このものづくりニュースのまとめ

・オムロンが米OnLogicを6億7500万ドルで買収し、2027年1月ごろに完全子会社化へ
・北米の約2000社を中心とする顧客基盤を獲得し、北米事業での年率8%成長を目指す
・OnLogicのIPCとオムロンのPLC、センシング技術を融合し、フィジカルAIの実装基盤を構築

オムロンは10月10日付で、産業用コンピュータ(IPC)の設計・製造・販売を手掛ける米OnLogicと、その持株会社であるInterlogicを買収することで合意したと発表した。

取得価額は企業価値ベースで6億7500万ドル。1ドル155円換算で約1046億円となる。対価は現金で支払い、10月1日に完了した電子部品事業の譲渡対価を含む手元資金を充当する。

関係当局による承認などを経て、2027年1月ごろの取得完了を予定する。買収後もOnLogicのブランドと直接販売を中心とする事業モデルを維持し、Sean Larkin氏をはじめとする現経営陣が引き続き事業運営を担う。

  • オムロンによるOnLogic買収の概要

    オムロンによるOnLogic買収の概要。企業価値ベースの取得価額は6億7500万ドルで、2027年1月ごろの完全子会社化を予定する (出所:オムロン。以下すべて同様)

オムロン 代表取締役社長 CEOの辻永順太氏は10月13日に開催した説明会で、今回の買収について、制御機器事業(IAB)の成長基盤を強化する投資であり、「北米の成長基盤の獲得」と「GEMBA DX基盤の構築」が狙いであると説明した。

電子部品事業の譲渡資金を成長投資へ

オムロンは中期ロードマップ「SF2030 2nd Stage」で、事業ポートフォリオの再構築と構造改革によって投資余力を生み出し、IABを中心とする13の注力事業へ集中投資する方針を掲げている。

10月1日に実行した電子部品事業の譲渡も、この方針に基づく取り組みとなる。辻永氏は、電子部品事業の持続的な発展を図るとともに、将来の成長に必要な投資力を創出し、生み出した資金を攻めの投資へ振り向けるとしていた。

  • オムロンのSF2030 2nd Stageにおける攻めと守りの経営方針

    オムロンがSF2030 2nd Stageで掲げる「攻めと守り両輪経営での再成長」。事業ポートフォリオの再構築と構造改革で投資余力を創出し、IABを中心とする13の注力事業へ集中投資する

今回のOnLogic買収は、その方針を具体化した案件となる。オムロンは2026年5月の決算説明会で、欧米を中心とする顧客基盤の拡大や、データサービスに直結するM&Aを進める方針を示していた。

買収によってIABの売上高に占める米州比率は、2026年度計画ベースの10%から、OnLogicを加えた場合には16%へ上昇する。オムロンは2030年度時点で、買収しない場合と比べてROEを約1ポイント、ROICを約0.5ポイント改善することも目指す。

売上高CAGR24%、営業利益率22%の成長企業

OnLogicは2003年に米バーモント州で設立されたIPCメーカーで、従業員数は301人。2025年度の売上高は1億5400万ドル、営業利益は2400万ドル、営業利益率16%だった。

2026年度は売上高2億5500万ドル、営業利益5600万ドルを見込む。2020年度から2026年度までの売上高の年平均成長率は24%で、営業利益率も13%から22%へ上昇する見通しだという。

  • OnLogicの2020年度から2026年度までの売上高と営業利益の推移

    OnLogicの売上高と営業利益の推移。2020年度から2026年度見込みまでの売上高CAGRは24%で、営業利益率は13%から22%へ上昇する見通し

同社の強みは、CPU、I/O、通信機能、筐体などの標準モジュールを組み合わせる設計方式にある。100万通りを超える構成から、顧客の用途や設置環境に合わせたIPCをセミカスタマイズで提供できる。

標準品を代理店経由で大量販売するモデルと、完全オーダーメードで個別対応するモデルの中間に位置し、顧客へ直接提案する直販比率は95%。多品種少量生産を組み合わせ、最短2日で製品を供給できる体制を構築している点を特長としている。

  • OnLogicのモジュラー設計と直販モデルおよび多品種少量生産体制

    OnLogicの競争力を支えるビジネスモデル。100万通りを超えるモジュラー設計、95%の直販比率、多品種少量品を最短2日で供給する体制を組み合わせる

AIの普及に伴ってGPUやNPUを搭載したエッジコンピューティングの需要が拡大する中、用途に合わせて演算デバイスを選択し、世代交代へ素早く追従できる設計思想も成長を支えているという。

約2000社の北米顧客を一度に獲得

OnLogicは世界で約5500社の顧客を持ち、このうち約2000社が北米のFA分野に属する中堅企業となる。

売上高の業界別構成はFAが35%で、残る65%はデータセンターが18%、インフラが14%、エネルギーが8%、その他が25%。特定の産業へ依存せず、複数の成長市場に顧客基盤を広げている点も、オムロンが評価した要素となる。

  • OnLogicのグローバル顧客数と業界別売上構成

    OnLogicは世界で約5500社、うち北米FA分野で約2000社の顧客基盤を持つ。売上高の65%はデータセンター、インフラ、エネルギーなどFA以外の分野が占める

オムロンの北米IAB事業は2026年度に売上高460億円を計画しているが、顧客層はグローバル大手が中心で、中堅企業への接点は十分ではなかった。

OnLogicの買収によって、オムロンが独自に構築するには長い時間を要する約2000社の顧客接点を一度に獲得できるようになる。OnLogicの顧客へオムロンの制御機器やセンシング機器を提案する一方、オムロンの顧客へOnLogicのIPCを提供するクロスセルを進め、北米事業で年率8%の成長を目指す。

将来的にはFAに加え、データセンターの電力・冷却設備の監視制御、交通・通信インフラの状態監視と保全、再生可能エネルギーや蓄電拠点の遠隔監視・制御へも事業領域を広げる考えだ。

ただし、FA以外の市場については現時点の事業計画に織り込んでおらず、まずデータセンター分野で両社の製品を組み合わせた概念実証を行い、その成果を別の分野へ展開する方針としている。

  • OnLogic買収による北米事業の成長とフィジカルAI実行基盤の構築

    OnLogic買収の戦略的意義。北米事業の年率8%成長と、PLC・IPCの融合によるフィジカルAI実行基盤の構築を目指す

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PLCを「脊髄」、IPCを「大脳」として融合

オムロンが買収によって得るもう1つの事業基盤が、製造現場で大量のデータを処理するIPCである。

具体的にオムロンでは、自社が強みとするPLCを設備をミリ秒単位で正確に動かす人間の「脊髄」、IPCを膨大なデータを高速に処理して分析・判断する「大脳」として表現しており、それぞれ独自に進化してきたPLCとIPCは、製造現場での連携が十分に行われてこなかったと指摘。OnLogicのIPCとオムロンのPLC、センシング機器を組み合わせることで、現場で得たデータを解析し、その結果をリアルタイムに設備制御へ反映することが可能となり、より高い歩留まりを短時間で達成することが期待できるようになることが期待されるとする。

  • IPCを大脳、PLCを脊髄に例えた役割の違いと産業エッジ市場の成長予測

    膨大な情報を処理・分析するIPCを人間の「大脳」、設備をミリ秒単位で正確に動かすPLCが「脊髄」のイメージ。産業エッジコンピューティング市場は2026年度から2031年度まで年平均約13%で成長する見通し

半導体製造を「作ってから改善」から「作りながら最適化」へ

IPCとPLCを活用する産業エッジコンピューティング市場は、フィジカルAIの普及によるデータ処理量の増加、リアルタイム処理需要の拡大、IPCの高機能化を背景に、2026年度から2031年度まで年平均約13%で成長することが期待されている。そうしたPLCとIPCの融合効果が期待される分野の1つが、先端半導体の製造装置だという。

半導体の微細化や3D化が進むと、ウェハや材料の状態、装置内部の機構の劣化といったわずかな変化が、品質や歩留まりをこれまで以上に左右することとなる。

従来の歩留まり改善作業においては、工程終了後に品質や歩留まりを確認し、設備データから原因を推定してプロセス条件を調整していた。このため改善した条件を反映できるのは、数時間後や翌日、次のロットとなる場合となっていた。

PLCとIPCの連携が進めば、ウェハ、材料、装置の状態を製造中にリアルタイムで収集・解析し、最適な条件をPLCの制御へ反映することが期待できるようになる。結果を確認してから人が調整していた運用を、製造しながら継続的に最適化する運用へ変えることで、早いタイミングでの歩留まり向上につなげる狙いだ。

  • PLCとIPCを活用した先端半導体製造装置のリアルタイム最適化

    先端半導体製造におけるPLCとIPCの連携イメージ。工程終了後に結果を確認して次ロットへ改善を反映する方式から、ウェハや材料、装置状態をリアルタイムに解析し、その場で制御へ反映する方式へ移行することを狙う

オムロンは、PLC単独で高速・高精度に制御する現在を「レベル1」、PLCとIPCによって人が定めた条件の範囲内でリアルタイムに最適化する段階を「レベル2」と位置付ける。

さらに「レベル3」では、PLCとIPCにAIモデルを加えることで、品質や安全といった定義された条件を守りながら、想定外の材料変動や装置劣化にも自動で対応し、AIが新たな改善策を導き出すといった自律型の製造現場を目指すとしている。

  • センシング機器とIPCとAIモデルとPLCを組み合わせたフィジカルAIの実行基盤

    オムロンが目指すフィジカルAIの実行基盤。センシング機器によるデータ取得、IPCによるリアルタイム解析、AIモデルによる判断、PLCによる高速・高精度制御を循環させる

「箱」にこだわらずソフトウェアPLCも視野

フィジカルAIの実行基盤では、PLCとIPCを個別のハードウェアとして提供することだけにこだわらないとする。背景には、欧州などでソフトウェア・デファインド・オートメーション(SDO)やソフトウェアPLCといった動きが出てきていることがあり、あくまで顧客のものづくりの現場で成果を発揮するために何が必要かが軸にあることを強調しており、現在の箱型PLCを守ることが目的ではなく、顧客起点の考えで、生産の成果を高めることを重視しているとする。

そのため、OnLogicと共同で開発していくシステムとしては、センシングによって現場からデータを収集し、IPC上のAIなどで分析・判断し、その結果をPLCの制御へリアルタイムに戻すという流れは変わらないものの、PLCとIPCの機能をどのようなハードウェア、ソフトウェア構成で提供するかは、顧客の用途に応じて決めていくとしており、共同開発チームを早期に立ち上げて2030年までの中期ロードマップ後半でフィジカルAIへつながる製品・基盤の具体化を目指すとしている。

2030年度に売上高4億ドル以上へ

オムロンは、OnLogicの売上高を2026年度見込みの2億5500万ドルから、2028年度に3億ドル以上、2030年度に4億ドル以上へ伸ばす計画を掲げるほか、2030年度には、無形資産の償却費を除く営業利益率を24%以上へと高めることも目指す。

  • OnLogicの2026年度から2030年度までの売上高と営業利益率の目標

    OnLogicの売上高を2026年度見込みの2億5500万ドルから2028年度に3億ドル以上、2030年度に4億ドル以上へ拡大し、2030年度の営業利益率24%以上を目指す

成長ドライバーとして、OnLogic単体の持続的な成長に加え、両社の顧客基盤を活用したクロスセル、PLCとIPCを融合した新製品の共同開発を挙げる。

短期的には北米でのクロスセルを進め、中期的にはPLCとIPCの融合による新たな価値を提供していくことで、OnLogicが培ってきた顧客に寄り添うことを重視した経営、直接販売、モジュラー設計思想、多品種少量生産の強みなどを維持しつつ、オムロンの制御・センシング技術を加えることで、成長を加速していきたいとのことで、買収を通じて、北米顧客と販売基盤を獲得するとともに、工場設備を正確に動かす企業から、現場データを基に設備や工程を継続的かつ自律的に最適化する企業への転換を進めていくことを目指すとしている。