今回は、「ひっつきもの」の中でも、「機内に収まり切れなくなったものが外部にはみ出した結果として出現したもの」を取り上げてみたい。民航機ではあまり聞かない種類の話だが、軍用機では「あるある」なのだ。

なぜ中身がはみ出してくるのか

飛行機にとって、余計な重量をしょい込むことは基本的に「悪」だから、最初に分野ごとに重量割り当てを行い、その範囲内でなんとかするように、という話になる。ところが、実際にモノが完成して運用を始めてみると、いろいろと要求が加わり、「あれを足したい」「これを足したい」ということになりやすい。また、事故などの教訓を受けて新たな安全装備を追加したい、というニーズが発生することも、よくある。

第86回で、コンフォーマル燃料タンクを取り上げた。あれは、主翼や胴体の下面に搭載する増槽よりも少ない空気抵抗で、燃料搭載量を増加させたい、というニーズを受けて考え出されたもの。機内に燃料タンクを増設する余地がなければ外部に足すしかないが、その際に発生するネガをできるだけ抑えたいというわけだ。

何も燃料タンクに限らず、他の分野でも同様に「機内に増設したくてもスペースの余裕がないので、外部にはみ出した」事例がある。そして軍用機の場合、それはセンサー機器や電子機器が該当することが多い。

ただ、外部にはみ出すからといって空気抵抗を増やす原因になっては具合が悪いし、整備性が悪くなるのも困る。そこで、どこにはみ出させてどういう形状にまとめようかと、設計者が頭を使うことになる。

どんどん太るF-16

ゼネラル・ダイナミクス(当時)でF-16ファイティングファルコンの開発に携わった、ハリー・ヒレーカーという技術者がいる。このヒレーカー氏が、後に社内誌「CODE ONE」のインタビューの中で、F-16について「余計なものを積めないように小さく作った」と発言していた。

F-16は有視界の格闘戦に重きを置いた設計で、小型・軽量・安価にまとめることを重視していた。ところが実際に現物ができてみたら、早くも「やはり、捜索や射撃管制のためにはちゃんとしたレーダーが欲しい」という話になり、最初のプロトタイプと比べると機首が太くなった姿で量産が始まった。

  • スッピンの身軽な姿で飛んでいる「サンダーバーズ」のF-16D

その後、F-16は米空軍においてF-4ファントムにとって代わる多用途戦術戦闘機と位置付けられてしまったので、搭載する兵装が多様化しただけでなく、搭載する機器類もどんどん増えた。なまじ性能が良いものだから、「あれもできそう、これもできそう」となる。そうやって対応する任務の種類が増えれば、それを実現するために装備が増える。

それでも、F-16C/Dの初期型では垂直尾翼の基部が太くなる程度の話で済んでいた。ところが、対地攻撃用に多様な兵装を搭載することになれば、翼下パイロンは兵装のために使いたい。それに兵装を吊るして飛べば空気抵抗が増えるから、燃料消費が増える(レーダー探知を避けるために低空飛行を行えば、なおさらだ)。そこで増槽を吊るさずに燃料搭載量を増やすために、主翼付け根の胴体上面にコンフォーマル燃料タンクを追加する機体が現れた。

F-16を敵防空網制圧(SEAD : Suppression Enemy Air Defense)任務に充てようと考えたのはイスラエルだが、そのために追加する電子機器を収容するスペースがなかった。そこで、コックピットから垂直尾翼にかけての背面にフェアリングを追加して、スペースをこしらえた。下の写真はギリシア空軍の機体だが、外見は似ている。

  • 背面に電子機器収容のためのフェアリングを追加したF-16D。これはイスラエルではなくギリシア空軍の機体 Photo : USAF

そんなこんなの事情により、今の最新型F-16はもはや、最初に構想された「小型軽量シンプル安価な、有視界の格闘戦専用機」とは似ても似つかぬ重装備、吊るしものとひっつきものだらけの機体に変貌してしまった。だが、それができたからこそベストセラーになったのも事実で、当初の姿にこだわっていたら、4,000機以上も売れなかっただろう。

似たような話は他にもいろいろ

なにもF-16に限った話ではない。もっと前に、A-4スカイホーク攻撃機がやはり、運用上の要求に対応しようとして機器を追加した結果として、外部に突出物がいろいろできた。AH-64アパッチ攻撃ヘリも、初期型のA型と、後になって出てきたD型やE型を比較すると、後者の方が胴体側面の張り出しが大きい。これも電子機器の収容スペースを増やすため。ソ連製の戦闘機でも似たような事例はいろいろある。

  • ダグラスA-4スカイホーク艦上攻撃機。背中の張り出しは、初期のモデルにはなかったものだが、機内に収まらない機器の収容スペースとして追加された

それなら、最初から発展のための余裕を持たせて大きめに作っておけば」と思いたくもなるが、それも程度問題だし、そもそも大きな機体は重くて高価になる。それでは買い手がつかないし、売れても数が限られる。

F-16にしろA-4にしろ、最初の設計でうまく割り切って小型・軽量・安価・シンプルにまとめたからこそ、お買い得感が出てベストセラーになった。そしてベストセラーになって有用性を発揮してみせたからこそ、新たな要求がいろいろ加わって、突出物が増えた。それがまた、新たな商機につながった。最初に余裕を持たせて大きくて高い機体を作ったのでは、こういうサイクルは回らない。

そして、元の機体構造をできるだけいじらずに済ませるとか、空気抵抗の増加を抑えるとか、整備性も考慮に入れるとかいう話になると、はみ出させることができる場所は限られてしまう。そこでしばしば目を付けられるのが、機体の背面ということになるようだ。

してみると、用途拡大や機器追加の要求を受けて機体の各所に張り出しやひっつきものができることは、その機体の有用性が認められたことを示す「勲章」みたいなものなのかもしれない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。