁場に沿って降着するようになると考えられている。その際、物質から強いX線が放射されると推測されているが、強磁場と降着物質が相互作用する中性子星の降着円盤環境は複雑であり、いまだ完全解明には至っていない。
そうした中、愛媛大学と日本大学(日大)、金沢大学(金大)の3者は、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の船外プラットフォームに設置された全天X線監視装置「MAXI」(マキシ)と、日本主導のX線分光撮像衛星「XRISM」(クリズム)を組み合わせて、ケンタウルス座の方向にある強力な磁場を持つ中性子星と青色巨星によるX線連星「1A 1118-61」を観測。中性子星の降着円盤に関する新たな発見があったと、10月26日に共同発表した。
鉄原子からの輝線プロファイルを詳細に分解できたことで、輝線成分の一部は中性子星の強磁場に支配される磁気圏外縁を周回する物質から放射されているという、従来の予測を明確に裏付けたという。
同成果は、愛媛大学 理学部/先端研究院 宇宙進化研究センターの高木利紘研究員、同・志達めぐみ准教授、日大 松戸歯学部の中島基樹専任講師、金大 先端宇宙理工学研究センターの杉﨑睦博士研究員、理化学研究所 開拓研究所の三原建弘上級研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の速報系オープンアクセスジャーナル「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
中性子星への物質の降着現象を正しく理解するための課題
これまで、中性子星に物質が降着する際の物質分布や運動について、理論と観測の両面から研究が進められてきた。しかし、従来の理論モデルでは観測データをよく再現できる場合がある一方で、再現できないケースも存在していた。中性子星への物質の降着現象を正確に理解するには、そこで生じる複雑な物理プロセスを解明する必要がある。
物質降着は、中性子星以外にもブラックホールや白色矮星など、重力の強いコンパクト天体で見られる宇宙の一般的な現象だ。また、中性子星の磁場は人類の技術では再現不可能な強度を持つため、磁場と物質の相互作用による物理現象を探る「天然の実験場」という側面も備える。そのため、中性子星への物質降着メカニズムの解明は、天体物理学の理解を深めるだけでなく、極限状態における物質の振る舞いを知る上でも重要な手掛かりになると期待されている。
X線連星「1A 1118-61」における約17年ぶりのX線増光報告を受けた研究チームは、MAXIの観測データを詳細に解析し、2026年1月12日時点で増光が始まったことを特定。その後、MAXIでX線強度のモニタリングを継続したところ、同天体のX線強度が観測史上最大に達する可能性が予見されたという。そこで、XRISMによる緊急観測を提案。科学的価値の高さが認められ、2026年2月7日に同衛星による観測が実現した。
今回のような突発天体現象の正確な予測は一般的に困難だ。一方で、宇宙望遠鏡による観測スケジュールは約2週間前までには決定されるのが通例のため、事前に突発現象を起こす天体に宇宙望遠鏡を向けておくことは非常に難しい。そのため、突発現象の詳細な観測には、MAXIのような広視野での常時モニタリングが欠かせない。
今回は、MAXIの観測データを基に、無理のない衛星運用の範囲内で実施可能なXRISMによる緊急観測が行われ、X線強度がピーク時の半分程度の「比較的明るい」時期に詳細な分光観測を行うことに成功した。
今回の研究成果
XRISM搭載の精密X線分光装置「Resolve」(リゾルブ)が捉えた観測データを詳細解析した結果、鉄原子からの輝線プロファイルを子細に分解することに成功し、輝線が幅の異なる2成分で構成されていることが確認された。
X線が原子の周囲にある電子に衝突すると、電子はより高いエネルギー状態へ遷移する。その電子が元の低エネルギー状態に戻る際、特定の電磁波が放射され、それが輝線として観測される。輝線の波長や強さ、幅の広がりといった特徴を分析することで、存在する原子種やその状態が推測可能にナる。
検出された2成分のうち、幅の狭い成分は、伴星表面やその周縁物質から放射されていることが推測された。一方、幅の広い成分は、中性子星の強力な磁場が支配する磁気圏外縁を周回する物質からの放射モデルと一致した。
この結果から、中性子星の磁場と降着物質が相互作用する領域付近から鉄輝線が放射されている可能性があることが示された。この情報は、ブラックホールや中性子星への物質降着現象や、強磁場などの極限状態における物質の振る舞いを理解する上で重要な手掛かりになることが期待されるという。
今回の観測により、鉄輝線の一部は、中性子星の強磁場と降着物質が相互作用する領域付近から放射されている可能性があることが明確に示された。今後は、異なるX線強度の放射時期に複数回観測を実施して輝線プロファイルの変化を捉え、鉄輝線の一部が中性子星の磁気圏外縁の周回物質に由来する放射であることを明確にしていく考えだという。
研究チームは今後も、広視野のMAXIと高精細のXRISMの連携により、突発現象を起こす天体の観測を進めていきたいとしている。


