有人機でハイブリッド推進システムを導入するための技術開発を進めている事例は、以前に取り上げた。今回のお題はハイブリッド無人機である。ただし軍用であることから、実はCO2排出削減は本題ではない。しかし、実用レベルになっているハイブリッド推進システム搭載機だから、話のタネにということで取り上げてみることにした。

スカイラーク3から派生したハイブリッド機

イスラエルに、エルビット・システムズという会社がある。防衛電子機器で知られたメーカーだが、無人機の分野でも実績がある。さまざまな無人機製品を手掛けているが、その一つが「スカイラーク」というシリーズ。鳥の「雲雀」という意味で、もちろん日本のファミレスとは何の関係もない。

最初に登場したのは「スカイラークI」で、これは人が担いで歩けるほど小型の機体。現在も、改良型の「スカイラークI LEX」がカタログに載っている。次に2006年に登場したのが「スカイラークII」で、「スカイラークI」よりも大型化した。性能向上や多機能化の要求を受けて機体が大型化するのは、よくある話である。

  • スカイラークIの外見。本当に人が担げるサイズであることをおわかりいただけるだろう 写真:エルビット・システムズ

    スカイラークIの外見。本当に人が担げるサイズであることをおわかりいただけるだろう 写真:エルビット・システムズ

次に登場したのが「スカイラーク3」で、2016年の発表。翼幅4.7m、電気モーター駆動、最大離陸重量40kg、運用高度15,000ft(約4,500m)、行動半径100km超、航続時間6時間、ペイロード10kg。車載式の油圧カタパルトで発射する。エルビット・システムズが製品紹介の動画を用意していたので、以下にリンクする。

軍用無人機の分野では「スカイラーク3」に限らず、電気モーター駆動の機体が意外とある。隠密裏に偵察する観点からすると、静粛性が高い利点があるが、航続性能や速度性能の面では分が悪い。クルマのBEV(バッテリ専用の電気自動車)と同じで、機体の推進も、搭載するセンサー機器の動作もすべて、満充電した内蔵バッテリに頼らなければならない。

その「スカイラーク3」の動力系統をハイブリッド化したのが、「スカイラーク3ハイブリッド」。翼幅4.7m、最大離陸重量48kg、行動半径120km、運用高度12,000ft(約3,600m)。「なんだ、ベースモデルよりも性能が落ちている部分があるのではないか?」といわれそうだが、この機体のポイントは別のところにある。

ハイブリッド化のメリット

先に述べたように、純電動式ではバッテリの容量がすべてを左右する。そこで「スカイラーク3ハイブリッド」では、内燃機関とバッテリと電気モーターを組み合わせた。

そして、速度性能が欲しい場面では内燃機関を使う。しかし内燃機関は電気モーターよりも騒音が大きい。だから、目的地の上空に到達して周回しながら偵察する場面では、内燃機関を止めて電気モーター駆動に変える。その際の電力供給源は、機上に搭載するバッテリとなる。これを「サイレント・モード」と称している。

機体のサイズと重量を変えることなく、新たに内燃機関とそのための燃料タンクを追加したのだから大したものだが、それによって得られる利点は、実は「サイレント・モード」だけではない。2種類の動力源を持っているわけだから、もしもそのうち片方が故障あるいは戦闘被害などで使用不可能になったとしても、他方を使用して飛行を継続できる可能性が出てくる。これは、軍用として見た場合に無視できないメリットであろう。

ハイブリッド化を実現する手法

実は、「スカイラーク3ハイブリッド」で面白いのは、ハイブリッド化を実現する際の主要機器の実装方法。

ベースモデルの「スカイラーク3」を見ると、断面積を絞りながら後方に伸びた胴体の後端に、推進用のプロペラが付いている。そのプロペラを電気モーターで回しているわけだ。一方、比較的太い機首の側はクリーンで、電子光学センサーのターレットは下面に突き出ている。

それに対して「スカイラーク3ハイブリッド」では、機首にもプロペラが増えている。ということは、内燃機関で駆動するのはこちら、機首のプロペラであろう。そして、内燃機関と燃料タンクとバッテリが加わった分だけ、他の用途に充てていたスペースは減っているはずだ。なにしろ、機体のサイズは変わっていないのだから。

  • スカイラーク3ハイブリッドの外見。機首にエンジンとプロペラを追加した様子が分かる 写真:エルビット・システムズ

    スカイラーク3ハイブリッドの外見。機首にエンジンとプロペラを追加した様子が分かる 写真:エルビット・システムズ

ハイブリッド推進システムだからといって、1つのプロペラに電気モーターと内燃機関の両方を組み合わせれば、駆動系の構造も、それの制御もややこしいことになる。そこで、既存の電気モーター推進システムはそのままとして、機首に内燃機関で駆動するプロペラを追加して、どちらか一方を作動させる形としたのだろう。

この「後ろから前から推進するシステム」は、かつてのドルニエDo335プファイルを思わせるものがあるが、動機はまるで違う。

そして、内燃機関は重量物だから、後方に追加するのは具合が悪い。その分だけ重心が後方に移動してしまい、機体の安定性に響くからだ。先端部にプロペラ、その直後に内燃機関、燃料タンクは重心点付近に置くのがベストであろう。ただし、エンジンとペイロードとの兼ね合いをどうするか、バッテリ搭載スペース(とバッテリの容量)をいかにして確保するか。見た目よりも開発は難しかったのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。