職員は増えない。一方で、仕事は減らず、行政サービスの質も落とせない。こうした課題を前に、青森県では「余力のある今のうち」に業務のあり方を変えようとしている。その手段の一つとして活用しているのが、サイボウズの「kintone」だ。

2022年度に20ライセンスから始まった取り組みは、現在900ライセンスまで拡大した。その背景にあったのは、単にツールを導入するだけではなく、業務改善に意欲を持つ職員を支え、その取り組みを庁内に広げていく仕組みだった。「kintone hive Government 2026」で紹介された青森県の取り組みを見ていこう。

  • 左から、青森県農林水産部 畜産課の鹿内葉月氏、総務部 行政経営課の小栗弥知幸氏

    左から、青森県農林水産部 畜産課の鹿内葉月氏、総務部 行政経営課の小栗弥知幸氏

「人が減ってから」では遅い、青森県が業務改革を急ぐ理由

青森県総務部 行政経営課 主事の小栗弥知幸氏は、青森県に限らず、「10年後に自治体職員の数は増えることはないが、仕事の量は減らない、サービスの質も下げられないだろう」と切り出した。だからこそ、余力のある今のうちに業務のやり方やあり方を変えていく必要があるという。

  • 今後を考えると仕事は減らないが、人は減る。しかし行政サービスの質は落とせない

    今後を考えると仕事は減らないが、人は減る。しかし行政サービスの質は落とせない

こうした課題を背景に、青森県では2022年度、当時の行政経営課担当者がkintoneに着目し、20ライセンスから利用をスタートした。

kintoneを使いたくても使えない、立ちはだかった「LGWAN」の壁

しかし、20ライセンスでkintoneの利用を始めた青森県は、早くも自治体ならではの壁にぶつかった。

自治体の業務で利用するLGWAN接続系は、インターネットから分離された環境となっている。一方、kintoneで業務アプリを構築する際には、機能を拡張するプラグインを利用するケースも多い。青森県でもプラグインを活用したかったが、LGWAN接続系からはそのまま利用できないという課題があった。

そこで青森県は、LGWAN環境からクラウドサービスを利用するためのクラウドゲートウェイを導入し、この問題を解消した。

  • 自治体の作業のメイン環境はLGWAN接続系なのでプラグインが利用できない

    自治体の作業のメイン環境はLGWAN接続系なのでプラグインが利用できない

  • LGWAN対応のクラウドゲートウェイを使うことで解決した

    LGWAN対応のクラウドゲートウェイを使うことで解決した

こうして利用環境を整えた青森県は、120ライセンスで試験運用を進め、その後240ライセンスで本格運用を開始。2026年度には900ライセンスまで拡大した。

では、利用環境を整えただけで、kintoneは庁内に広がっていったのだろうか。

全員に広げない、「ファーストペンギン」を徹底して助ける

青森県が利用拡大に向けて重視したのが、業務改善に意欲を持ち、最初に行動を起こす「ファーストペンギン」を支援することだった。

「こんなアプリを作りたい」「この業務を改善したい」。そうした職員から相談があれば、行政経営課がチャットや電話で対応し、場合によっては翌日に現場へ足を運ぶ。小栗氏は、職員の業務改善に対する“熱”が冷めないうちに支援する「即レス」を徹底したという。

青森県は、1人の職員が作成したアプリを同じ業務を行う所属へ横展開することで、1人への支援を多くの職員の利用につなげる考え方を示した。スライドでは、そのイメージを「1人への支援で利用者+99」と表現している。

  • 熱のある職員がアプリをつくれば、同じ業務を行う部署に横展開される

    熱のある職員がアプリをつくれば、同じ業務を行う部署に横展開される

一方で、職員が挑戦しやすい環境づくりにも力を入れている。小栗氏は職員から「アプリが完成しなかったらどうなるんですか?」とよく聞かれるという。それに対する答えは、「別に何もないので、どんどんチャレンジしましょうよ」だ。

時間が足りず完成できなければ、時間を確保して再挑戦すればいい。やりたいことをkintoneで実現するのが難しければ、別の方法を検討すればいい。重要なのはkintoneを使うことではなく、業務を改善することだという。

  • 目的は業務改善。kintoneではだめなら他の手段を使えばよいし、時間不足で成果が出せなかったなら、時間が取れるようになってから再挑戦すればよい

    目的は業務改善。kintoneではだめなら他の手段を使えばよいし、時間不足で成果が出せなかったなら、時間が取れるようになってから再挑戦すればよい

内製化を後押しするため、職員向けの学習環境も整えた。kintoneやプラグインの設定方法を紹介するワンポイント動画を作成しており、現在58本を公開している。

PowerPointで管理、「最新版が分からない」防疫計画をどう変えた?

kintone内製化によって構築した実例として、青森県農林水産部 畜産課技師の鹿内葉月氏が「防疫計画情報管理アプリ」を紹介した。

従来、青森県では農場ごとにPowerPointで防疫計画を作成していた。農場の位置によっては、複数の農場で同じ集合施設や消毒ポイントを設定しているため、こうした情報に変更が生じると、関係するすべての農場のPowerPointを修正する必要があった。

そのため、更新漏れや更新したファイルの共有不足が発生するほか、高病原性鳥インフルエンザが発生した際に、最新版の防疫計画をすぐに見つけられないという課題があった。

そこで構築した防疫計画情報管理アプリは、マスター用アプリ5つ、メインの情報管理アプリ、地図化用アプリで構成されている。1つのアプリで情報を更新すれば、関連するすべてのアプリに自動で反映される仕組みとし、更新漏れを防げるようにした。

また、ボタン1つでマップを作成できるようにし、農場や集合施設、消毒ポイントなどの位置関係を可視化。現場を熟知していない職員でも地理的なイメージを把握しやすくした。情報共有も容易になり、常に最新の防疫計画を確認できるようになったという。

  • 従来は農場ごとにPowerPointで防疫計画を作成しており、更新漏れや最新版の共有に課題があった

    従来は農場ごとにPowerPointで防疫計画を作成しており、更新漏れや最新版の共有に課題があった

  • アプリを作ったことで1カ所の情報を変更すると関連する情報にも反映され、常に最新の防疫計画を共有できるようになった

    アプリを作ったことで1カ所の情報を変更すると関連する情報にも反映され、常に最新の防疫計画を共有できるようになった

鹿内氏は、こうした仕組みによって、高病原性鳥インフルエンザなどの防疫対応にかかわる業務負担を軽減できたと説明した。

小栗氏は最後に、「kintone導入≠業務効率化」と強調した。重要なのはkintoneを導入すること自体ではなく、「業務の見直し」を当たり前にすること。業務を見直そうという意識を職員に広げていくことが、青森県が目指す業務改革の姿だ。

  • 重要なのはkintoneの導入ではなく、「業務の見直し」を当たり前にすること

    重要なのはkintoneの導入ではなく、「業務の見直し」を当たり前にすること