理化学研究所(理研)、早稲田大学(早大)、東京大学(東大)の研究チームは12月23日、接着剤を用いずに高分子フィルム上に成膜された金同士を電気的に直接接続する技術「水蒸気プラズマ接合」の開発に成功したと発表した。
同成果は、理研 開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員(理研 創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム 専任研究員)、同・染谷隆夫主任研究員兼チームリーダー(東京大学大学院 工学系研究科 教授兼任)、早大大学院 創造理工学研究科の梅津信二郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)の学際的なオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
皮膚や洋服に貼り付けて使用する次世代ウェアラブルデバイスの実現に向け、有機半導体の研究開発が進められている。例えば、生体継続モニタリング向けウェアラブルデバイスでは、個々のセンサや電源の高性能化とともに、複数の素子を集積化できる配線技術や実装技術が必要となるが、そのためには導電性を維持しつつデバイスの柔軟性を損なわないだけの低い剛性の実現、そして低温プロセスでの配線が求められる。
しかし、従来の電子素子同士の配線には、導電性接着剤層を介する必要があり、その接着層の厚みによって接合部の剛性が増加するという課題があったという。
そうした中、研究チームは、2μm厚の高分子材料パリレン基板上に蒸着した金電極(表面粗さRMS=約7nm)に対して、水蒸気プラズマを照射し、大気中で金電極同士を接触させることで、金属結合が生じることを発見。この接合方法を「水蒸気プラズマ接合」(WVPAB)と命名したとする。
WVPABで接合された金電極の断面を調べたところ、上下別々の基板上に蒸着された2つの金電極の一部がWVPABによって一体化(境界線が消失)されており、強固に接合していることが確認されたほか、従来接合手法の異方導電性テープ(ACF)で接合した薄膜サンプルとの接合部の柔軟性に関する比較から、ACF接合では最小曲率半径が1mm以上であったのに対し、WVPABでの最小曲率半径は0.5mm未満であることが確認され、接着層がないことによる高い柔軟性が確認されたとする。
また、曲げ半径2.5mmで1万回繰り返し曲げた後でも、電気抵抗の変化は1%未満であること、ならびに大気中において100℃で500時間加熱しても電気抵抗の上昇が観察されないどころか、金属同士の結合が促進されることで、電気抵抗が8%減少することが判明するなど、機械的耐久性と熱安定性に優れていることが確認されたともする。
超薄型のフレキシブルエレクトロニクスの集積化デバイスへの応用実証としては、約3μm厚の薄型有機太陽電池と薄型有機LED、複数の薄型配線を、WVPABで相互接続することに成功。素子や基板への損傷もなく、実際に太陽電池が発電した電力で有機LEDが発光することも確認したという。
なお、今回の研究では金電極とパリレン基板を対象としたが、同技術はプラズマ条件や接合用電極の表面粗さRMSを調整することで、幅広い素材に対応できる汎用的な集積技術となる可能性があるとしており、研究チームでは、次世代ウェアラブルデバイスにおけるフレキシブル接合の実装につながることが期待できるとしている。