NECが開催した「NECテクノロジーブリーフィング」では、研究担当者がライブカメラ映像から河川氾濫や道路冠水の予兆を検知する技術と、大量の被災画像から必要な情報を抽出する技術について、仕組みや開発背景、今後の展開を説明した。

災害の頻発化・複合化に対応、NECが防災AIを開発

NECのサイバーフィジカルインテリジェンス研究所では、実世界の情報をデジタル空間に取り込み、AIによる分析や最適化の結果を現実世界に反映する技術の研究開発を進めている。

同研究所 所長の宮野博義氏は、防災分野における課題として、自然災害の「頻発化」「同時多発化」「複合化」を挙げた。

  • NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 所長の宮野博義氏

    NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 所長の宮野博義氏

例えば、米国で年間10億ドル以上の被害をもたらした気象・気候災害は、1980年代の年平均3.3件から、2020~2024年には年平均23.0件に増加しており、日本でも2024年1月の能登半島地震からの復興途中に、同年9月の豪雨災害が発生するなど、異なる災害が重なる事例が見られる。

宮野氏は、こうした状況について「人の判断だけでは対応の迅速性と網羅性を両立することが難しくなっている」と説明した。

災害対策は、「平時の予防」「災害発生のおそれがある段階での対応」「発災直後の応急対応」「復旧・復興」という4つの段階に分けられる。

NECでは、このうち特に判断までの猶予が短い「おそれ段階」と「発災直後」に着目し、衛星画像や現場カメラなどを活用した広域センシング技術と、AIの専門知識がなくても利用できる生成AIシステムの開発を進めているという。

ライブカメラ映像をAIで分析、河川氾濫や道路冠水の予兆を検知

最初に紹介された技術は、ライブカメラ映像から現場の状況を定量的に把握し、災害の予兆を早期に発見するというものだ。

国や自治体などでは、河川や道路の状況を把握するために多数のライブカメラを設置している。しかし、大量の映像を人が常時監視することは難しく、水位の上昇や道路の冠水といった緩やかな変化を見逃す可能性がある。

同研究所 主任研究員の井下哲夫氏は、災害の予兆を検知するうえでの課題として、現場状況の微細な変化を捉える難しさと、災害の種類やカメラの設置場所によって監視すべき対象が異なる点を挙げた。

  • NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 主任研究員の井下哲夫氏

    NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 主任研究員の井下哲夫氏

今回の技術では、これらの課題を解決するためにVLMを活用しているという。

一般的なVLMは、画像に対して「道路が冠水しているか」と質問すると、冠水の有無を文章で回答できる。その一方で、冠水の程度が時間の経過とともにどれほど変化したかを、連続的な数値として把握することは難しいということが課題だった。

そこでNECは、VLMが回答文を生成する際に内部で計算する「確からしさ」に着目した。

具体的には、「道路が冠水している」という肯定文と、「道路が冠水していない」という否定文について、それぞれの確からしさを算出。その差をスコアとして利用することで、現場の状態を定量的に把握する仕組みを開発したという。

  • 技術のアプローチ

    技術のアプローチ

これにより、道路の白線が徐々に見えなくなるといった微細な変化も、スコアの推移として捉えることが可能になり、あらかじめ設定した基準値を超えた場合に担当者へ通知することで、道路封鎖や避難指示、現場のパトロールなどの判断を支援する。

またVLMへの質問文である「プロンプト」の自動生成も特徴的だ。

従来は、専門家がカメラ映像を確認し、監視対象に応じたプロンプトを個別に作成・調整する必要があった。

今回の技術では、AIが映像の特徴を分析し、スコアが不自然に変動する原因をもとにプロンプトを自動修正する。例えば、交差点を撮影するカメラでは道路上の白線に着目し、歩道を撮影するカメラでは道路中央部や歩道の冠水状況を確認するよう、現場に応じた質問文を生成する。

これにより、カメラごとの調整作業を削減し、多様な現場への導入を迅速化することができるという。

ブリーフィングでは、道路冠水や河川氾濫の映像を用いたデモンストレーションが行われ、水位や冠水状況の変化に応じてAIのスコアが変動する様子が示された。

  • 冠水を検知するデモンストレーション

    冠水を検知するデモンストレーション

被災画像5000枚をAIで分析、確認時間を約7時間から1時間弱に

続いて、災害発生直後に収集される大量の画像から、必要な被害情報を抽出する技術が紹介された。

地震や豪雨などの災害が発生した際には、道路の寸断、住宅の損壊、土砂崩れなど、さまざまな被害状況を短時間で把握する必要がある。しかし、現場から収集される画像の枚数が多く、自治体などの担当者がすべてを確認するには時間を要するという課題がある。

同研究所 主幹研究員の柴田剛志氏は、2024年の能登半島地震を例に挙げ、災害発生直後には孤立集落の把握や通行可能な道路の確認など、多くの判断が同時に求められると説明した。

  • NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 主幹研究員の柴田剛志氏

    NEC サイバーフィジカルインテリジェンス研究所 主幹研究員の柴田剛志氏

こうした背景の下、NECが開発したのが画像内に小さく写る被害を捉える技術「VLM局所領域理解」と、新しい被害の種類を追加学習しても従来の知識を維持できる技術「VLM継続学習」を組み合わせたものだ。

「VLM局所領域理解」は、画像全体だけでなく、質問に関連する部分の特徴を強調して分析するものだ。従来のVLMでは、画像内に大きく写る対象を認識できても、遠方の小さな崖崩れや道路の損傷などを見落とす課題があった。実際に東日本大震災の車載カメラ記録映像を分析したところ、被災対象の58.5%は画像面積の10%以下の大きさで写っていたという。

この新技術では、画像面積の10%以下の対象についても、30~40%を占める大きな対象と同程度の精度で検出できることが確認できている。

  • 「VLM局所領域理解」概要

    「VLM局所領域理解」概要

「VLM継続学習」は、新たな被害の種類を学習する際に、既存の知識が失われる問題に対応する技術だ。

従来のVLMでは、例えば崖崩れの画像を追加学習すると、それまで認識できていた住宅や道路などに関する知識の一部が失われる場合があった。同技術では、追加学習する画像に含まれる既存の情報も学習に取り込むことで、従来の認識能力を維持しながら新たな事象への対応を可能にしている。

  • 「VLM継続学習」概要

    「VLM継続学習」概要

NECは、東日本大震災の車載カメラ記録映像をもとに、12種類の被災事象を対象とした検証を実施。その結果、約5000枚の画像から人が確認する必要のある画像を約9分の1に絞り込めることを確認したという。

1枚当たりの目視確認時間を5秒として計算すると、従来は約7時間を要する確認作業を1時間弱に短縮できる計算だ。

2027年度中の実用化を目指す、夜間の検知精度が課題

NECは、今回発表した2つの技術について、2027年度中の実用化を目指している。

一方、ライブカメラ映像を用いた災害予兆検知では、夜間の対応が課題となっている。井下氏によると、街灯などの補助光がある環境では一定程度のスコア化が可能であることを確認しているものの、夜間の安定した検知に向けては、引き続き研究開発が必要だという。