「ゼロからわかるEMC」もいよいよ最終回となる。第6章までは、EMCの基礎から試験の概要までをお話ししてきた。第六章では、EMCの近年の動向について、目立ったものをご紹介していこうと思う。

(※編注: この記事の内容は2016年9月14日時点のものです。)

試験周波数の拡大

EMCの規制が開始した1960年代より、規格はより明確になり、地域間の規格に整合が取れるようになってきた。テクノロジーの発展に従い、EMCの規格も変化を続けてきている。

2000年代に入り、PCなどのIT機器の性能が向上し、処理速度が飛躍的に上がったのを受け、EMCの試験周波数帯を拡大する動きがあった。製品の高速化に伴い、機器を作動させたときに発生するノイズの周波数帯がGHz帯に上るようになったからである。それを背景として、2005年頃、現在はCISPR 32に移行したCISPR 22(PCなどの情報技術装置のエミッションの国際規格)は1~6GHzの妨害波試験の追加を行った。現在、FCC規則では、製品の持つ動作周波数にあわせ、試験周波数帯を最高で40GHzまで規定している。

ところで、先ほどCISPR 22は現在、CISPR 32へ移行されていると触れた。次にその背景をお話ししようと思う。

CISPR 32、35 マルチメディア規格への移行

従来、ラジオ、テレビなど音声、放送受信機(AV機器)にはCISPR 13(エミッション規格)、CISPR 20(イミュニティ規格)が製品群規格として定められていた。先述のPCなどの情報技術装置(IT機器)の製品群の規格には、CISPR 22(エミッション規格)、CISPR 24(イミュニティ規格)があった。(下表参照)

しかし、最近のテレビやDVDレコーダーなどのAV機器には、その制御にマイクロコンピュータが使用され、PCについても、テレビ受信機能が追加されたり、録音、録画が可能になったりと、AV機器との区別がつかなくなっている。このように機能や部品の構成、並びにEMC特性も似通ってきた2つの製品群に対しても、上述したように、別々の規格で評価しなければならない状況にあった。そのため、製造者から、2つの製品群規格の統合を求める声が上がっていた。そして、2012年1月30日、CISPR 32が発行され、2つの製品群を統合した、マルチメディア機器のEMC規格が誕生したのである。

マルチメディア機器のエミッション規格であるCISPR 32は、従来のCISPR 13とCISPR 22の適用製品の両方を、つまり、AV機器とIT機器の2つの製品群をカバーする。CISPR 32へ移行後、たとえAV機能だけを持つ機器であっても、CISPR 32が適用されるので、注意されたい。

マルチメディア機器に関する規格はCISPRの小委員会Iが担当し、先述のようにCISPR 32を2012年に発行し、現在は第二版が最新版となっている。マルチメディア機器のイミュニティ規格、CISPR 35が現在検討されており、発行が望まれる。日本では、VCCIがマルチメディア機器の規格を参照した規格を発行する予定である。余談だが、韓国だけはマルチメディア機器のEMC規格を先行して採用し、KN 32とKN 35を現在使用している。

欧州RE指令への移行

近頃業界を賑わせているのは、欧州のR&TTE指令からRE指令への移行である。

まず、第二章で少し触れたが、欧州市場へ製品を流通させる際には、従来R&TTE指令(Radio & Terminal Telecommunication Equipment Directive)、EMC指令(EMC Directive)、低電圧指令(Low Voltage Directive: LVD)のうち、適切なものに従い適合宣言を行う必要があった。それぞれの適用対象は下記のとおりである。

RE指令(Radio Equipment Directive)は、R&TTE指令に代わるものとして2016年6月13日に発行された。無線機能を内蔵した機器が適用対象となり、無線モジュールが搭載されていれば、主機能が何であるかは問わない。また、RE指令の対象となる製品は、RE指令とEMC指令またはLVDの複数指令での適合宣言を行うことはできないので、注意しておきたい。

RE指令への移行により、EMC指令へどのような影響が出るだろうか? まず、従来はEMC指令の対象であったテレビなどの放送受信機、ラジオが、無線機能を使用するためRE指令の対象となる。一方、R&TTE指令の対象であった、無線機能を持たない通信端末機器が、EMC指令への対象機器へと変更になった。

参考: 変更となった製品例

RE指令は、2016年6月13日に発行された。1年間の移行期間が設けられ、その間、R&TTE指令とRE指令のいずれかでの適合宣言が認められる。2017年6月13日には完全移行し、RE指令のみの適用となる予定である。


さて、本連載では、電子機器の設計、製造に関わる若い技術者の方々へ向け、EMCの概念、国際および地域規格・規制の概要、EMCの測定方法の基礎などを6回の連載に分けてまとめてきた。電子機器は、今後も増加し多様化していくことが予想され、EMCは、ますます重要な技術基準となっていくと思われる。この連載を通して、若い技術者の方々が少しでもEMCへの理解を深めることができたのなら幸いである。

最後までお付き合いただき、ありがとうございました。

参考文献:
無線機器指令(RED)MRAワークショップ2015年3月 (日本総務省)
http://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/equ/mra/pdf/26/j3.pdf

著者紹介:UL Japan

2003年に設立された、世界的な第三者安全科学機関であるULの日本法人。現在、ULのグローバル・ネットワークを活用し、北米のULマークのみならず、日本の電気用品安全法に基づく安全・EMC認証のSマークをはじめ、欧州、中国市場向けの製品に必要とされる認証マークの適合性評価サービスを提供している。詳細はUL Japanのウェブサイトへ。