kintoneを導入すれば成功、ではない。実際に使ってもらい効果を出してこその成功だ。北九州市の総合プラントエンジニアリング企業・高田工業所の場合、答えは「チーム」にあった。

福岡県で6月23日に開催された「kintone hive fukuoka 2026」で、同社 診断ソリューション部の中野明氏と矢野晃寛氏が、kintone開発が行き詰まった「暗黒期」から、仲間を得てチームで在庫管理の基盤を立て直し、さらに自社の電流情報量診断システムとkintoneをAPI連携させる新サービス構想へとつながった軌跡を語った。

  • 左から、高田工業所 診断ソリューション部の中野明氏、矢野晃寛氏

    左から、高田工業所 診断ソリューション部の中野明氏、矢野晃寛氏

Excelと紙による在庫管理、属人化が課題に

高田工業所は1940年創業、北九州市八幡西区に本社を置く総合プラントエンジニアリング企業だ。鉄鋼・化学・エネルギーといった日本の基幹産業や工場設備の設計・建設・メンテナンスを手がけ、プラント事業、プロジェクト事業、装置事業、設備診断事業の4つを柱とする。

登壇した2人が所属するのは、設備診断事業を担う診断ソリューション部だ。同部では、電流情報量診断システム「T-MCMA」は、株式会社高田工業所が開発した日本初の回転機械の予知保全システムです。配電盤」を扱っている。電気室に設置した電流センサーと計測ユニットで取得したデータをクラウド上で解析し、モーターなどの設備の異常や劣化を診断する。電源品質やインバータの劣化、液体の詰まり、ベルトの摩耗などを確認でき、診断結果は事業所のパソコンから閲覧できる。現場の設備に直接センサーを取り付ける必要がないことも特徴だ。

  • 高田工業所の設備診断システムの構成。電気室で取得した電流データをクラウド上で解析する

    高田工業所の設備診断システムの構成。電気室で取得した電流データをクラウド上で解析する

同部では、計測ユニットや電流センサーなどの機器を管理しており、その在庫管理にkintoneを活用している。しかし、導入から運用が軌道に乗るまでには紆余曲折があった。

複雑なカスタマイズで「暗黒期」に、在庫数も合わず

それまで、測定用機器の在庫はExcelへの入力と目視での突き合わせで管理していた。発注や搬出のたびにExcelに入力して紙で印刷、押印して決裁を回す運用だった。担当者にすべてを任せる体制のため進捗状況は担当者にしか分からないという属人化が進んでおり、業務が「ブラックボックス化」しやすいという課題を抱えていた。

この状況を変えようと動いたのが中野氏だ。在庫管理に関する運用を一つにつなげられれば解決するのではと考え、ノーコードで開発・管理がしやすいkintoneに着目。ただ、他の業務と兼務で時間が取れず、必要なアプリの数も多かったことから、ベンダーに協力を依頼した。そして、1年をかけて在庫管理システムを構築した。

しかし、ここで「暗黒期」が到来する。構築したシステムはカスタマイズが複雑になり、データの整合性が取れず、現場のニーズにも応えられない状態に陥った。在庫数が合わない、出張先でも決裁のためにパソコンが手放せない――。現場から次々と噴き出す苦情を前に、中野氏は「カスタマイズが複雑すぎて、もう自分では触れない」という限界に直面した。

  • 測定用機器の在庫管理に乗り出した中野氏だが、暗黒期に直面してしまった

    測定用機器の在庫管理に乗り出した中野氏だが、暗黒期に直面してしまった

開発経験者2人が加わり、チームで「暗黒期」を脱却

暗黒期を脱出する転機になったのは、前年に参加した「kintone hive」だった。会場で他社の発表を聞くうちに、中野氏は「このままではいけない」「1人では解決できない」と痛感したという。その後上司に直談判し、メンバーの増員を訴えた。

その訴えが実り、開発経験のあるメンバー2名(矢野氏と馬場氏)が部署に加わった。矢野氏は「他部署でkintoneの改善に取り組んだ経験はあったが、1人だと大変なのも知っていた。今回、馬場と一緒にチームに入ったことで『2人なら何か新しいことができるんじゃないか』とワクワクした」と振り返る。

  • 中野氏、馬場氏とタッグを組むことになり「『2人なら何か新しいことができるんじゃないか』とワクワクした」と語る矢野氏

    中野氏、馬場氏とタッグを組むことになり「『2人なら何か新しいことができるんじゃないか』とワクワクした」と語る矢野氏

新しいメンバーの参加によって、それまで口数の少なかった会議でも意見が活発に交わされるようになり、開発スピードと技術力が向上した。

新体制では、開発経験者と現場メンバーが意見交換を重ね、プログラムの内容や仕様をチーム全体で共有するようにした。その結果、従来の課題だった在庫数の不一致を解消。出張先でも利用できるようモバイル対応を進めるなど、現場の要望を反映した改善が可能になった。

現在は棚卸・出荷作業をQRコードリーダーで効率化するカスタマイズにも取り組んでいる。「意見を出し合い、改善のサイクルを回せるチームを構築できた」と中野氏は胸を張る。

チームづくりが成功した要因について、矢野氏は、開発者という立場にとどまらず、実際に現場業務に入り込み、自分ごととして取り組んだことが大きかったと分析する。その姿勢や熱意がメンバーにも伝わり、改善サイクルを回せる体制づくりにつながったという。

自社の設備診断システムとkintoneをAPI連携

体制が整う中で、次に浮かんだのが自社の診断システムとkintoneとのコラボという発想だ。

電流情報量診断システムは管理画面で結果を確認できる一方、顧客が日常的に複数の画面を切り替えて使う手間や、セキュリティ面で導入のハードルが高いという課題があった。そこで、kintoneの業務アプリに自社サービスをAPI連携でつなげるというアイデアが生まれた。「このチームなら実現可能かも」と中野氏は確信した。

kintone APIを通じて診断結果をkintoneにアップロードし、修繕記録とひも付ける。グラフやアラート表示、正常・警告・異常の色分け表示なども、実際に試作品として形にした。kintoneの標準機能であるコメント機能を使えば、たとえば「危険値になっているけど大丈夫?」と顧客が問い合わせれば、「対象機器はすでに停止させており、すぐにメンテナンスを予定しているので問題ありません」といった対話の記録を残すこともできる。

  • 電流情報量診断の詳細表示画面。診断結果を正常・警告・異常の3段階で表示する

    電流情報量診断の詳細表示画面。診断結果を正常・警告・異常の3段階で表示する

このほか、過去データの分析やAIによる検索、ハード投資なしでの現場への情報展開、BCP対策、報告書作成の効率化といったメリットも見込む。現時点では企画・検証段階だが、中野氏は「今後は電流の情報だけでなく、設備の他のアプリなども組み合わせた“パッケージ商品”として提供していく構想もある」と明かした。

矢野氏は、これまでのkintone活用が既存業務の置き換えを中心としていたのに対し、今後は自社の専門システムと共存させ、新たな価値を生み出す段階に進むと説明した。

「顧客への新たな価値の提供として、止まらない工場を作るパートナーとして、kintoneとコラボしたサービスの構築をチームで目指している」と矢野氏は意気込む。

一方、中野氏は、1人では解決できなかった課題をチームで乗り越えた経験を振り返り、「kintoneを導入したが活用しきれていない場合は、周囲を巻き込んでいくことで突破口が見えてくるはず」と呼びかけた。