• (左上挿図)XRISMで精密測定されたSMBH周辺からのX線の「色」。白と青のデータは、XRISMに搭載された異なる観測装置による結果。一般相対性理論の効果で波長が引き伸ばされ、X線の色が変化していたことが突き止められた。(右上挿図)グローバルミリ波VLBI観測網による波長3mm帯で得られたジェットの画像。(背景)爆食いのSMBH周辺の想像図。冷たく平たいガス円盤がSMBH半径の約20倍の地点で途切れ、灼熱のプラズマ流に姿を変え、その内側からジェットが形成されている (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    (左上挿図)XRISMで精密測定されたSMBH周辺からのX線の「色」。白と青のデータは、XRISMに搭載された異なる観測装置による結果。一般相対性理論の効果で波長が引き伸ばされ、X線の色が変化していたことが突き止められた。(右上挿図)グローバルミリ波VLBI観測網による波長3mm帯で得られたジェットの画像。(背景)爆食いのSMBH周辺の想像図。冷たく平たいガス円盤がSMBH半径の約20倍の地点で途切れ、灼熱のプラズマ流に姿を変え、その内側からジェットが形成されている (出所:東北大ニュースリリースPDF)

銀河中心の大質量ブラックホール(SMBH)の近傍から光速に近い速度で噴き出す「(相対論的)ジェット」は、銀河の形成や進化において重要な役割を果たすことが知られている。しかし、SMBHがどのようなメカニズムでジェットを噴出するのかは、長年の大きな謎となっている。

東北大学、名古屋市立大学、宮崎大学、大阪大学、芝浦工業大学、一関工業高等専門学校、京都大学の7者は、地球からおうし座の方向に約4億2,000万光年離れたSMBH「3C120」(太陽の約6,000万倍の質量)を対象に、日本のX線分光撮像衛星「XRISM」(クリズム)と、世界最高峰の解像度を誇る国際電波望遠鏡ネットワークによる世界初の同時観測を実施した結果を10月20日に共同発表した。

観測により、同SMBHの半径の約20倍手前の地点で冷たい円盤が途切れ、自転エネルギーを取り出す理論から求められる、数億度という超高温のプラズマ流に姿を変えることを突き止めた。そして理論通りに、その内側からジェットが噴き出す空間構造を解明したという。

同成果は、東北大大学院 理学研究科の野田博文准教授、名市大大学院 理学研究科の秦和弘准教授、同・丸山大翔大学院生、宮崎大の榧木大修助教、東北大の當真賢二教授、阪大の川室太希助教、芝浦工大の井上芳幸教授、一関高専の川島朋尚准教授、韓国・延世大学のSoyeon Yeo 大学院生、韓国・慶北大学校のIlje Cho助教、台湾中央研究院 天文及天文物理研究所の浅田圭一副研究員、広島大の深沢泰司教授、京大の上田佳宏教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の速報系オープンアクセスジャーナル「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

巨大ブラックホールが生み出す「ジェット」の起源を探る

宇宙に数多く存在する銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍、近年では100億倍以上の「超極大ブラックホール」(Ultra Massive Black Hole:UMBH)も含む質量のSMBHが存在すると考えられている。その中には、相対論的な速度でのガスの猛烈な流れであるジェットを噴き出すものがあり、周囲の銀河の形成や進化にも深く関与している。しかし、その発生メカニズムは宇宙物理学に残された大きな謎の1つとなっていた。

有力説として、SMBHとその周囲を貫く磁場を介して、SMBHの自転エネルギーを取り出すことでジェットを噴き出す仕組みが考えられている。SMBHが高速で回転していると、周囲の磁場を巻き込む。磁場は強くねじり上げられたゴムのようにエネルギーを蓄え、それが解き放たれることで周囲のガスを超高速で押し出すことが可能になるとされる。

しかし、大量の物質を急速に呑み込む“爆食い状態”のSMBHでは、周囲から次々と集積してきた物質が高密度に押し寄せ、熱が放射によって効率よく外に吐き出されることで冷却される。その結果、物質が冷たい円盤状になりながらSMBHのきわめて近傍まで隙間なく広がるため、その物質に邪魔されて、ジェットを作るのに必要な磁場を蓄えられないと考えられてきた。そのため、「大量の物質を呑み込みながら、強力なジェットを発生させる」という大きな矛盾が生じていたのである。

そこで研究チームは今回、1年間に地球約10万個分もの大量の物質(吸い込み理論限界に迫る量)を呑み込みながら強力なジェットを放つSMBH「3C120」を対象に、XRISMと、国際電波望遠鏡ネットワークによるVLBI(超長基線電波干渉法)を組み合わせた世界初の同時観測を実施することにした。

今回の研究成果

まず、XRISMが捉えたX線の精密な分析が行われた結果、SMBHの強い重力の影響(一般相対性理論の効果)によって光の波長が引き伸ばされていることが判明した。それをさらに詳細に解析したところ、SMBHの手前(SMBHの半径の約20倍の距離)で冷たい円盤が途切れ、数億度に達する超高温プラズマ流へと変化していることが確認された。これはSMBH近傍の構造として、新たな知見となる。

同時に、国際電波望遠鏡ネットワークでジェットの形状が詳しく調べられた。今回は、史上初のブラックホールシャドウを観測したイベント・ホライズン・テレスコープを超え、米国・欧州・チリ・韓国・グリーンランドから計18局が参加するグローバルミリ波VLBIアレイ(波長3mm帯)、10局が参加する米国超長基線アレイ(波長7mm帯と2cm帯)、日本・韓国・中国から計10局が参加する東アジアVLBI観測網(波長1cm帯)の計38局にのぼる世界最高峰の望遠鏡群が結集した。

その結果、ジェットはSMBHに接近するほど細く絞り込まれており、その根元までたどっていくと、XRISMによって発見された超高温のプラズマ流のさらに内側(SMBHの直上)から噴き出していることが突き止められた。この発見により、長年のパズルが見事に解けたという。冷たいガスの円盤がSMBHの手前で途切れ、磁場を効率よく蓄えられる超高温のプラズマ流に変わっていたため、SMBHの自転エネルギーを駆使してジェットを勢いよく噴き出せる条件を満たしていることが観測的に示されたのである。

今回の成果は、アインシュタインの相対性理論にも関わる、SMBHが自転エネルギーを取り出す極限のメカニズムを解明する大きな一歩となる。今後は、XRISMや次世代のX線天文台と国際電波望遠鏡ネットワークの連携をさらに強化し、理論・数値シミュレーションも駆使して詳細に比較・検証を進めていくことで、SMBH近傍の描像の確立が期待されるとした。

また、SMBHによって駆動されるジェットは、周囲の銀河の形成や進化、宇宙の成り立ちにも大きな影響を与える。今回の研究は、SMBHが激しく物質を呑み込み、銀河と互いに影響を与えながら急成長を遂げていた「宇宙が最も活発だった時代」の謎を解き明かす上でも重要な鍵になることが期待されるとしている。